マグナの課題 2
マグナに出された課題を遂げる方法は全くわからなかったが、同時にやりたいことの方法ならわかった。
俺は、まずは父に話をすることにした。
俺が記憶を取り戻した当初は、優しい父といえどもこうやって自分の意見を主張できるとは思わなかった。
だけど今は一緒に会議に加わることもあり、きちんと会話することに意義を認められる関係を築けている。
だから、俺の考えが子供の思い付きや感情論だと思われない自信はあった。
「父上にお願いしたいことがあるんだ」
身になじんだ父の執務室で、数度書いて慣れてきた書類を手渡した後に、俺は父に話しかけた。
「なんだ、珍しいな」
父はざっと書類を確認してから顔を上げる。
身長が高く体格も良い父の目線は、椅子に座っていても俺の目線とあまり変わらない、どちらかというと、少し見上げる程度。
俺も年齢の割には長身なほう、をキープできてるんだけどな。
俺は父の琥珀色の瞳を真っ直ぐ見て、下準備のための交渉を始めた。
「俺は、マグナに将来相談役、侍従になって欲しいと思ってる。彼の知識はこの地を繁栄させるのに役に立つと思う。
だから、俺がマグナを説得できたなら、それを許可して欲しいんだ」
父は、面白そうに目を細めた。
俺からお願いをしたのは、剣と魔法の先生をつけて欲しいと言った時以来だったし、その結果は父にも良い功績を納めているように見えてると思う。
そして久々のお願いは、先を見据えてのこの交渉。
本当に子供らしくないと思うけど、父は気にした様子もなく、興味を引かれたようだった。
「そうか。彼が素晴らしい人材なのは、お前の成長を見ていればわかる。しかし、彼は自分の目的のためにここに住み込み働いているのだろう?
彼を雇いいれる時に、出された条件がある。自由に図書室や館内の書物を使用する許可。自分の勉学のための時間を保証すること。そして、契約を違わぬことだ。
お前の望みは、随分と彼の望みとは噛み合わないな」
父に説かれて、俺は頷く。その条件は、俺も知っていた。
マグナの目的は、自分の知識をみがくこと。その手段が住み込んで働き、空いた時間にその家の書籍を見せてもらうことだ。
一般的な使用人より自由度が高かっただろう家庭教師は、好条件だったに違いない。しかも俺の部屋に入り浸ってたし、紙やインクも使い放題だったし。
マグナには、後ろだてがない。地位も財産も何もない。一人で、身一つで自分の目標を叶えようとしている。困難な道でも、自分を信じて。だからその決心は、情で裏返るものではないだろう。
「わかってる。だから、雇用条件は俺に任せて欲しい。給金については、俺には一般的な相場がわからないし父上に相談したいけど。
あと、その準備のためには、けっこう資金が必要なんだ。それも許可して欲しい」
父は頷きながら笑った。
日に焼けた肌に濃い金の髪の、
豪快に笑うと、それだけで大迫力だけど、そこに威圧感はない。
その目はいつも優しく俺を見守ってくれている。
「許可しよう。ウリューエルトならいくら散財しようとしたところで、領地を傾けるわけはないからな。
お前の宝石鉱山と魔法薬の収益で、今アトラントの資産は潤沢にある。
父には金を貯える趣味も、これ以上望む贅沢もない。お前が考えること、望むことに活かせばいいだろう」
父はそう言って、俺の頭をぽんぽんと撫でた。
優雅な所作じゃなくても、貴族らしくなくても、俺にはこれ以上なく尊敬できる父だ。
俺がお礼を言うと、父は嬉しそうにいかつい頬を緩めて満足気に応えた。
「優秀な息子に頼られて父も嬉しいのだ。一人で抱え込まず、いくらでも頼りなさい」
頼もしい父の協力を取り付けて、俺は説得のための下準備を進めた。
相変わらず課題のほうは、からっきし、これっぽっちも、達成の糸口は見つからないんだけどな。
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