3 悪女

その週の休日、私は由美さんとドレス屋さんにいた



「うーん、麻衣さんは顔が玉子型で可愛いタイプだから、ピンクとか淡い色のドレスが似合うすね~」



ファッションアドバイザー並みに意見を述べながら、私にドレスをあてがう



最初の出会いこそ印象が悪かったが、話してみたら意外とさばさばしていて、それでいて私には割とよく話しかけて懐いてくるので、気付けば親しくなっていた



「これ!これ可愛い!」



散々試着したのに、結局ぱっと見ただけのドレスが可愛いと言うのでそれを試着した



着替えて鏡を見る



シフォン生地の、ベビーピンクの淡い色に主張しないくらいのパールとビジューがちりばめられている


可愛い…



そっと値札を巡ると2万円と書かれていた


高いけど買えなくはない



私はそのまま試着室から出てお披露目をした



「わあ!やっぱり可愛い!」


「お似合いですね」


由美さんと店員さんが賞賛する



決めた


「じゃあこれ頂きます」


「ありがとうございます」



初めて、自分のドレスを買った


今までこんな大金で買い物したのはコーチのお財布を買った以来だ

しかもアウトレットで



服で二万するのなんかもってなかったし、いつも工場とミスティックと家の往復だったから、どこで買ったかも覚えていない安く買った首のよれたをシャツを着回してた




お店で働いてから、以前なら尻込みしていたちょっと高い買い物も最近は気にならなくなっていた



それは、愛の時より断然稼げているという理由もあるが、やっぱ心の余裕が生まれたからだと思う



貧乏臭いものに囲まれていた愛の時より、麻衣になってから実家は勿論裕福な家だから環境が違うし、お客さんには気に入ってもらえるし、やっぱ美人は得だなと身を持って知った



なんだか生まれ変わったみたい



やっぱり世の中顔だよ、顔



美人が得をするように出来てるし、世間がそうさせたんだ



なんだかんだ、ブスな女より、美人な女の方がいいに決まってるんだから



男ってホントバカで単純でしょーもない生き物






お粉をはたいて、新しく買ったイヴ・サンローランの真っ赤な口紅を塗った


ウォークインクローゼットを開き、部屋着から私服に着替える



よし、今日はスーツで行こう



これは以前麻衣が自分で買ったであろうハイヒールを拝借した



そこで、麻衣の母親がリビングから出てきて眉間にシワを寄せた



「麻衣ちゃん、最近夜に出かけてるけど何処に行ってるの?帰りは夜中に帰ってくるし」



私は心の中で舌打ちすると、ぶっきらぼうに返事する



「彼氏とデートです」



「そんな夜中に遊ぶ彼氏はまともな人なの?」



麻衣の母親は怒りながらも心配しているようだ


どこんちの親もわずらわしいのは変わらない



「夜中に遊ぶ人がみんな悪い人だってのは思い込みだよ、仕事が遅くて夜にしか会えない人だっているじゃない、そういう職業差別はやめた方がいいよ!」


私は言い切ると家を出た



「麻衣!」



扉の向こうから私を呼ぶ声だけが後を追う



私は歩いて駅まで向かった



なんか最近麻衣のお母さんもわずらわしい…


一人暮らししたいな…


そんな思いで最近よく来るお客さんに相談する



「大体50万くらいでワンルーム住めるよ、この辺ならもう一部屋くらい付くかもな」


そうなのか…


一人暮らしするにもそんなに頭金が必要なのだな


それで、また家賃何かが発生するからお金貯めなきゃ無理だ


実家暮らしはバイト代全部自分で使えるけど、一人暮らししたらそうは行かなくなる…でも親がわずらわしい…


出口の見えない迷路のようだ


ああ、考えるのがめんどくさくなってきた




「俺と2人暮らしでもするか?」


ヤニ臭い息を吹き掛けながら、お客さんが肩に手を回してきた



「ワンルームでも、割り勘して暮らしたらだいぶ一人暮らしよりは安いぞ」



はっ

割り勘!しかもワンルームだと?

笑わせんな



誰がテメーみたいな、ハゲメガネと割り勘してまで狭いワンルームに住むかよ


寧ろ金もらいたいくらいだわ!



イライラしてきて、トイレといって肩にかかってた手を払い退けた


トイレに入ると便器の上に座って、携帯をいじくる



場内や指名をもらっても、ケチくさい客ばかり



私はその中でも、私の言うことを聞いてくれる客にメールを打つ

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