新年会とホームパーティー 1

 年が変わった。

 この世界は不思議なことに、暦だけは元の世界と一緒なんだよな。

 クロノが生まれた世界は、俺の前世の世界と一緒らしいから、それもあるのかもしれないけど。


 季節は一応四季をなぞらえてはいるものの、この辺りは春と秋が長くて夏と冬が短い、快適な地理である。

 アトラントの1月はそんな短い真冬の真っ盛り。雪が降ったり霜が張ったりもする、短いけど畑の休息の時期だ。


 その間領民は休暇を楽しみつつも、紡織に勤しんでいるらしい。

 アトラント産地の綿や麻は、質は悪くないが生なりか単色染めの地味な物が多く、織りもシンプルでこれといった特徴がない普段使いのものばかりだ。

 全て領内で消費される分である。

 この辺はいずれ詳しく調査して何か手が加えられないかなと思ってる。



 どの領地の主も、中央に領主が召集されるからには転移拠点ワープポイントを持っている。

 冬場だから交通が断裂される、なんて事がない以上、冬場でも社交はいつも通り行われている。


 だが、俺は自宅での友人たちとの交流以外のお茶会にはしばらく顔を出していない。

 第三子を妊娠中の母のつわりがひどいからだった。

 同様にハルの母であるソズゴン侯爵夫人も身重で、ハルも社交の場にはあまり出ていないらしい。

 物腰は柔らかく、所作は優雅で、美形、身分良し、穏和な性格のハルは、最近お姉様がたにモテモテらしいとのユーリ情報。

 ご令嬢がたには残念だったなと棒読みしておこう。



 そんなこんなで、お茶会で忙しい時期に会う機会が減ってしまった俺たちは、友人たちだけで新年会をしようということになった。


 貴族社会では、お茶会やパーティーは社交である。

 俺たちが集まってお茶会するのだって、招待状だお礼状だと、実は形式ばったやり取りをし、必要最低限の挨拶だって必要だったりする。

 パーティーってもっと大規模で、面倒だなってちょっとうんざりもするんだよな。


 だから、今回はあえてのホームパーティー方式にしようと提案してみた。

 小さい頃する友達を招いてのお誕生日会みたいな、アットホームでユルい新年会。皆には馴染みがなかったが、説明すると乗り気だった。

 こうして新年会、ホームパーティー計画を立てることになった。



 今回、ホームパーティーのお手本を見せるのはもちろん俺だ。

 ホームパーティーって、どんなのだったかな。

 もちろん人によって違うんだけど、好きに摘まめる料理、サンドイッチやフライドポテト、ご飯時ならからあげやエビフライとかのお弁当屋のオードブルっぽいものとか、スナック菓子やジュース、寿司パやタコパもあったなー。

 そういうのを適当に飲み食いしながら、ゲームしたり、映画やアニメみたり、トランプやUNOしたり、飽きた奴が漫画読んでたり。

 これって決めてなくて、ダラダラしながら、何となく遊ぶやつ。


 なつかしいな。この世界で貴族に生まれついての常識もあるけど、俺が5歳で前世の記憶を思い出したのもあって。

 なんかこう、目の前に目標が最初からあって、 ひたすら目標に向けて進んできた感じがする。


 もちろん友達と楽しく過ごすこともたくさんあるけど、前世の時みたいに、そこそこオトナになった時に昔はガキだったなーって思い出すような事が少ない。

 給食の余ったデザートのためにじゃんけん大会するだとか、特撮ヒーローごっこして怪我をするとか、なぜか消しゴムかじってみるだとか、俺は前世の子供の頃を覚えてるから追体験はしなくてもいいんだけどさ。


 ユーリやハルにとって、そういう子供らしい時間がないのって、ちょっと寂しいんじゃないかと思うんだ。

 まあ、貴族として当たり前って言われたらそうなんだけど。


 そこに至れるかは別として、ちょっと緩く、気心知れた仲間たちで自由な時間を過ごしてもいいんじゃないかな。

 貴族の子供としてではなく、単なる子供で友達として。



 場所は、半ばオフィスと化した俺の部屋を考えたんだけど、領地開発の資料や様々な本に占められているし、特別感がちょっと足りない気がする。

 かといって、他の部屋を好きに改装して使うなら、使用人たちにバレバレで寛ぎにくい。

 どこかないかな、さすがにおどろおどろしい古城は論外だし。

 場所だけあれば、なんとでもなるんだけど。


 俺は最初から行き詰まって考えた。

 建物があって、安全で、内装を好きに扱えて、人目につかない所。

 そんな都合のいい場所ないよな、造りでもしないと。


 ―――造ればいいのか。



 思いついて秘密基地を作るようなワクワク感が溢れる。

 あるじゃないか、都合のいい場所が。


 俺は瞬間移動ワープで、それを確かめに行く。

 人里遠い森の奥、湖のほとりには石造りのロッジ。課外授業の際にマグナが魔法で創ったものだ。

 石なので、扉はないただの小屋。雪の舞う冬の寒さの中で冷たい石のタイル張りだし、これは寛ぐどころではない。



 まずは、もっと広くないとだよな。

 そう考えると、頭の中にイメージがよぎった。


 俺は建設系の土魔法が使えて、規模が大きくて魔力を持っていかれるから封印していたのだが、魔法の精密コントロールを覚えた今…実は、色々できるんじゃないだろうか?


 床や壁の面積を伸ばす。頭の中に完成形を思い浮かべると、石の壁は姿を変える。

 足りないはずの建材は、いつの間にか増えてて材料不足にはならない。


 今度は、間取図を思い浮かべる。

 領主館のように広くなくてもいいけど、皆で寛げるリビングダイニングに、寝室に使えるくらいの部屋が二部屋くらいあったら便利かな。

 雑魚寝でキャンプとかもできそうだ。

 あとは、キッチンとトイレは欲しいな。できればシャワーまで。

 あれ、でもこれ見かけはできるけど中身はできないやつだ。


 この辺は調べるか、マグナかソルアに相談してもいいかもしれない。

 魔法道具なんかの購入でいけるなら、へそくりあるんだよな。


 実は、アトラントの山奥には立派な宝石が採掘できる鉱山が複数ある。全くの手付かずでだ。

 将来のアトラントの資産だから、あまり無駄遣いはできないけど、こんな時くらいはいいだろう。


 扉を作るのは緑魔法。

 一本の木が伸びて、ぱかりと割れて、年輪模様の見事な扉板に変わる。

 取り付けるための蝶番を作るのが最難関だったが、一所懸命思いだしつつ試行錯誤しなんとか完成した。

 取り付けるのは魔法で一瞬なんだけどな。


 この壮大な改築に、魔力ポーションを三本空けた俺は、初めてポーション酔いを起こした。二日酔いみたいでちょっと気持ち悪い。



 やり遂げた満足感で隠れ家的な別荘を見上げて俺は気づいた。

 もし俺が一庶民だったら、もう魔法だけで生きていけるな。


 まあ、領地ごと幸せに生きていくためには、まだまだ足りないんだけど。

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