肝試し探検団 2

 好奇心に刈られた一団は、エントランスホールを抜けて、幾つかの大ホールや客室なんかがあったと思われる、所々が崩れて植物が根差した壁の間を歩いていく。

 中庭だったらしい場所だけは外の光を浴びて明るく、天の国であるかのように野生へと進化した美しい花々が咲き乱れていた。


 広い城内はだいたい、崩れたり風化して、カーテンやカーペットは砂のように塵となり床に積もっている。

 たくさんの部屋を見て歩き、かろうじて残っていた陶器や装飾品なんかを皆で確かめていった。


 暗がりに慣れてしまえば、昔の歴史的遺産に確かに感慨深い興味は尽きない。

 新しいものを発見する度に、宝箱を見つけたみたいな気分で、俺たちは古城の中を探索した。


 クロノがふっと目を細め指差した場所に、最初に飛び付いたのはテンションがあがり通しのマグナである。

 そこは一見、ただの壁だった。ただの壁なのに、他の壁とは違いどこか不自然なほど、劣化せずに綺麗に残っている。

 何の戸惑いもなく、マグナが壁に埋まっていった。


 壁に、埋まっていった?


 お宝に目が眩みっぱなしのソルアも続いて壁に吸い込まれる。


 残された年少組は顔を見合わせた。

 ちなみに、ユーリの侍女は卒倒しそうな顔をしている。また新たなホラーに直面したもんな、お互いドンマイだよ。


 俺はおそるおそる壁に手を伸ばす。触れたはずの掌は壁を透過する。何もない。

 そうか、幻影なのか。



 目を瞑って、思いきって壁に向かって歩く。数歩歩けば、床に馴染みのある柔らかな感触を感じる。瞼の裏は、じんわりと明るい光を感じていた。


 目を開くとそこは、異国情緒を感じる豪奢な部屋だった。

 先に突入した年長2人は歓喜に溢れてあちこちを確認して回っている。

 クロノは壁にかけられた美しい女神の絵画の前で、それを眺めて柔らかに目を細めていた。銀の髪に水色の瞳の、慈愛に満ちた女神の画は、どこかそれを見つめる顔に似ていた。


「この部屋全体に、固定化の時魔法がかけられているようでございますね。まことに素晴らしい、まさに現世の奇跡。

 こちらに有るのは魔法を維持するための補助魔法陣であるようです。アトワの末裔の伝統紋様は、魔方陣が礎であったのですね、素晴らしい!」

 興奮しきりのマグナが壁に描かれた複雑な模様を指せば、ハルがキラキラした目で駆け寄って一緒にそれを見つめる。


「リューくん、紙とペン」

 勢いよくこちらを向いたソルアが手を差し出す。

 はいはい、持ってるよ情報化収納インベントリの中に。

 もはや主と従は下剋上を遂げているが、渡してやるとソルアもその輪に加わって魔方陣を模写しはじめた。


 熱意溢れる魔方陣談義が繰り広げられている。あのテンションには入っていけない。


 俺はユーリと部屋の中を見て回る。

 見かけたことがないデザインや造りの豪奢な家具、写実的な淡い色調の絵画、宝石や装飾品なんかもたくさんある。


「王族の隠し部屋だったのかしら。今にない意匠がかえって新しく、とても優美ですわ。王都の貴婦人がこぞって求めそうね。

 古典様式として我が家のデザイナーに押さえさせたならば、きっと社交界で良いご縁をいただけそうだわ」


 上質な調度品を前に感動、ではなく淡々と評価を下して、社交の道具にしようと目を輝かせるユーリも、やはり普通のご令嬢ではなかったようだ。

 現実感のないさまざまな展開に青い顔をしたユーリの侍女だけが、俺の凡人仲間のようである。



 日が暮れるギリギリ前まで古城の探検は続き、時間切れでようやく解散の流れになった。

 価値のしれない宝になるだろうこの古城の一部屋は、満場一致でこのまま残す事になった。

 千年超えの固定化の魔法が解かれたら、浦島太郎の玉手箱みたいに総ての時間が甦りダメになるかもだしな。

 見つけた宝物以上の価値が、この遺跡にはあるようだし。


 ともあれ、少年が胸おどらせるような探検からは一風変わったものだったけど、仲間たちとの、彼らしさでいっぱいの、楽しい探索だったと思う。



 ―――なお、肝試しとしては俺の一人負けだったのは間違いがない。

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