6 悪の華



「はじめまして、麻衣です」

2人組の男たちはじろじろ値踏みしながら私を見る


「ブサイクだなー、もっと可愛い子いないのー!?」

私が着く方の金髪でひょろい坊主が、店に響き渡るような大きな声で言った

「こんばんは~」

後から相方の方に、髪を短くボブに切り揃えた10代の女の子が着いた


「うわー可愛いー!俺この子指名!」

その金髪坊主はなんの躊躇いもなく、残酷な言葉を発する


私は直ぐに抜かれて次の席に着く


「はじめまして」

気を取り直して着いた席は30代のちょっと堅物そうな男だった

「お仕事帰りですか?」

「まあ」

「ここの前に、どこかで飲んでました?」

「うん」

そんな当たり障りない無難な会話をして抜けた

話は盛り上がらないし、指名ももらえなかったが、きっとそう言う人だろう


私は次の席へ行く


「はじめまして」


その席はカラオケで盛り上がっていた


「ねえ、次カラオケ入れたから一緒に歌おう!ミリヤとシミショーのやつ!」


直ぐに流れた音楽は私の知らない歌だった

なんとなくしか歌えずに、適当に歌って誤魔化してみた

「この歌知らないの?」


「ごめんなさい、なんとなくしかわからないんです」

私は平謝りした


男は歌い終わると不機嫌になっていた


「あの、どうしました?」


私が話かけても終始無言だ

だけど隣の相方や、そこに着いている女の子には笑顔で話している


なんだか無視されているようだ

私は居心地が悪くなって、もう一度男にどうしたのか聞いた

しかしまた沈黙が流れる


暫くたって、男が口を開いた


「おまえさぁ、この仕事なめてるよ」

「え…?」

心臓が急に飛び出そうなくらい跳ねる

「カラオケ歌えなくて、適当にこなすとかお客バカにしすぎでしょ?」

「ち、違います!私は知らない歌だからちょっとしか歌えないだけだったんです、…適当に見えてしまいましたか?」

「かなりね、だとしても最初に言った方がいいよ、かなり気分わりーから」


勝手に曲を入れて歌い出したのはそっちではないのか?それで歌えないからって機嫌が悪くなられても困る…


そう言いたいが、言える雰囲気でもない


「他のお店の子だってもうちょっと頑張ってるよ、そんな適当な仕事してるんじゃ、何も勤まらないよ」


男の言葉は止まらない

いい加減に、適当に生きている私の心の奥底をえぐる


汚い膿しか出ない心臓に、男の言葉が、ぐさぐさに刺さる


「…女の子…違う子…呼びますか…?」

居たたまれなくて、自ら告げた


「うん、そうだね、変わって」


男がチェンジと言いそうになったので、素早く立ち上がって店長に報告した

直ぐ様、他の女の子がその席に着く

楽しそうに会話をしているようだ


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