力と強さ :師、リドル
今の俺が、強くなれる方法。マグナが示したのは、リドルだった。
リドルは俺の魔法薬関連の先生ではある。だけど今までは、魔法植物と魔法薬に関連した教えしか受けたことはない。
妖精は共同の記憶を持っているのだと、リドルは言っていたが。それがどんなものなのか、俺にはちょっと想像がつかない。
キラキラと輝く魔法植物のまとう光の中で、俺はリドルを呼んだ。
リドルはそこにいたかのように一番大きなツルペータ草の上に現れて、小さな身体の存在をアピールするかのように光の軌跡を描いてくるくると空を舞う。
それから指定席であるように俺の肩にちょこんと座った。
「はーい、ご主人様。今日も美味しい
屋敷の内門の外、外門までの広場の真ん中の道から片側、つまりは半分ほどの面積を埋め尽くそうとしていた魔法植物たちは、門の外まで侵略しようと野望を抱いていたようだ。
「ダメに決まってるだろ、領主館に人が入りにくくなる。しかも、うちの敷地内じゃなかったら乱獲されても文句は言えないぞ?どうせなら道の反対側にしとけよ」
魔法植物の森にそびえ立つ魔境アトラント領主館、なんて誰も踏み入りたくないだろ。領民もビビるし、領外の人なら回れ右だ。
飽きれ混じりに肩に乗るてのひら大の妖精のおでこを突っつくと、リドルはそのまま倒れて後ろにくるりと宙返りし、笑いながら俺の目の前に飛んできた。
「やっさしー、ご主人様。今からこの広場はボクたちの第二の楽園だね。楽しみー」
どうやら確信犯だったようだ。でもまあ、空き地の景観が芝だろうと魔法植物だろうと、整備されていればいいか。街道が森になるのとは違うだろう。
「とりあえず、それはいいよ。俺、リドルに聞きたいことがあったんだ」
いつものペースで流されそうだった。本題だ。
こてんとあざとく首を傾げてこちらを見上げるテンプレの妖精に、俺は切り出した。
「俺は、どうしたら強くなれる?」
リドルは腕組みしながらくるくると空中を回った。アクロバティックな曲線の光の軌跡が広場に煌めく。全くもって落ち着きがない。
「うーん、うーん、強くなるの?ご主人様って基本、強いじゃない?ご主人様が弱かったらこの国に強い人なんかいないと思うの」
腕組みしたまま俺の前に降ってきたリドルはあぐらをかいて空中に座った。はばたく透明の羽はそよ風も起こさないではためいている。
空を飛ぶのも物理法則ではなくて魔法なんだろうかなんて過りながら、俺はリドルを見つめる。
「俺は強いのか?」
しかめ面でうなるリドルに聞き返した。何のことなのか、わからない。物理でも魔法でも、戦う力がないっていうのに。
リドルはぱちりと目を開き、瞬きしながらこちらを不思議そうに見つめた。
「えっ?強いよ。ボクたちご主人様の魔力でこんなに繁ってるんだよ?ティリ山脈と同じことができるご主人様が弱い訳ないじゃないか。
どのくらい強いかっていうとね、多分数千年来くらい?この国を魔草帝国にできちゃうくらい。魔草の帝王、カッコイイよー?」
いや、中二病の上に既に草生えてるから。その称号ツッコミ待ちだろ。魔王ならぬ魔草王になんてならないから。ってかお前アトラント乗っ取ろうとしてね?
俺は片手で額を覆った。リドルと真面目な話をするのは結構エネルギーを使う。養分として
「いや、そうじゃなくてさ。この前ティリ山脈ででっかい魔獣に襲われて、クロノに助けて貰ったから。
そこにはハルもいて、こういうときに友達を守れないってつらいなって思って」
とりあえず、認識を擦り合わせるために簡単に説明すると、リドルはまた羽ばたいて俺の頭の上に腰かけた。どうやら同調して記憶を覗いているらしい。
「あー、こいつね、ティリ山脈に数千年くらい居ついてた
えっと、ご主人様基準でLv.100をMAXにして換算すると、Lv.80くらいかな。ラスボスダンジョンの前座くらいだねー」
俺の上からリドルの元気な声が降ってくる。
……なんて恐ろしいモノがいるんだティリ山脈。
でもそうか、この世界は冒険者に優しい、エリア別に魔物のレベルが決まってるような王道的RPGじゃないからな。
もしそうだったとしても、ティリ山脈だとかアトラント領内の未開の地が高難易度高リターンのボーナスステージなのかもしれないけど。
「こーんなの、この国なら対峙できる人間はマグナきゅんくらいしかいないよ。
あ、国王周囲ならちょっとはいるかも。でも勝てるのは神様くらいじゃないのかな。
ご主人様は、こういうのに勝てる力が欲しいの?」
俺の頭からぴょんと飛び降りて、リドルが俺の前でこてんと首を傾げる。
そう言われると、なんだか自分の願いがあまりにも分不相応なように思えて、俺はぐっと言葉に詰まった。
この国の精鋭ですら対峙するのがやっとな魔獣に、勝てるようになりたいのか。
そのまま頷けるほど、身の程知らずでも夢見がちでもなかった。
でも、そうだとしても、何もできないのは嫌なんだ。
「勝てなくてもいい。大事なものを守れるなら、なんとか逃げ出せるくらいでもいいんだ」
ぐっと拳を握りしめて、駄々をこねるように収まりきれない願いを口にする。
リドルは、静かに俺の言葉を静かに聞くと、ふーんと小さく呟いた。
金の瞳を静寂に染め、煌めく金の髪から淡い光を発して、世界を超えて古代からの記憶を持つ妖精は問いかけた。
『強大な力を持つというのは、その力を振るう覚悟と責任を負うということ。たとえどのような結末を招こうともね。
神の加護せし只人よ、そなたにその覚悟はあるのかしら?』
そこにいるのは、年若いいたずら好きのツルペータ草の妖精ではなく、多分リドルの言っていた妖精の『共同体』。
感情のない透明な金の瞳は俺の全てを見透かすように、真っ直ぐに俺へと視線を注いでいる。
いつもの歌うような弾んだ声音は、今は静かに凪いで起伏なく言葉を連ねる。
俺は真っ直ぐにその瞳を見返した。
「わからない。でも、助けることもできない以上の後悔はきっとしない」
妖精は綺麗な顔でふわりと微笑んで、それからいつものように、にぱっといたずらっ子の顔で笑った。
「ご主人様の強さを手にいれるっていうの、ボクちょっと心当たりがあるよ。
はるか昔にもね、ご主人様みたいに魔法適正はすっごいのに、信仰的に殺生を嫌う部族がいてね。その部族が選んだのが、物理+魔法、魔法剣ってやつだったんだ。
物理の手加減を加えられる魔法。魔法を使う相手が剣ならば、ためらわないでしょ?もちろん、強大な相手と直接対峙する勇気さえあれば、だけどね」
乙女ゲームの世界観に魔法剣。貴族令息としては全く不必要だし、ボスクラスの魔物とも対峙できる、人相手ならオーバーキルの強大な力。
俺は本当に、何を目指しているんだろう?
ちょっと戸惑いもあるけど、俺は俺の大事なもののために、強くなりたいと願っていて、これは譲れないんだから、仕方ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます