リユー11歳:それぞれの成長編
試合 1
ハルイルトと一緒に魔法薬と廃材についての研究を続けてしばらく。思いも寄らないような成果は続々と上がってきていた。
ハルの集めた優秀な研究者たちは、あっという間に魔法薬の錬成後に残る繊維についての分析をしてくれた。
そしてその結果。あの繊維は『無属性』であることが検証された。
無属性というのは、魔法に関連しないという訳じゃなくって。分析魔法だとか、望遠視魔法のような、属性に類しない魔法のことだ。ややこしいけど。
通常魔法植物は、緑属性といわれている。緑属性っていうのは大まかに植物魔法のことなんだけど、これは分類方法によっては土属性や光属性なんかに分けられることもある。
本当にややこしいんだけど、つまりは植物に関係する魔法っていう
他の属性に比べて、植物を操るっていうのは地味だし役に立つことが多くはないからだろう。
それで、魔法薬を生成した後、緑属性だった魔法植物の残りの繊維が無属性に変わってたんだ。
このことはハルの魔法オタク心を激しく燃え上がらせた。
そして、ハルはふと思ったらしい。
何かの条件で繊維が緑属性を失ったのならば、何かの条件で逆に属性を付与できる可能性もあるのではないかと。
そして、マグナ、リドル、時々クロノ(ほとんど戦力外)を交えて話し合い、試行錯誤してみたところ。
出来たんだ、魔法付与。
耐熱防御、冷却付与、防御力の強化……などなど。
もちろん元々の魔法植物の魔力の上限は超えられないから、その効果はそこそこでしかない。でも、普通に便利だろ。絶対に需要は高いはずだ。
魔法繊維の完成。エリストラーダ国内だけでなく、全世界含めても世紀の大発見だろう。この世界には世紀っていう概念ないけどな。
あとは、これを活かすためには紡績と加工の技術が必要になるんだけど。そっちの方は商人としての伝手があるソルアと、社交界で幅広いコネを築いているユーリアドラが協力を申し出てくれた。
魔法繊維の加工技術さえ確立できれば、アトラントの農作業の休息期になされている内職にちょうどいい。元々アトラントでは冬場に自給自足的な紡績を行ってたんだけど、街道が発達したおかげで服飾関係は購入っていう手段が取れるようになったから。
魔法繊維の紡績、加工が可能になればいいこと尽くめだ。まだ研究段階の部分も多いけど、楽しみに吉報を待っている。
そんなこんなと慌ただしく過ごしていた9月の半ば。
今年は更に規模を拡大して順調に育ってゆく稲穂の刈り入れを楽しみにしていた頃合いに、アリー先生は思い出したようににこやかに切り出した。
「どうですか、久しぶりに剣を交えてみては」
一瞬何のことだかわからなかったんだけど、なんとアリー先生の弟子となったフレイアートとの試合の打診だった。
ユーリの次兄であるフレイアートは昔はやんちゃで向こう見ずで、事あるごとに勝負だなんだって言いがかりをつけてきていたけど。そう言えば2年ほど前にアリー先生に弟子入りしてからというもの、すっかりと大人しくなっていた。
てっきり勝手にライバル認定されてたのが解消したんだって思ってた。
だけど、アリー先生のお許しが出るのを待っていたらしい。
ちょっと待てよ?
フレイアートがアリー先生に弟子入りして2年だろ。
俺、5歳から師事してるけど。たった2年でアリー先生が試合勧めてくるほどってどんだけだよ。このアリー先生がこんなにこやかな楽しそうな顔して勧めてくるって本当にどんなだよ。
えっ、断っちゃ………ダメだよな?笑顔の圧で背筋が震える。相変わらずアリー先生の底が見えない。未だに分析魔法が通らないほど計り知れない猛者なのは、いいかげんに鈍い俺でも理解している。
っていうか、そろそろアトラントの騎士団員に負けないくらいにステータスが成長を遂げた俺が、ひれ伏したいほどの圧なんだから身をもって思い知ってる。
「ウリューエルト様にと同じくらいに、フレイアート様も才能にあふれてるのはもちろん、とても熱心でしてね。彼のモチベーションは、ライバルであるきみに勝つという目標にある。彼のためにも引き受けてくださいますね」
顔に刻まれた笑い皺すら嘘くさいほど背筋がピンと伸びた隙のない立ち姿で、好々爺っぽく人のよさそうな笑みを見せるアリー先生に、俺はひたすら頷くことしかできなかった。
「君たちの成長を見られるのが、この爺にとってはとても楽しみですよ」
穏やかな微笑みの中で、猟奇的なほど嬉々として輝く瞳……なんて、きっと気のせいのはずだ。気のせいであってくれ。
手合わせ会が開催されたのは、それから数日をおいてだった。
俺の剣術授業の日程に、フレイアートがやってくる形で……ってそれもうきっと組まれてたよな?
以前の手合わせの時……って言っても、もう2年前にもなる。確か試験米の収穫祭をやった時に決闘を申し込まれたんだった。
場所はあの時と同じ、広大な面積を持つ騎士団の鍛錬場。
観客には折角だからとうちの騎士団を引き連れてきたアリー先生、ド直球な兄の素行を見張りにきたユーリに、研究の件で話をしにきていたハル。
前回の手合わせ同様にノリノリのリドルに、ストッパーのマグナはきっと保護者代わりのつもりだろう。何があっても大丈夫な安心感がある。
前の時みたいに祭りの余興っていう感じではなくて、今日はこの試合の見学に来た人ばかりなので、何となく小大会みたいな雰囲気になっていた。
「久しぶりだな!楽しみにしてたぞ」
快活に笑いながら片手を挙げたフレイアートに思わず目を見張った。
もともと同年代の中で大柄な俺よりも背が高かったけど、会わないうちに更に成長したんだろう。俺の一つ上の12歳にして、小柄な大人くらいの身長はある。大人に比べてまだ少年っぽい骨格の細さはあるものの、一見で引き締まっているとわかるがっちり筋肉質な体型。声も以前より低くなった気がする。
赤胴色の癖がある髪はタリーやユーリと同じでも、線が細い二人にはあまり似ていない。女性としては背が高めなユーリと小柄でやや中性的な容姿であるタリーは、一目で兄妹とわかる。その間にいるのが不自然なワイルド系イケメン……くっ、勝負あったじゃね?
容姿の成長もだけど、昔みたいに何でも騒ぎ立てて優位性を誇示しようとするような考えなしで無鉄砲な素行が見られないだけで、すごく大人っぽく落ち着いて見える。アリー先生の指導のたまものなんだろうか。そこはちょっと怖い。
「あっと、お招きに感謝もうしあげます」
そんな爆発しろ案件へと成長したフレイアートは、優雅に一礼し、へへっと照れくさそうに笑った。
………待て待て待て。やんちゃと素直のコラボレーション。なんとなくアイドルみを感じたぞ。
壁の装飾と一体化しそうな存在感のない俺からしたら、もう既にだいぶ敗北感でいっぱいなんだけど。
せめて試合くらいは勝ちたいなって、なんとなくちょっとだけやる気になったぞ。
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