8 悪女

「あ、麻衣さんいたいた、あそこ常連さんだからちょっと一杯行ってきて、とってもいい人だから」



人の良さそうなおじいちゃんの席に着く



「なにか好きなものをどうぞ」


「たくさん食べて下さい」



おじいちゃんはニコニコしながらドリンクやフードを勧めてくる



なんだか和む


さっき若者の席に着いたから余計に感じる



しっかりとアドレスを交換して席を立った



そうして、今日もミスティクの夜は更けてゆく



麻衣さんご飯行かない?、という空気の読めない店長を今日もふわりとかわして家路に着く



最近帰宅が朝方だ



明るくなりはじめた朝日を無視してベッドに倒れこむ


今日は朝から同伴もあって疲れた



ゆっくり眠りたい…



世間と生活サイクルが日に日に逆行している



愛だった頃は早あがりさせられていたから、そんなに乱れていなかった



長く働けるのは嬉しいけど、どんどん自分の時間が削られていく




翌日出勤して着替えようと、この2ヶ月で一気に増えたドレスやスーツを漁っていた時、なんだか違和感に気付いた


ドレスが…ない


それはまさに昨日お客さんに買ってもらった、定価二万円するドレスがなくなっていたのだった



どういうこと…?



私はもう一度ドレスを順番に見ていったが、やっぱりなくなっていた



昨日着て、ハンガーにかけて帰ったのは確かなんだ


そして今日出勤したら、ドレスは忽然と姿を消した



その間にドレスが消えたことになる



ただ1つ言えるのは、これは誰かが私のドレスを盗んだということだ




どうやら、このお店には泥棒がいるらしい



人の物を盗むしか脳のない卑しいやつ



ドレスを買ってもらうことすら出来ない才能のないやつ


大体、検討がつく



多分昨日の3人のうちの誰か


いや3人ともかな



ここ最近、体験入店はとっていない



なのにドレスがなくなるなんて身内の仕業に決まってる



私になんの恨みがあるか知らないけど、売られた喧嘩なら、とことん買ってやるよ



ぼろぼろになるまで潰してあげる



あたしをなめるな




私は早速店長に事情を説明した



「つまり、麻衣さんのドレスを、誰か盗ったってこと?」



「はい…」



「わかった、帰りにミーティングを開く、辛かったよね麻衣さん、ごめんな、俺の力不足で…」



「いえ…店長のせいじゃないですよ。人のものを盗む、そういう手癖の悪い人がいけないだけです、育ちが知れますね」



「麻衣さん…」



店長は慈悲の瞳で私を見つめているようだった



店長は私の味方だ



私のいうことなら何でも聞いてくれる




結果的にそのミーティングが引き金だった



店長は私を援護するようないい方をして、女の子の逆鱗に触れたらしい



次の日から掲示板はすごいことになった


店長と麻衣は風紀(^^)



店長は麻衣に贔屓しすぎwwwww



あほくさーもう辞めようかなあ…



店長の贔屓でいい席にうちらが着けない↓↓↓

麻衣辞めて欲しい



つーか新しく入ってきたのに生意気



あんなブサイクな女のどこがいいんだろ、店長(^o^;

見る目なさ杉(ρ_-)ノ


なにがwwドレス盗まれただよwww

また買ってもらえばwwww

股開いてwwww


ばんばん次から次に書き込まれる


明らかに店の子とわかる書き込み



私を援護してくれる人は見当たらない

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