6 悪女

ぐいぐいっと飲み干して、お客さんの待ち合わせに向かう


このお客さんは初日にゆきさんの相方として着いた人で、あの日の場内から私を気に入ってくれている


「こんにちは」



「こんにちは、今日も可愛いね、ボルドーのコート似合うねー」



「えへへ、ありがとうございます。実は今日ネイルもしたんです」


そう言って手の甲を見せた



「わあ可愛い、綺麗な柄じゃん、センスいいね~」



彼はファッションデザイナーらしきものをしていて、自分のお店をチェーン展開している経営者だ

最近は学校でファッションの勉強を教えているらしい



だからファッション関係にうるさい


でも服やアクセを可愛いといつも褒めてくれる


可愛いから可愛いなんて褒められるのは当たり前だ



きっとブサイクなころの私がお洒落な格好したり、ネイルをしたところで、付け焼き刃に過ぎない


根本がダメなのだから


鼻歌を歌う

今にも踊りだしそうだ



「どうしたの?ご機嫌だね」



「うん!可愛いく生まれてよかったなあって」



「そうだね、麻衣はセンスもいいしほんと可愛いよ」



可愛いくて美人な女は得だ


もう私はこの肉体を手放しては生きれない




私はブランド専門店の袋と、ドレスやさんの袋を引っ提げて堂々と同伴で店に入った



待機のみんなが気だるげに立ち上って、小さくいらっしゃいませと言う



私も向こう側だった

前までは


自己嫌悪と羨望の眼差しで同伴の子を見つめてたもんだ



でも今は同伴が当たり前になってきた



店に連れていくまでプライベートな時間を割くからストレスは溜まるけど、その分の報酬が得られている



それすら満たない客が、痛客やクソ客に成り下がっているんだろう



そしてそんな客でさえ捕まえられない哀れな万年待機キャストが、掲示板で悪態を吐く




本日も麻衣ちゃん枕同伴\(^O^)/



っていうか、麻衣色恋しまくりでしょ!?



調子乗り過ぎだよね↓↓↓(-_-メ)



この店で可愛い子は麻衣くらいだよー



↑あんた目、ついてないでしょ?



自作してまで人気がほしい麻衣ウケる!

鏡見てみなよwブスwww




同伴も営業も出来ないから客呼べないくせに



私よりブサイクなくせに


掲示板でしか吠えられない哀れな奴



正々堂々と私と戦ってみろよ



勝てないくせに






私は戦利品のバックの買い物袋を、周りに見えるようにぶら下げると由美さんがやってきた



「わあ~ブランドすね!何買ったんすか!?」


私たちの前の席に座ると、わくわくしながら袋を見つめた



私はお客さんをたてるように水割りを作りながら話す



「今日は出会った丁度3ヶ月記念日だからってこんないいカバン買ってくれたの」


私は袋からカバンを出した



「彼、月の記念日にはお祝いごとがしたいタイプだから…。私にはこんないいものもったいないって言ったんだけど…」



「わあヴィトンじゃないすか!記念日にプレゼントとか麻衣さん愛されてますねー」


由美の太鼓持ちも手伝って、お客さんは上機嫌だ




「じゃあ着替えてきます」


由美さんに席を任せて、更衣室へ行く



中では数人が着替えていた。私に気付くと奇声を上げて群がる



「おはようございます麻衣さん、わあー!これブランドショップの袋ですよね!?」



「そう、お客さんに買ってもらっちゃった」



そういってネヴァーフルを見せびらかす



「すごーい!高そうなカバンだあ、うらやましい~!私なんかブランドのカバン買ってくれるお客さんいないよー!」


みんながヴィトンで盛り上がってる最中に更衣室にゆきさんが入ってきた



「おはようございます」



挨拶を返したゆきさんはシンプルなデニムに白黒のニットガウンをはおってクールな装いだった


ただカバンだけは深紅の色で、カバンが目立つコーディネートをしていた


無造作にそれを置くと直ぐに着替え始めた


女の子たちは私の戦利品に夢中になってまだ騒いでいたが、ゆきさんはそれを一瞥しただけでまた着替えに没頭した



「あれ?よく見たらゆきさんの今日のカバン、クロエですね」



ヴィトンの話題で盛り上がってた一人が、ゆきさんの無造作に置かれたカバンを見て言った


「うんー、そうだよ」



「やっぱクロエのコロンとしたオーソドックスな形のやつは一番可愛いですね!」



女の子たちの話題はいつの間にかクロエになっていた



ゆきさんのカバンがクロエだなんて知らなかった…


ってかクロエなんか香水しか知らないよ


カバンなんかあったんだ

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