9 悪女

こんな書き込み、普通の子がされたら泣いちゃうか辞めちゃうだろう



だけど私は慣れている



陰口悪口、ブサイクな愛の時に散々言われてきたからね

免疫がついてる



何を言われようが気にしない


まあそれには根拠があるからだけどさ



昔の悪口と今の悪口とで決定的に違うのは、その悪口に妬みが入っていること



それが根拠がある何よりの証拠



みんな羨ましいんだよ、今の私が



何もしないで、店長やお客さんに好かれている、美貌が



私はずっとずっと



そうされてきた麻衣になりたかった



そして今、やっと手に入れようとしている




だからって何もしてないわけじゃないけどね



「麻衣さん、ご指名でーす」



「わあ嬉しい、来て頂いたんですねえ~!」



こないだフードやドリンクを振る舞ってくれたおじいちゃんだ


こうやって指名を初日にくれなかった人も、きちんとメールすれば指名で来てくれる

努力しないでなまけてるわけじゃない


だけど最近気付いたことがあるんだ




この業界で生きるには才能と運と努力がなきゃダメだ



まあこの業界に限ったことじゃないけど、でもこの世界はそれが顕著でシビアだと思う



全部揃ってれば無敵だけど、そんな子極一部


美人で売れなきゃ喋りで売って、それでもダメなやつは歌うか飲むか出来なきゃ、キャバ嬢辞めて普通の昼間の仕事をしたほうがまだマシだ



私は美貌を手に入れて更にそれをひしひしと肌で感じるようになったね


そして今、店長に気に入ってもらって運もついてきた



可愛くない、運もない、飲めない歌えない平凡な頃の私が売れなかった理由が、今は明白にわかる



今の私ならこの業界で上手く渡れていける


あの時、ゆきさんがブサイクな頃の私にロッカールームで言っていたセリフが、今では理解できる


この世界は才能と運と努力、実力社会なんだ

キャバ嬢は特に


つまりそういうことなんだな



私はあと努力をつけて、お客さんを上手く転がして…ふふ


なんだか愉快だ


楽しくなってきた



追い風が吹いている


このまま、ゆきさんも追い抜けるかもしれない



おじいちゃんの席でたらふくフルーツを平らげると、席を抜かれた



「麻衣さん、よっちゃんの席から場内が入りました」



指定された席を見ると、いつかのキープボトルを飲んでいたチンピラ風情の由美さん客だった



隣で由美さんが笑顔で手をこまねいている



それに気付いて、笑顔を作って席に向かう




「じゃあ私行ってくるね~」


「えーやだあ」


「もーそういう事言わないでよ!すぐ戻ってくるからあ~」


そう言うと、由美さんはよっちゃんとハグをしてするりと抜け、別卓の席でまた違う客とハグして会話に入っていった

よっちゃんからは見えていない


危なっかしいスキンシップだ



「由美最近忙しいの?」



よっちゃんのセリフで我に返る



「えっ、今日はたまたまですよ」



咄嗟に当たり障りないことを言って誤魔化したが、最近由美さんが忙しいことは、よっちゃん本人が一番感じているはずだ



「…由美さんはよっちゃんといる時が一番楽しそうですよ、なんか素直っていうか、由美さんらしくいるっていうか…多分よっちゃんが由美さんにとって癒される存在なんだと思いますよ」


「そうか~?」



半信半疑な返事ながらも、よっちゃんは照れたように頭を掻く



ふう、面倒くさい奴…


なんで私が気を遣ってフォローしなきゃなんないんだよ…ちゃんと手なずけておいてよね…


こんなんで場内なんかいらないし



私は面倒くさい客が一番大嫌いだ



色恋してまで客を取りたいとも、留めておきたいとも思わない

そんなんで離れる客なんかたいした客でもない


私は私の言う事を聞いて従ってくれるお客さんしかいらない


本気で水商売をしてるわけでもないし


そこまで、やる気もない



まあ、あからさまにそんな態度は人のお客さん、しかも場内とはいえヘルプの立場では出さないけどね



そんなことを思っていると、よっちゃんが妄想から現実に引き戻す


「麻衣は彼氏いるの?」



「えっ、いない…っていうか募集中です」


咄嗟に愛想笑いをした


「えー嘘だろ~!こんな美人で可愛いのに」


「お世辞ありがとうございます」


「いや本当だって!あ~あ由美やめて麻衣にしようかなあ~…」


「由美さんに怒られますよ」


笑ってかわしていると、よっちゃんは急に耳元まで寄って、囁いた

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