11 悪女
私には夢がない
一応目標は、ゆきさんを負かしてみたいというのはあるけど、4年もナンバー1なんだ
一筋縄じゃいかないだろう
でもそれから?ゆきさんを負かした後は?
というか将来なりたいものがわからない
何に自分は向いてるのかとか、合ってるのかわからない
この仕事をして店を持ちたいとかはないし、一生続けることも出来ない
この仕事を続けるメリットは私に一切ない
やりたいことがないからただ流されているだけ
楽に稼げるから惰性で勤めているだけ
私には守るものや養うものがない
築き上げてきたものがないから
だから真剣に水商売やってる人は、なんてだらけてるやつだとか、家族や生活のためにしている人から見れば、だったら辞めちまえよと思われるだろう
私は久し振りに麻衣、いや愛の声が聞きたくなった
自分から切望したのは初めてかもしれない
時刻はもう0時まわっていた
ああ…こんな時間にかけるのは失礼かもしれない
普通の人間とサイクルが逆転しているのを忘れていた
私はメールにすることにした
「久し振り、元気?最近会ってないから会いたいね、また連絡します
夜遅くごめんね 麻衣」
メールを送信してほどなく、電話が鳴った
…愛からだ
「もしもし…」
「メールありがと!嬉しくて電話しちゃった」
愛の声は弾むようにはきはきとして、表情が声音で想像出来そうだった
「メールで起こしちゃった?」
「ううん、大丈夫だよ、仕事今終わって、寝る支度してただけ」
「えっ!仕事始めたんだ」
「うん!キッチンで簡単な調理の仕事してるの、っていってもバイトに近いけどね…ああ来月は専門の試験だよ~」
「専門?なんの?」
「えっ?調理師学校だよ~やっぱ私には調理しかないっていうか…他に出来ることがないし」
「そか…」
「愛はどう?最近」
「えっ!?私?」
私…
私は…
「仕事ってか私もバイトはしてるよ!勿論当たり前じゃん!それでお金貯めて将来は医療事務の仕事したいなあとか思ってるんだ!」
「へえすごいね、愛の将来のこと初めて聞いたかも…バイトって何してるの?」
「えっ?い…居酒屋!」
咄嗟に嘘を吐いた
「そうなんだ~深夜だからお金たまりそうだね!」
「ま、まあね!接客業だから大変だけど、時給はいいし、遣り甲斐はあるよ!」
それは本当の話なので饒舌になる
「ふうん、えらいね!
愛は昔から、将来の成りたい職業とかやりたい仕事の話って話してくれなかったじゃん?」
それは、やりたい仕事が、なりたい職業がなかったからだ
「でも将来やりたい仕事があって、それを私に伝えてくれて…なんか自分のことのように嬉しいよ」
ズキン…
私の良心が痛む
「麻衣は?最近どう?いい話聞かせてよ~!」
私は話題をそらして、麻衣に質問し返した
「ええ~…うーん、最近ねえ、彼氏が出来たんだ」
彼女の声は照れ笑いしていた
電話越しでもその表情が見て取れる
「彼氏…?」
「えへへ、うん、そう」
「あ、そうなんだ、なんだみずくさい!そういうのは早く言ってよー!やだーうちら親友じゃん!」
「うん、今度2人で横浜までデートするんだ…リア充やねっ」
麻衣はふざけて笑っていた
「愛は彼氏出来た?」
「いや~なかなかいないね…」
「愛ならすぐ出来るよ!」
「ありがとう…あ、明日早いからまたね!」
「あ、わかった、またね!」
電話を切って脱力する
みんな、離れて行く
チェンジして、私と同じスタートラインに立っていたはずなのに
いつの間にか、麻衣は仕事をしていて、専門学校にも行くつもりらしい
さらには彼氏までも出来ている
みんな進んでる
私だけスタートラインに突っ立ったままだ
それ以上考えるのが怖くなって止めた
足早に帰宅して、部屋に入ろうとするともう12時を回ってるのに麻衣の母親がリビングからすっ、と出てきた
「麻衣、話があるからリビング来なさい」
麻衣のお母さんの冷たい声が響く
「…はい」
私は香水とタバコの匂いを漂わせたまま母親に着いていった
リビングの中央にあるテーブルに向かい合って座る
母親は目頭を揉むとため息を吐くように言った
「麻衣、いかがわしいお店で働いてるでしょ?」
「…お母さんには黙ってたけど…私居酒屋で働いてるの、いつまでも何もしないわけにはいかないから…」
嘘をついた
麻衣の母親に真実なんかくそ真面目に答えたら卒倒してしまうかもしれない
私なりの優しさだ
「…学校はどうするの?」
休学していた学校か…
「辞める…」
勉強なんかくそくらえだ
第一栄養士の資格なんかいらないし
「じゃあこの先どうするの?どうやって生計立てていく気?」
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