ホテルイマバリ(後編)

「ほら松前さん着きましたよ!」

「ホ…ホエェ…?」

「おーい松前くーん?大丈夫かー?」

「……はっ!ここは!?」

「宴会場ですよ松前さん」


 あ、ありのまま今起こった事を話すぜ……部屋で恥ずか死をしていると思ったらいつの間にか宴会場にきて継月さんに肩を揺らされていた…な、何を言っているのかわk(ry


「取り敢えず席は自由だから。好きなとこ座りなよ。」

「は、はい…」


 とりあえず動かない頭を働かせ奥の席に着く。とりあえず夕飯をいただこう…とすると継月さんが席を立った。


「えーまぁ個々に多少のトラブルこそあったもののこうして皆無事に初日を終了出来たと言うことで。まぁゴコク……本土でいう四国の料理の数々を堪能下さい。こっからもうちょい話続く予定だったけど『長話はいいからはよ飯食わせろこちとら腹ペコなんだ』ってなってる人もいると思うし、俺もはよ夕飯にありつきたいんでもういいだろ。よし皆食べよーかんぱーい。」


「いただきます。」


 炭酸を飲むと腹の調子が悪くなりやすいので水を飲もう。…うまい!そしてかつおのたたき!家でも買ってきて食べることはあれど本場はさすがにない。うまい。

 隣を見るとアードウルフさんもわき目も振らずにがつがつ食べてる。ワイルドかわいい。それと同時にちらりと歯が見え、そのうえ目をかっぴらいているのもありやはり「野生動物」なのだと再確認した。


「ごちそうさま。」

「ごちそうさまです。」

「…部屋に戻りましょうか。」


 部屋への道中、いやがおうでもさっきのことが頭をよぎる。部屋へ戻るもその記憶は脳内にこびり付く。寝るには少し早く、スマホゲーで時間をつぶすのも旅に来た意味がないし…なにをしよう。

 そういえばアードウルフさんの偽名考えてないな。今がチャンスか。こんな時のために(と言ったら嘘になるけど)三角ショルダーに入れていた筆箱とルーズリーフ一枚を机に出す。

 まず使えるのは「ア」「ア」「ド」「ウ」「ル」「フ」。それと一応「ツ」「チ」「オ」「オ」「カ」「ミ」も用意しておくか。どんな名前にしようかとアードウルフさんのほうを向いてみる。ベットの端にちょこんと座って何もしゃべらずこちらをじっと見ている。見られているのに気づくと恥ずかしそうに顔を赤らめ目線をずらす。かわいい。

 「〇〇ホニャホニャミ」さん…なら可愛くなりそう。机に向きなおしルーズリーフにメモをしながら思考をめぐらす。なんかいいのあるか?「アツミ」。よさそう。「あつみ温泉」駅もあるし。確かあそこは「温海あつみ」だったはずだけど海は苦手そう。「ミ」の漢字を探そう。

 ふと時間に目をやると22:00すぎ。こっから先はまた後で考えよう。8:00に朝食だから7:00過ぎにおきればいいかな。


「よし。」


 机の上のものを三角ショルダーにしまい席を立つといつの間にかタコさんが部屋に戻っていて、すでにアードウルフさんは寝ていた。寝顔がすごい可愛い。けどぼくもすごいねむたい。片づけられるものを先に片づけておいて寝させてもらおう。


「すいませんさきにねますn…」


 タコさんの返答も聞かずアードウルフさんの隣のベッドに突っ伏す。小声だったから聞こえてなかったかも。


〜翌朝〜


「…ぉはようございます。」

「あ、おはようございます。」

「平城山さんも起きてきたし…」


 おもむろに上体をあげた。あれなんでみんな起きてる…まさか寝坊!?…時計は6:30を指しており胸を撫で下ろした。


「今日の予定でも話しましょうか。」

「あ、そうだった。」


 そういえばそんな話を風呂場でしてたな。


「これからアンインの方に行くことになると思うんですが、僕が行きたいのはここ。」


 しおりを開きながらアンインのページを探し、アケノを指差す。


「アケノ…?」

「聞いたことのないところだね。」

「ここに観覧船があるようで乗ってみたら面白いかなって。どうですか?」

「そのことなら昨日の夜コウテイさんには伝えました。」

「うん。列車で行きたいと言っていたんだよね。」

「れ、れっしゃ?」


 あ、アードウルフさんにこのこと言うの忘れてた。


「そうです。もし嫌だったら嫌でいいんですが、このしおりに載ってる『アンヨ本線』に乗ってアケノに行きたいなって。いかがでしょう?」

「わ、私は別に構いませんが…?」


 と言いながら不安げにタコペアの方に視線を向けるアドかわいい(唐突)。


「僕からもうコウテイさんには許可は取ってるんで大丈夫ですよ。」

「うん。私も列車に乗るのはどんな感じなのか気になるからね。」


 心の中でガッツポーズを決め、一旦心を落ち着かせる。ふと時間を見ると7:50。朝食に向かうのにちょうど良い時間になった。

 朝食は四国の特産品が使われているバイキング形式。前日のこともあるので葉物や海藻類の入ったサラダをいっぱい食べた。

 部屋に戻り着替えを済ませ、何度も忘れ物がないか隅々まで確認した。


「大丈夫だよな?大丈夫か?アレは…ちゃんと中に入れた。アレは…ここにいれた。ホ↑ンマか?…ちゃんと入ってた。ヨシ。」

「心配しすぎですって。なんか忘れ物があったら継月さん経由で連絡来るでしょうし。」


 これだけ確認すれば大丈夫だろう。ロビーに着くと結構集まっていた。全員がそろうとチェックアウトをし、ホテルを発った。探検隊のバスについていくかたちで彼女たちの拠点まで向かう。走っている最中、ミライさんがマイクを持ちアナウンスを始めた。


「はい、皆さんおはようございま~す!昨晩はどうでしたでしょうか?フレンズさんと過ごす初めての夜、とても貴重な体験だったと思います。えー本日の流れなんですが、午前中はアンインエリアを各自散策した後、この後紹介しますが保安調査隊のアンイン基地にて昼食、午後はサンカイエリアを皆さんに観光して貰い、事前に話を通してある宿泊先で一夜を過ごす、という流れですね。ではでは、アンインに到着するまで暫くの間、バス旅をお楽しみ下さい。」


 バスは橋を渡り終え、アンイン側の地であるミノオチをすぎ、キョウシュウに戻る方向へと進んでいった。

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