13 悪女
口ではキャバクラが、ちゃんとした仕事だって言ってるけど
本当は
世間では、まともな仕事じゃないと知ってるから
水商売で一生骨を埋める覚悟ならともかく、若さだけを売りにして、楽に稼いで、楽をしたいってだけで働いてる、将来的に履歴書にも書けない仕事だと知ってるから
言ってることは矛盾してるけど、両方の気持ちがわかるから
ようはメンツだメンツ
水商売っていうだけで世間のイメージは悪い
それを友達や親に言ってバカにされたくないから
友達や親の前ではいい人、いい子でいたいから
どうしてそんな、ちっぽけなプライドを守りたいのかわからないけど
一番身近で大切な親や友達に、いい人で見られたいのか知らないけど
将来どうしたいのかわからない
どうなりたいのかもわからない
明日が見えない
暗闇だ
翌日、出勤していると、後ろからクラクションの音がして振り返った
黒いBMWの助手席に乗ってる由美さんが窓を下げてにかっと笑った
「麻衣さんおはよっす!」
クチャクチャとガムを噛みながら、行って、と隣の男に指図すると由美さんを乗せたBMWがうるさい音を立てて去って行く
隣の男は前にフリーで着いたガテン系の若いちんぴら風情で、よっちゃんではなかった
店に着くと一足早く由美さんは同伴で来たらしく、更衣室で他の女の子と喋っていた
「そうそう、さっき一緒にBMWでゆうくんと来て!何も手出ししないし、たまに店来てくれるし、送迎だったら毎日してくれるから送り代とか電車代が浮くからまじ使える奴っすよ!」
「えーお客さんとプラベまで一緒で嫌じゃないの?」
「よゆーっすよ!ゆうくんはそんなこと出来る奴じゃないし、つかさせないしっ!由美のこと好いてくれてるから下手なことはしないっすよ、絶対」
にやにや笑う由美さん
私は真っ黒なスーツに着替えた
漆黒の色
闇の色
悪い、女の色
カバンの隅に汚い紙の切れ端を見つけると、携帯を取り出してメールをした
直ぐ様受信する
「やっと興味持ってくれたのか、麻衣!取り敢えず、2人きりで会おうよ」
興味?
違うな
私の場合、利用するんだ
よっちゃんに、幸せな夢を見させるために
私は嫌いだ
由美、あんたが
最初からいけすかない奴だと思ってたけど、やっぱりいけすかない奴だった
最近癪に障る行動ばかりとって、鼻についていたんだよね
よっちゃんが今から来るというので暫く待っていると、12時前にひょっこり現れた
「…ま…麻衣さん指名だって…」
店長は由美さんを見ながら動揺している
私は澄まして、はあい、と言ってよっちゃんの席に着いた
「よう…、麻衣」
よっちゃんはちらちら由美さんの様子を伺っていた
由美さんはこちらの様子に気付いていたが、お客さんの会話に集中しているのか、目は合わなかった
「こんばんは」
私は笑顔でよっちゃんの席に着く
「…指名ありがとう…でも…由美さんじゃなくていいの?」
わざとらしくよっちゃんに聞いた
「別に今日はいいよ、麻衣からメールもらってたし、それに最近…」
そこでよっちゃんは少し陰りのある表情で視線を落とした
「あいつ仕事が忙しいだろ、売れてきてるみたいだしさ、前と違って全然プライベートで遊べなくなったし…」
哀れな男よ
それは営業だからだ
中途半端な色恋かけるから、こういうかわいそうな奴があらわれるんだよ、由美さん
甘い、爪が甘いよ
私だったら徹底的にやってあげる
色恋だって気付かないくらい完璧にね
ま、めんどくさいからやんないけど
それとも、そんなこと考えられないくらいの頭なのかな?
いかにもバカそうだもんね
ふふ…
ああ、私はいつの間にか人を見下しているよ
悪い女になってきている
今まで罵られてきたのに、今は自分が罵っている
人は、優越感に浸りたい生き物だ
自分の理想と、欲の為に手段を選ばない、醜くて、浅ましい、汚いものなんだよ
私はそんな自分がたまらなく大好きだ
だって私は批判されても、何を言われても負けない美貌と、運を持っているから
もっと僻みなよ
お客さんを取られて、悔しいよね
自分の才能がないことを憎むといい
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