ゴコク観光……その後に

「…もしかして私、寝過ぎちゃいましたか?」

「あ、その、いやいや、大丈夫ですよ。もうすぐでバスにつきます。」


 寝顔が可愛かったのと女性特有の香り、そして目をこすりながらあくびをするその姿に心臓の鼓動が早くなった結果僕はまたどもってしまった。アードウルフさんの耳が顔に当たりくすぐったかったのは黙っておこう。

 バスの前についたのは予想通り16:45。丁度ほかのグループも集合場所についたようだ。みんなミライさん怖いのかな。そんなことを考えているととある方から声をかけられた。


「お疲れ様です。トイレ行くなら向こうっすよ。」

「あー…」


 誰だっけ…あ、タコさんだ。確かリウキウの昼飯の時に少し話したっけ。便秘の腹痛の後ってなかなかでにくいんよな…どう伝えよう。


「っと。さっき、済ませました。」

「なら良かった。」

「け、けっこう心配したんですからね!」

「もう大丈夫ですから!…ホント、ありがとうございました。」


 確かにアードウルフさんに心配させちゃったな。どうにかして挽回しなきゃ。

 タコさんと話した後なんか知らない人が近寄ってきた。


「はじめまして。よろしくお願いします。」

「「あ、ハイ。」」


 凄い美人だったけど?もふもふ尻尾がない時点でアドに劣るし?アドかわいいし?許されるなら撫でまわしたいし?でもまぁこんな僕みたいなやつ許されるわけないんですけど。返事を聞くや否やミライさんの隣に戻っていった。何も質問ができなかったがまぁいいや。ミライさんからこの後の予定を聞こう。


「それではこの後は今夜宿泊する施設へと向かうのですが……その前に先程から皆さんの気になっていたこの方に自己紹介して貰いましょうか。ではお願いします。」

「はい、分かりました。皆さんこんにちは。ここからサンカイエリアまでご一緒させて貰いますフシギ スミカです。暫くの間ですが宜しくお願いしますね。」


 フシギ スミカ…いったいどんな字なんだろう。


「じゃあミライさん、そろそろアンインエリアへと向かいましょうか。」

「そうですね。あぁそれと先程皆さんに渡したランズ改めラムスはこの後のエリアでも使いますので失くさないようにしてくださいね。」

「では皆の者、よき旅路をな。」

「ありがとうございました、ギョウブさん。」


 え、この小型機この後も使うのか。なくさないようにしないと。

 バスに全員が乗り込むやいなや継月さんが点呼をとり、それを終えるとすぐにバスは神社を発った。


 バスの窓の方をずっと向いてても退屈なので通路側を向いてぼーっとしていた。たまにアードウルフさんの顔をチラッとみると何度か目が合い恥ずかしそうに顔を下に向ける。かわいい。非常にかわいい。

 ふと反対の景色はどうなっているのかと気になりそちらを見るとタコさんがいた。僕より真面目で、誠実で、飾らなくて、素直そうな彼。あーあ、僕も彼みたいになれたらな。…まって?そういえばリウキウの食事の時に趣味の話をした気がするぞ?やばいぞ?

 目線を戻してアードウルフさんの方を見ると少しふてくされていそうだった。あ、もしかしてコウテイさんに見惚れたと勘違いされた?されたっぽいな。でも言い訳したところで変わらなさそうだな…


 その後アードウルフさんはコウテイさんと会話していた。女子の会話とは不思議なものでものの十数秒で仲良くなっていた。その間僕はまたぼーっとしながらフシギさんの漢字を考えていた。さすがに一文字はないから「フ/シギ」か「フシ/ギ」、もしくは「フ/シ/ギ」なんだけど前者だった場合「浮鴫」…以外考えられないし3文字に分けるのもなんか違和感。なら「フシ/ギ」か。「節来」?「臥城」?その辺かな。さっきアードウルフさんが寝てた時にしおりを見たけど確か「節来しらい」さんっていう方の話が載ってたし。その場合スミカは「菫香」もしくは「澄花」とかかな。ちょっと待って?フシギス ミカさん説ある?その場合は「伏祇洲」とかもありそう。ミカは正直いっぱいありすぎてわかんないからいいや。


「うふふっ。」


 そんな風に思案に耽っているといきなり隣から笑い声が聞こえた。会話を終えたのかアードウルフさんにいつの間にかみられていた。


「ん?どうしました?あ、もしかして何か変なことしてました?」

「えーっと、怖い顔だったんです。」

「少し趣味に熱中していたのでそれのせいかもですね。」


 …あれ?でもさっきアードウルフさん笑ってなかった?


「でも!『怖い顔』だったのに怖さよりもむしろ楽しさの方を感じたのは…『野生の勘』ですかね。それとも…もしかしたら似ているからかもしれませんね。」

「え、だれとですかね?」


 と聞くとアードウルフさんは目を泳がせた。嘘をつかせてまで気を使わせていてしまったのか?不安になっているとアードウルフさんは顔を赤らめながら口を開いた。


わ、わた…あ、いえ、知り合いとですね。」


 何かを言いかけたような気がしたが焦って訂正していた。やはり僕に合わせるための嘘なのかな。


「ところで今何を考えていましたか?」

「あぁ、さっきのやつですか?あれはフシギ スミカさんの名前はどんな漢字を使うのかなって。僕はそういう人名やさっきの臣事おみずみたいな地名が好きでたまに架空のそういったものを自分でも考えることがあるんです。」


 その言葉を聞くとすぐ明るい表情になった。


「じゃ、じゃあ私にも考えてみてください!」

「それは…どうして?」

「私、『ウルフ』ってついてるせいでよく誤解されていて…嫌ってわけではないんですが…スミカさんみたいなかわいい名前も欲しいなって。無理を言っているのはわかっています。でもお願いします!」

「わかりました。うーんと…」


 と考えようとした矢先ミライさんの放送が入った。


「ではこの後の流れを説明します。」


 内容はホテルの食事や浴場の時間についてだった。なんか話の途中で終わっちゃったのが少しやるせない。やはり楽しい時間は早く過ぎ去るものなのか。


「それではそろそろもう間もなく今夜宿泊するホテルへ到着するので、皆さん荷物の準備をお願いします。」


 とりあえず微妙になっちゃった会話だけ終わらせなきゃ。


「アードウルフさんの漢字の名前、絶対に考えてみせますから待っていてください。」

「はい!… 『いつも通りの私』、かぁ。

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