ホテルイマバリ(前編)
「みんなはその辺のソファでゆっくりしてて。」
バスを降りてエントランスに入り各々適当な席に座った。継月さんは受付から4枚のカードキーを受けとってるようだ。僕の部屋は302でタコさんペアと一緒らしい。まあ彼の方が誠実だしカードキーを管理するのには相応しいだろう。
「じゃあまた19:00に宴会場で。ミライさんは打ち合わせしたいので一旦俺の部屋に来てください。」
「分かりました。」
継月さんがそう告げると皆はエレベーターに向かっていった。
このまま乗ってもいいが…少し窮屈かも。僕はまだ一つ頭でてるから呼吸には困らないがアードウルフさんは…あぁ、これはきびしそう。次のエレベーターも…きつそうだ。次でいいか。
そんなこんなで人混みでないエレベーターを待っていると継月さんたちがきた。
「他の皆は先に行った感じ?」
「あっ、はい。」
「えぇ〜っと…まずは風庭さんのところの部屋の人とタコさんペアのところが先に行ったんでしたっけ?」
「ですね、んで次は…」
「ペロさんとけもさんのところですね。」
なんて話してるとちょうどエレベーターが到着したのでみんなで乗り込む。流石に継月さんより後まで待つのはアレだし…
「そういえば、平城山さんが継月さんに聞きたい事があるみたいで。」
「そうなの?」
え?アードウルフさん?聞いちゃうの?…まぁいっか。
「えぇ。スミカさんって、どういう字を書くのかなってちょっと気になりまして。」
「あー、成る程?」
「あいや、僕が個人的に気になっただけなので答えて貰えなくても結構なのですけど……」
「姓は人偏に犬の『伏』に土が成るで『城』、名は水が登ると書く『澄』に禾偏として書かれる事の多い『禾』です。」
マジ!?当たらずとも遠からずってところか。そして「
「いや躊躇ないなぁ……」
「名は体を表す、と言いますから。それくらいなら教えても構いませんよ。そこから繋がる縁もありますし。」
「じゃあ、また後で。」
「あっ、はい。」
302の扉の前に立った時ふと嫌な記憶が蘇った。あれは部活の夏合宿の時。同室の人がうるさくて寝たくても寝れなかった。ただ…タコさんはそんな感じじゃないだろうし大丈夫なはず。とりあえず先にタコさんペアが入っているに違いないのでとりあえずノックしてみる。
「開いてますよ。」
「失礼します。」
部屋に入るとコウテイさんとすでに部屋着に着替えたタコさんがいた。荷物を一通り整理し終えるとタコさんが話しかけてきてくださった。
「平城山さん達は夕飯まで何します?私は風呂にとっとと入っちゃいたいんですが。」
「そうですね、僕も夕飯の前に風呂入ってあと寝るだけにしちゃいたいのでいいですね。アードウルフさんは何かしたいのはありますか?」
「私もお風呂に入りたいです。今日は少し疲れちゃいました。」
「じゃあ決定だね。」
風呂に行くなら少し着替えとか準備しなきゃ。
「ちょ、ちょっとお待ちを。色々用意しなきゃいけないものがあるので。」
「じゃ先行ってますね。鍵よろしくお願いします。」
「了解しました。」
「私たちも大浴場に向かおうか。」
「そうしましょう。また後で。」
皆が部屋を出た後すぐに着替えを探すためにとっちらかした荷物を片付けて大浴場へ向かう。生まれたままの姿になり手ぬぐいだけ持って風呂に突入した。
「お待たせしました。」
「あ、いえ。」
「あちっ…あ、そこまででもない。」
「浴槽に入った瞬間ってたまにそうなりますよね。」
「ですよね。」
ゆっくりと肩まで浸かり温まる。…なんか気まずい。なんか話すか。
「あの…タコさん?」
「どうしました?」
「明日のアンインの予定って何かあります?」
「あ〜、探検隊の拠点には行きたいですが。」
「そ、そうですよね。」
あっぶね…アンインには探検隊の拠点があるの忘れてた…
「ところで平城山さんは?」
「アケノの方に行きたいなって。観覧船があるようなので。」
「いいですね観覧船。じゃあ僕も同行していいですかね?」
「いいですけど拠点は?」
「多分他の皆も行きたいと思うんで時間とってくれると思うんですよね。」
「それならいいんですけど…んで少し提案があるんですが。」
「どうしました?」
「アケノの方に電車で行くのはどうですか?」
「…通っているんですか?」
「じつは通ってるんですよ。」
他にも色々話したいことはあるけど多分興味ないだろうしいいや。風呂そんな長く入る方じゃないし。
「とりあえずコウテイさんとアードウルフさんにも相談しないと。」
「ですね。」
「ちょっとのぼせてきたんで体洗って上がっちゃいますね。」
「わかりました。また部屋で。」
そそくさと体を洗い部屋に戻る。まだ誰も戻ってきてないようだ。今は…18:30か。夕飯まで時間があるな。何しようかな。椅子に座ってボーッとしていると扉の開く音がした。
「あ、よかった。戻ってきてたんですね。」
「あまり長く入っていても飽きちゃうので…って。」
「えへへ…どうですか?」
上がってきたアードウルフさんは髪を下ろしていた。かわいい。やばい。撫でたい。抱きしめたい。
「
ボソッと呟いただけだったがアードウルフさんの耳には聞こえていたらしく可愛らしい笑顔が降臨した。シンジャウ…
もっと近くで見たいと思い椅子から立ち上がりアードウルフさんの目の前に向き合って立ってみる。小柄で可愛らしい。かわいい。アードウルフさんは頭を僕の胸板に傾け、耳を当ててきた。例の『耳ピト』というやつである。その瞬間抱きしめて撫でまわしたくなり腕をガバッとあげたことに驚いたのだろう、少しアードウルフさんの体が震えたのがわかった。
その瞬間物音がした。2人してそちらの方を見ると扉を開けたタコさん達がいた。そこで我に返り恥ずかしくなり真っ赤な顔して元の椅子に座った。アードウルフさんは近くのベッドに座り込んだ。今は…まだ19:10!?!?少し早めに部屋を出るとはいえあと50分も耐えるの!?
ここから夕飯までの記憶はない。どうにかしてこの恥ずかしさを逃そうと机に突っ伏していた記憶しかない。どうやって宴会場に行ったのかすら覚えてない。タスケテ…
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