2 悪女
「自分でドレス買わないんすか~?貸しドレスなんかより絶対その方が似合うのに!」
ある日更衣室で着替えているとヤンキーのような口調をした女の子に話しかけられた
振り向くと、髪の毛をポニーテールに結んで部分的にブリーチした、髪がやや傷んだ気の強そうな見た目
アイラインでがっつり黒目を囲って、尖って痛そうなつけまつ毛をつけているが、純真そうに丸い瞳があどけなさを見せてアンバランスな魅力を引き出していた
「ネットでも可愛いドレス売ってるけど、もっと可愛いドレスが売ってる店ウチ知ってますよ!」
馴れ馴れしく喋りかけてくる彼女は、刺青のような和柄の花模様ドレスをまとっていた
多分この子は自分のキャラをわかっている
他人から自分がどう映っているか知っているのだ
「あ、ウチ由美っていうんです」
その時、愛の時にヘルプで着かされた、私より後から入ったやつだと気付いた
シャンパンを気の弱そうな男と飲んでいた、こいつの顔がフラッシュバックしてきた
思い出した
「由美!指名きたぞ!」
ドンドン、と扉を叩いてそういったボーイさんの声で我に返る
「はいはいっ、あ、今度ドレス一緒に買いに行きましょうよ!」
テンション高く彼女は言うと香水を身体中に振りまくとホールに出て行った
「くっさ」
ヘアメイク中のゆきさんがしかめっ面をして、窓を開けて換気しだした
初秋の風が頬に当たる
彼女がつけていった香水は、車の芳香剤の匂いがした
ドレスに着替えてホールに出ると、ボーイさんに呼び止められた
「麻衣さん、由美の席で呼んでるから着いてくれるかな?」
由美さんの席で私を…?
なんで?
とりあえず言われた通り席に向かう
「こんばんは、お邪魔します」
そこにはいかにも、昔やんちゃしてました風のガタイのいいチンピラ男が座っていた
由美さんと何となくお似合いな感じだ
指名嬢とお客さんは似てる割合が多い気がする
「麻衣さん~!まあまあ一杯飲んで下さいよー!」
由美さんはご機嫌にキープボトルでお酒を作ってくれた
やっすい焼酎の匂いがする
緑茶で割られたそれを乾杯して飲んだ
マズい
こんな酒、こいつらよく飲めるな…
レディースグラスを舐める程度で、直ぐにお酒を置いた
「ねっ麻衣さん、可愛いっしょ!?」
「あー確かに」
二人は私を置いて会話を始めた
「今、よっちゃんに麻衣さんっていう美人さんがいるから呼んでいいって話してたの」
「そうだったんですか、ありがとうございます。でも煽てても、何も出ないですよ」
「いや、ホントすよ!あの、ゆきより全然いい!」
由美さんは別卓にいるゆきさんを睨みつけている
「こいつ、あのナンバーワンと喧嘩したんだよ」
黙って携帯を見ていたよっちゃんと呼ばれるお客さんが、そこで付け足した
そうなのか…
私が丁度いない期間に喧嘩したのかな…
「あんなババアにとやかく言われる筋合いねっつーの、ねえ、麻衣さん、うちらであいつをナンバーワンから落としてやりましょうよ!うちらならいけると思うんすよね!」
由美さんのお酒を飲むスピードがあがったので、私はこっそり水を足した
「うーん…確か彼女、もう4年くらい勤めていらして、ずっとナンバーワンと聞きましたよ」
確かに、ゆきさんをいつかは負かしたいとは思っている
だけど、まだ時期尚早な気がした
私はやんわり否定をしたが、酔って調子のいい由美さんには伝わらない
「由美さんお願いします」
由美さんが抜けて、私は、今度はヘルプのような立場になった
「まあ、そういうわけだから、麻衣も俺に甘えろよ」
よっちゃんと呼ばれる男は満足げに笑った
「今度3人で同伴でもするか!まあ、嫌なら、俺と二人きりでもいいけど!」
「わあ嬉しい、3人で同伴なんて!機会があったら是非よろしくお願いします」
最後のお客さんのセリフは無視した
私は由美さんが戻るまで普通に会話をして繋いだ
千鳥足で由美さんが戻ってきてから、私が交換で抜かれる
その時、お客さんの名残惜しそうな目に、私は気付かなかった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます