15 悪女

私はお客さんの両手を繋いだ


こうすると、ほら、触られないし、お客さんは手を繋げていることに満足するでしょ?



安キャバで編み出した、お触り客の対処法



お客さんは手繋ぎでうきうきして話をしている


はあ、触りたいならお触りパブでもいきゃーいいのにさ…風俗だともっといいことしてもらえるぞ

なんでキャバで触ろうとするんだか…



心の中でぼやいていると、入り口から由美さんが現れた


慌てた様子で更衣室に入っていった


なんだ、遅刻か…


変な安堵感が体を駆け巡った




給料日の締め日で由美さんには負けられないからさ



私はなんとしても彼女を負かさないとならない



そうして、ゆきさんの座を奪い、ミスティックの嬢王になるんだ



こんなとこで、二の足踏んでる場合ではないのだ



幸せは来るものじゃなくて、自分で掴みとるもんなんだよ



「麻衣さん、ご指名です」


店長がニコニコとウィンクしてきた


やめろバカ何キャラだよ



しかし助かった、このお触り野郎から逃れられる



私は適当にあやして席を抜けた




席をヘルプの子に任せる


「お願いします」



私はいつもヘルプの子に任せるときは、その子に挨拶をしてから抜ける


私がいない間、よろしくって意味と、ヘマするなよって念を込めて



ヘルプに入った女の子は、以前若者の団体に一緒に着いた時の3人のうちの1人だった



ぶすっと無視をされて、席に着いた


こんにゃろう…


私はムカついて歯軋りをした


よりによってお前かよ…

ヘルプ大丈夫かな…心配だよ…



私は指名されたよっちゃんの席に着いた


相変わらずチンピラみたいでガラが悪い


ライターを弄びながら、つまらなそうに水割りを飲んでいた




私は時間が経って小さくなっていた氷を灰皿に捨てると、新しい氷を足した



グラスは水滴が付いてびしゃびしゃだ



ヘルプの子はなにをやっていたんだろう

喋るのも大事だけど、一番に仕事をこなして欲しい



「今日締め日だろ」


よっちゃんは店のからくりに詳しい


「そうだよ」


私は自分の水割りも作りながら答える


ミスティックは田舎だし、罰金もノルマもない

まして都会みたく売り上げ制じゃなく、指名ポイント制だから、締め日に罰金で怯える心配もないし、心配なのは遅刻や当欠などの罰金だけだ


強いていうなら締め日で給料が決まるから、あと何ポイントでお給料が上がる、とかになると、締め日のポイント稼ぎは重要になる




「後何ポイントなんだ?」



「今回はあと7かな?」



「ふんっ、麻衣ならあと一時間くらいいりゃあ、なんとかこなせるだろ」



「もーう、よっちゃんてば…私そんな稼げてないよ!毎日必死だからね!」



「はいはい、今も指名かぶってるだろ、いっぱい稼げよ」



「またそういう事いって…私はよっちゃんが一番大切なんだから…こうやってお店の仕組み理解してくれて、来てくれる人なんかよっちゃんしかいないよ…後は面倒くさい人ばっか」



まあよっちゃんもだけどね…みんな素直に私に従ってくれればいいのにさ

店のからくりを、さも知った風で来るよっちゃんに時々むかつく…


「だからよっちゃんの席は一番安らげるんだ…」



「…まあ俺の席は休憩だからさ、羽根休めろよ」



だけどこうやって、キャストを気遣う優しい自分、っていうよっちゃんの自己満を持ち上げて、優越感に浸らせてあげると満足してくれるから、多少の文句にも目を瞑ってやるのだ



往々にして金使う奴は面倒くさい奴しかいない

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