リューの修行 1

「魔法剣っていうのは、ご主人様がよーく知ってるゲームとかのあれだよ。

 ホントはご主人様なら、魔物と戦える魔法を使えるはずだけど、たぶん殺生に忌避感があってできないんだと思うの。

 だから、魔法の威力を乗せて物理で殴っちゃえばいいってこと!間違ってうっかり魔法剣で人間ボコボコにしたりはしないだろうから安全でしょ?

 生身で魔物と対峙するなら、速度や身の守りには身体強化も必要かなーっ。これはご主人様ならカンタンだと思うよ。

 でも人間だから、マズったら死んじゃうからね?」


 リドルは胸を張ってドヤ顔で説明する。


 とりあえず、一歩間違えば命はないっていうのは、今も条件が変わらないよな。


 あんなデカイ魔獣を物理で殴るなら、身体能力的なものは全く足りないが、そこは強化できるらしい。


 身をもって接近戦するのか。でもまあ、やられる時は多分接近されてる事が多いだろうし、変わらないか。


 接近されなくてもやられるなら、いつの間にか魔王は世界を滅ぼしてました的などっちにしてもゲームオーバーだ。


 色々と考えてみたけど、俺としてはすごく条件がいいんじゃないかと思う。

 師たちに学んだ『力』と『強さ』、たゆまぬ鍛練、着実な危機回避に加えて、それから奥の手に起死回生の魔法剣。


 なんていうかな、俺の心の保険なんだよ。

 好き好んで戦いたいとは思ってないけど、何もできないと怯えて過ごしたくはない。だから、死に直面したときに、死ぬ気で抗う手段があればいい。


 俺は魔法剣をつきつめてみようと決めた。



「オッケー。じゃ、まずは身体強化魔法からね。ボクが魔法をかけるから、ご主人様は感じて覚えてみて?」


 場所はティリ山脈。この前魔獣に出くわしたと思えない静かな魔法植物の森の中。


 ちょっとあの時の気持ちを思い出さなくはないが、リドルが感じる限りでは近くに魔物はいないらしい。

 そもそも、ティリ山脈は魔法植物の聖地みたいなものなのと、狂暴なボス魔獣がいたことで、魔物は多くないとのこと。

 この山脈を覆う魔法植物と繋がっているリドルがいうのだから、間違いはないだろう。


 ―――ああ、この感じはRPGだな。


 マグナが言っていた、立場っていうのがよくわかる。

 本来率先して戦うべきじゃない『領主の息子』は、パーティーの一員であってもいいけど、主戦力である必要はない。

 誰もが得意な役割をこなして、足りない分は努力じゃなくて『仲間』で補って。そうやって頼る事ができると、安心感は違う。


 今、リドルがいることで俺が怯えずに済むように。



 リドルの主属性は『緑』で、他はわずかに使えるものもある程度。

 攻撃魔法は得意じゃないらしく、強化支援バフ弱体化支援デバフ、状態異常解除、それから回復魔法がメインだそうだ。

 ゲームなら回復支援系といったところだな。


 ちなみに、ステータスを覗こうとしたが、何語かわからない文字になっていたし、見ている間にも数値が増減していた。人間の常識でははかれないのだろう。



 空を漂うリドルが片手をあげると、そのてのひらに光が集まり、俺に向かって飛んでくる。

 身体が軽くなったような不思議な感覚。試しに跳び跳ねてみると、軽やかな身体は見上げても頂きが見えないくらいの大樹の、そのてっぺんに並んだ。

 真下を見るとちょっと怖い。下手したら墜落死しないだろうかとも思ったが、落下の速度はえらくゆっくりと感じた。


 でもやっぱりこの慣性は削らないとダメなんじゃないか?


 そうのんきに考えつつ半分の高さになった頃に、また光が飛んでくる。

 新しい身体強化を受けて、肌に受ける鋭い空気の勢いがふっと和らいだ気がした。


 地面にたどり着く。どしりと足に走った衝撃は耐えられる程度で、何か軟質でクッション力があるものが身体を包み込んでいる感じだ。


 次に、走ってみる。周りの世界がコマ送りになったみたいにゆっくりになる。

 自分の動きだけは変わらない。ただちょっと、本来の時間の経過はわからないな。ああ、時計を見ればいいのか。


 俺は魔法で表示させた時計を見つめて数を数える。

 …18、19、20…。ざっと20倍以上、体感速度はゆっくりになっているみたいだ。

 つまり、動きは約20倍速か。100mを30秒で走ったって、時速1200km。旅客飛行機は超えてる。マッハというやつだ。


 俺、今よく生きてたな。

 速度上げたら耐久もあげないとヤバいな、空気抵抗で燃える。


 ってかさ、明らかにリドルの防御支援、間に合ってなかったよな?



 リドルがいた場所を眺めると、ふわふわ飛んできた光の軌跡が俺の前で止まって、現れた妖精はばつが悪そうな笑みを浮かべた。


「ご主人様、速すぎてついてけないじゃん。ボクのせいじゃないんだからねっ」


 ごまかし笑いのリドルは俺の周囲をくるりと回って、温かな光を放った。

 その光、回復魔法を受けとると、確かにじんわりと癒される感じがした。気づかなかったけど、しっかりダメージを受けてたようだ。


 あれ、俺のもともとの身体能力もそこそこおかしいのか?



 リドルに支援魔法を解除してもらって、まず俺は自分のステータスチェックをしてみた。


 6歳の時の俺のレベルが7だったけど、2年くらい過酷に色々と鍛えられたにも関わらず、今のレベルは13とあまりあがっていなかった。


「うーん、そんなにレベル高くないのに。俺の防御力ってもともと高い?」


 詳しいステータスの数値をメモしてる訳じゃないけど、知力、体力等の数値はそこそこ上がったのに、レベルはなかなか上がらないんだよな。


 リドルは俺の肩に腰を下ろして、俺の見ているステータスを覗きこみ楽しげに笑った。


「あっはっ、ご主人様のステータスめっちゃ辛口。そーだよね、比較対照がないとステータスって上手く作用しないし、ご主人様あんまりたくさんの人を分析してないでしょ?ご主人様のよく知るステータスに訳すとね、こんな感じー」


 そう言えば、クロノもステータスは標準化されてないから、基準はそれぞれで比較しかできないって言ってたよな。俺の基準はちょっとズレてたのか。


 リドルが俺のステータスをいじくる。

 頭のなかのイメージがかき回されるのはちょっと酔いそうな感覚だったけど、任せているとどこかで見たお馴染みのステータスが現れた。


 ―――――――――――

【ウリューエルト 】

 りょうしゅのむすこ

 せいべつ:おとこ

 レベル: 45

 HP:430

 MP:580

 ―――――――――――

 ちから:103

 すばやさ:233

 たいりょく:280

 かしこさ:457

 うんのよさ:986

 さいだいHP:430

 さいだいMP:598

 こうげき力:60

 しゅび力:152

 ―――――――――――

 E ぬののふく




 ―――――――――――


 ………もうなにをどこからツッコんでいいのかわからない。

 とりあえず、リドルが某国民的RPG好きなことだけは確実にわかったけどな。


 しっかし、レベルかなり上がってたし中ボスくらい倒せるだろコレ。装備と有効な攻撃手段さえあれば。

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