悪女
1 悪女
二人で誓いを交わしたのはよかったが、やっぱり第三者が絡むと事情が変わってしまう時があった
そういう時は、過去の麻衣を演じないといけなかった
そして、誰も過去や、なんなら今もよくわからない生き方をして無関心が通用するのは、ここしかなかった
「ミスティック」
私は私の生きる道を
久々のミスティックの扉を開いた
ただいま、みんな
相変わらずお店はキャバクラなのに人もまばらでしみったれた雰囲気だった
久々の店長と顔を合わせる
「始めまして、麻衣さんの友達なんだよね、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「こういう仕事は初めて?」
「はい」
「そっか。じゃあ源決めようか。こういうお店は本名じゃない別の名前で仕事することが出来るんだ、もちろん本名でもいいんだけど、それを源氏名って言うんだ」
「…麻衣、本名で」
「あ、麻衣さんと同じ名前だったんだね、了解、ところで麻衣さん、ああ、麻衣さんを紹介してくれた友達元気?」
それは私のことなのだが、店長はまさか中身が入れ替わってしまって、本当は麻衣が私なんですよーなんて話は信じないだろう
だから、愛が麻衣を紹介したというていで私はここを訪れていた
「元気そうですよ、本業のお仕事が忙しそうみたいで…」
「そっか、本業が忙しいんじゃこれないか。でも麻衣さんを紹介してくれてよかった」
「ご期待に添えるかどうか…」
私は語尾を濁した
「麻衣さんは可愛いから、心配ないよ!是非よろしくお願いします」
店長は嬉々として答えた
「じゃあ、ざっと簡単に業界用語を説明するよ
お客さんから麻衣さんが席についてほしい時に呼ぶ事を指名って言うよ。また、指名されていない状態でお客さんの席について指名する事を場内指名、場内と言うよ。それからお客さんと食事や映画、買い物などをしてから一緒にお店に来ることを同伴と言うんだ。そして、お客さんとキャバクラの仕事が終わった後食事に行ったり飲みに行ったりするのをアフターと言うよ。後は指名の女の子の席に着くことをヘルプって言うんだけど…またわからないことが出てきたり、気になったことがあれば聞いて」
随分と饒舌に話す。愛の時には説明してくれたっけ?
「あ、それからお客さんの席についていない状態で待っている席の事を待機席と言ってお客さんの席に着くまでは女の子は待機席で待機してもらうよ。その待機がそこね」
待機に案内されると、私の自己紹介をされた
ゆきさんは待機にいなかった
彼女のことだから席にでも着いてるんだろう
また、まばらな挨拶が返ってきた
早速なんだけど、と今度はやけに張り切っているボーイさんが来て、私を常連の席へと着ける
「ゆきさんって子のお客さんのフリー側に着けるね!」
席に案内されて着く
「わあ!随分可愛い子がきたね~!」
お客さんは食い入るように見ている
ゆきさんと目が合った
彼女はまた同じように、気にも止めずにお客さんとの会話に戻っていった
ふんっ
相変わらず高飛車な女
まあ、いいや
敵に不足なし
今行くからね
だって私は正真正銘、麻衣だもの
「芸能人のあの子に似てるね、コリン星の…」
お客さんが私に話しかけてきた
「小倉優子ですか?」
「そうそう!可愛いねえ」
まあ言われてみたら麻衣は小倉優子に似ているかも、長い付き合いだったのに全然気付かなかった
近付き過ぎてたからか?
その後お客さんとはごく普通の世間話をしただけで、とびきり笑える面白い話をしたわけでもなく、媚びを売って甘えたわけでもなんでもなかったのだが
「ここにいなよ」
と、いとも簡単に場内をもらった
普段なら、それを取るのにどれほどの知恵や努力が必要なことか
そんな理屈無視で呆気なく麻衣は場内をもらったのだ
以前の麻衣も理屈なしで場内をもらえることはもらえたが、今の麻衣になって、それが尋常じゃないくらいに増えた
お店でつっ立ってただけで、全然知らない人から場内をもらったりするようにもなった
可愛いね、綺麗だね
ただ見た目が変わっただけなのに、色々な人にそう言われることがかなり多くなった
おいおい、なんだよみんな
その手のひら返し
なんてわかりやすくて単純なんだろう。バカらしくて笑えてくる
それと同時に、キャバクラやホストなどの情報交換をしたりする、匿名掲示板には私の悪口ややっかみが書かれるようになった
「麻衣は、整形」
「その割にはブサイクだけどwww」
「あいつの彼氏ホストでしょ?」
「じゃあ股開いて稼いだ金は、みんなホストに貢いでるんだ~!麻衣さんお疲れ様(^O^)/」
「いやいや、あのブサイクに彼氏が出来るわけないじゃん!」
「麻衣はそんなことする奴じゃない」
「自演乙」
嫉妬と、羨望と、恨みと僻みと嫉み
みんな私と同じだ
可愛くて、みんなに好かれてる麻衣が、妬ましくて妬ましくて仕方がないんだな
ホラを吹いて、私がヘマをしないか、虎視眈々と狙ってる
きっとこいつらは、私が倒れて潰れてしまうまで続けるだろう
可哀想で哀れなやつら
リアルかフェイクかもわからない曖昧な掲示板で、吠えている
惨めなやつらだ
私はそんなのに負けない
嘲笑われてる側から、嘲笑う側にきたんだから
そんな底辺のビッチ共なんか笑ってやるんだ
にこーって
私がされたみたいに笑顔で
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