街並み

 具体的に考えたことがなかった。

 いつも見るコンクリートの街並み以外の、例えばこんなに青く澄んだ空の下で、幻想的なアニメに出てくるようなファンシーな建物の建ち並ぶ中で、生きている人々の姿を。

 剣や魔法の世界、夢幻の生き物が実在する世界、幼い日にいつか心を躍らせた冒険や夢物語があるだろう世界。そんな世界が今、目の前にあるって実感。


 ファンタジー世界にすごく憧れていたとかじゃない。だからこそ夢想したことがなかったのもあるのかもしれない。

 けれど、実際に目にするとものすごい感動に胸の内をしめられた。

 ここに、現実がある。この世界で生きている。

 きっとこの世界にも、つらいことだとか厳しい現実みたいなものはたくさんあって、決して夢あふれる世界なんてものではないんだろうけど。

 だいたいあのゲームを考えたら弱小田舎貴族の末路は果てしなく不安でしかないんだけど。

 それでも駆け巡る興奮と感動は止まなかった。



 画一的な、直線的なビル街とは違い、さまざまな色や形や高さの建物が、道の脇に並んでいる。

 商いで賑わっているのは主に幾つかの大通りで、小道に入ると食料品の加工場や食堂、一軒家に集合住宅などの工場と生活の場が集まっている。

 食料品は多いけど、装飾品や小物、高級衣類なんかは大通りにでかく構えた商店に偏っているようだ。輸入品かな。


 街人が身に付けているような服は、小道のどこそこで売られている。単色だけど種類は選べるくらいはある。

 街行く人は健康そうで、表情も明るい。質素な服装だけど清潔そうだ。

 街の規模は……隣街との距離をざっと考えると小さいんじゃないだろうか。自給自足に近い生活をしている地域や小集落が、その間にありそうな気がする。

 服や日常雑貨の店が幾つかある街の門の近くにたくさんあるのは、街の外から買い付けに来ているからかもしれない。やっぱり商業は足りてなさそうだな…。


 いくら歩いても疲れない仮想体なのを良いことに、クロノとたわいもない話をしながら自転車くらいのスピードで街を眺めて歩く。なかなかシュールな絵面だが、周りには見えないんだから問題ないだろ。

 今日一日で、もうすっかりとクロノの力を使いこなして自由自在だ。本当に便利だ。時間効率はんぱない。


 高かった陽が傾き、空がわずかに赤らんだ。きっと夕陽のさす光景も綺麗なんだろうけど、そろそろタイムリミットかな。

「そろそろ、戻らないとな。クロノ、今日は本当にありがとう。思ってたよりずっとはかどったし、わかりやすかったし、楽しかった。また次もよろしくな。」

 一日手を繋いでいた美神は子供のようにめいっぱい嬉しそうに笑った。



 次に目を開けると、案の定自室の床の絨毯の上で。

 ……これ見つからなくてよかったよ、倒れてるって騒ぎになるところだった。


 ちなみに起き上がってからしばらく、俺は大人の仮想体と実体のリーチの差に慣れずに何もないところで三回つまずくはめになった。

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