レッツ・パーティー?
俺はクロノを宥めつつ立ち上がると、座り込んだままのクロノに手を差し出す。
すっかりと回復してしまった身体はもう何ともなくて、精神的にも落ち着いていた。なんとなく、達成感すらある。
でもなあ、リドルは怒られて仕方ないと思うぞ。
クロノに睨まれて冷や汗をかきながら愛想笑いをするリドルは、珍しく空中に浮かんだままだ。
いや、多分これ、拘束されてるんじゃないかな、微妙に足をばたつかせている。
「えーっ、ほら、大丈夫だったんじゃん?ボク、ちゃんと蘇生魔法も準備してたよ?ね、ね?安心安全デショ?」
へらへらと笑うリドルを射抜くクロノの瞳は冷たい。
これ、めちゃくちゃ怒ってるな。
ある意味さっきの魔物が小物になるレベル、むしろ神様なんだけど。
「命さえ大丈夫だったならば安心安全っていうなら、君も試してみる?
大丈夫でしょう、妖精の大元は消えないから」
冴え冴えと澄んだ声音が響く。
まさしく、裏ボスクロノが現れた!!な感じだ。まず誰も勝てない仕様だけどな。
さすがに放っておくのも悪い気がして、俺は怒れるクロノの頭をぽんぽんと叩いた。
「落ち着けよ、もう大丈夫だから。回復してくれてありがとう、クロノ。
それと、リドルはちょっと反省しろ」
クロノを放っておくのも忍びないので、俺はデコピン大の風をリドルの額に弾いといた。みごと額に直撃して、リドルは濁点のついた声を上げて頭を後ろに傾けた。
クロノはぐっと眉根を寄せて不服そうに俺を見る。俺の制裁の甘さに納得がいかないようだ。
でもなあ、まあびっくりしたし寿命縮んだ思いだったけど、なんとかはなったしな。
リドルも蘇生魔法まで用意してくれてたらしいし、やり方は激しくマズかったけど、害意はないっていうか。いや、きちんと後でシメるけどな。
「一樹はあんな危険なことさせられて、笑って許しちゃうの?僕は気づいたらあんなことになってて、すっごく心配したっていうのに」
クロノはふるふると震えながら俺を睨み付けた。ちょっぴり涙目になったその瞳は、もう無機質な静かな色ではない、感情に占められている。
思わずこの人間臭い仕草に笑いが零れると、クロノは思いきり頬を膨らました。
そうか、いじけているのか。頼られなかったこと。自分が知らないところで危険なことをしてたこと。
俺にできることがあるのに、知らないところで大切な友達がそんなことになってたら、俺だってきっと口を挟みたくなるよな。
「ごめんな、クロノ。俺だってさ、お前に頼るばっかりは嫌だったんだ。きちんと肩を並べられる友達でいたいだろ?」
ちょっとだけ照れくさいけどそう正直に伝えると、クロノは頬を膨らませたまま視線をそらす。
少しそわそわしたその様子は嬉しそうで、このちょろい友達はやっぱり人間臭いなーと、微笑ましくてまた笑ってしまった。
俺、クロノのことはちょっとだけ弟分だと思ってるかもしれない。神様なんだけどな。
解放されてふらふらと飛んできたリドルをまずは正座させて説教し、燃え尽きたリドルの額を突っついて仕方ないから
クロノはまだちょっとリドルをにらんでいたが、後はリドルが自分で謝ればいいと思う。
「でもさー、ご主人様ってば、弱くはないんだよー?いざというときのためには、あとは慣れだけだと思うんだ、ボク」
悪びれなくリドルが口にして、さりげなくクロノから隠れるように俺の背中に回り込む。
いやいや、あれに慣れたら人間としてダメな気もするんだが。
街中に怪獣が出ても巨大ロボが出ても戦えてしまう領主は目指してない。せめて休日早朝のヒーローみたいに変身させてくれるならちょっとテンション上がるけどな。
でも、いざというときに発揮できるのは、やっぱ付け焼き刃じゃなくてちゃんと身に付いた力だけだよな。
一夜漬けの英単語は道端で話しかけてきたアメリカンには通用しないものだ。
懲りないリドルの主張に、クロノの様子を伺ってみると、別に怒ってはいないようだ。
背中でしゃっくりのようにびくんびくん身体を震わせる案外気弱な妖精は聞けそうにないので、俺はクロノに聞いてみた。
「やっぱさ、こないだみたいな時に備えるんだとしたら、実践訓練って必要だよな?」
さっきみたいな無茶振りはもちろんノーサンキューだけど。
クロノは少し考えてから、頷いた。
「戦いたいと思うなら慣れは必要だし、その方が危なくないんじゃないかとは思うよ」
水色の瞳で真っ直ぐと俺を見て、落ち着いた様子で返してくるのは、どうやら危険なことをしないなら反対という訳ではないようだ。
「そうだよね、そうだよねーっ。やっぱ実践大事だよっ。ってことでダンジョン潜っちゃう?」
背後に隠れたままの妖精が今までの殊勝さを脱ぎ捨てて明るい声でまたとんでもないことを言い出した。
もしかしたら、クロノが止めにこなきゃ、俺、今頃ダンジョン送りだったんじゃ…。
っていうか。あるのか、ダンジョン?この比較的安全そうな国に。
「いや、初期装備でソロでダンジョンもぐるドMプレイとか生身で絶対しないからな?ってか、ダンジョンってこの国にもあるのか?」
背中越しに騒ぐリドルの額を感覚だけでデコピンの刑に処してから、俺は尋ねた。
デコピンが掠めて直撃するより痛かったらしいリドルは、呻きながら頭を押さえてふらふらと俺の頭の上に飛んできて座り込む。
その様子を眺めたクロノがため息をついて口を開いた。
「君は本当に落ち着きがないね。危険なことはだめだよ。次に一樹を危険な目にあわせたらこの世界から追放するからね。
ダンジョン?なのかな、魔窟はあるよ。濃い魔力だまりの中でも、魔物が生まれやすい場所。 魔物がたくさん生まれる場所は、空間も広がってくるから、広い洞穴の地下帝国みたいな。
魔法結晶や魔力の宿った植物、鉱石なんかがたくさん取れるから、冒険者はよく訪れているみたい。これがダンジョンであってる?」
話の意を組んでクロノが説明してくれた。
この世界のどこかには冒険ファンタジーも潜んでいるのか。乙女ゲームとハイファンタジーは共存できたのか。
俺は乙女ゲーム枠なんだけどな。ダンジョンでレベルあげイベントもおこっちゃうのか。そのうち魔王が現れるフラグかな。
思考がちょっと明後日に旅立ってしまったが、いや、これは受け入れちゃだめだろと我にかえった。
「いや、無理だろ。普通そういうのはソロプレイに向かないだろ。仲間引き連れて安全にするものだろ。」
「はいはーい、ボクがいるんじゃん?」
「いや、二人パーティーって結構きっついやつだし。」
「だいじょーぶ!ボクたち妖精は冒険者の味方になるのが定石ってもんでしょ。探索の経験ならいっぱいあるから!」
「回復支援系と二人は絶対きつい」
ついつい思考がゲーム寄りになりつつも、リドルと問答する。こいつ、そういうのが好きなんだな。なんとなくわかった。
リドルは俺の前世の世界の妖精とも記憶を共有しているというだけあって、こういう会話が普通に通じる。そしてちょっぴりゲーム脳だと思う。
「一樹が行くのなら、僕も一緒に行く。」
むっとしたように宣言されたクロノの参戦に、俺とリドルは顔を見合わせた。
「クロノがパーティーに加わったら、もうそれレベリングじゃなくて観光?」
絶対に戦闘は開始されない。
それから俺らは賑やかに紆余曲折を話し合い、ようやく一つの結論にたどりついた。
「絶対的にパーティーメンバーが足りない」
他に誘える相手が皆無じゃないか。俺たち乙女ゲーム勢のしかもモブ軍団だぞ。
「ここはやっぱり出会いと別れの酒場にでもっ!」
「あるのか?」
「どっかにあると思うの!魔窟近くの冒険者の町とかなら」
リドルの適当な考えは、まあ間違ってはないのかな。冒険者だって一人でダンジョン攻略したくないよな。
と、いうわけで、俺とリドルとクロノはパーティーを組んで、次回は主戦力をスカウトに行くということで話は落ち着いた。
俺、本職はカトゥーゼ男爵家嫡男だから。
強さを求めて奔走も、ガチでのレベルあげも違うと思うんだ。
まあ、これも一つの課題ってことで。
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