計画初動

 計画を書き連ねた日から、2ヶ月経った。

 計画の始めってほんっと大変だなって思い知ったね。できそうな事を挙げてたつもりだけど、簡単にはいかなかった。


 まず、勉強は普通に可能。

 といってもまだ貴族の初等教育で、家庭教師に課題を出して貰うことで少し幅が広げられた。

 それと、よく考えたら元世界で生きてきた記憶って無駄じゃなくて、もともと成人相当の…っていっても、社会人経験はないけど、でも初等教育どころかこの世界からすると研究職レベルの知識がある分野もある。

 もちろん、歴史とか地理とかはゼロからなんだけどさ。

 自分の計画のために必死なのに、勤勉なとっても良い子の評価を得て、なんだかむず痒い気分である。


 あとは、庭を走った。

 もともと日本でも日常的にトレーニングするような習慣はなかった。

 だから、走る以外の体力作りが腹筋背筋スクワットくらいしか思い浮かばない、しかも知識レベルだ。

 だが、俺は肉体美を目指している訳ではない。細マッチョな洋顔幼児を目指したりはしない。

 だから、ひたすら走った。おかげで飯がうまい。ちょっぴり体つきは健康的になった気がする。父に似てこんがり焼け色になってきてもいるけど。

 体力作りを目指す俺の姿をみて感心した父と話し込み、剣術の先生をつけて貰えることになった。まだ顔を合わせて数日だけど、計画は軌道に乗ってきたと言える。


 同時に、魔法についても興味があることを父に伝え、こちらは教師を探してもらっているところである。

 クロノは魔法のようなものを使えるんだけど、息をするように(あいつ呼吸してるんだろうか?)使えるものだから、教える方面では全く役に立たずにいじけていた。だいたいクロノの魔法を人間が使えるのかも定かではない。


 熱意をもってプレゼンしたため、父の中ではやんちゃでガツガツした男の子になっていそうな気がする。が、俺は身を守る手腕が欲しいだけで思いっきり草食獣、それもサファリパークにいるのも気づかない系であると主張する。


 魔法はさあ、どうせファンタジー世界に生まれたなら、使ってみたいだろ?

 どうやら全員が使えるものではないらしいし、記憶を思い出した日に見た魔法が、国内でも類を見ない高いレベルだったみたいだけど。


 貴族関係の情報収集については、5歳児にはやれることが限られていた。

 母の後ろについてガチガチに緊張しながら、この辺りの貴族、縁戚やら近隣領主関係の集まるお茶会でデビューした。

 子息息女は年上ばかりで、俺を可愛がりつつ色々教えてくれる。

 このあたりの地方一帯が片田舎でのんびりした人柄が多く、平和で平穏でのどかなお茶会なんだけど、中央貴族の集まりにも顔を出す令嬢が、日焼けした肌の色ひとつでも見下され影で笑われるのだと嘆息していた。


 覚えた貴族関連の情報は、部屋に帰ると書き連ねた。

 だって、5歳児の記憶力だ。普段顔を合わせない親戚のおじさんおばさんに、小さい頃会ったのを覚えてる?って言われて思い出せた試しがないのは俺だけではないだろう。

 なんだかウリューエルトの頭は回転も記憶力もいい気がするんだが。俺が倒れてる間に神の力で脳細胞が修復がてら強化されてる気がするんだが。

 問題はないので追及はすまい。

 とりあえず、過信は禁物だから資料作りに励んだ。



 予想よりも多忙な生活をおくりつつ、もうすぐ3ヶ月を迎えそうな頃。

 ようやく時間が調整できるようになってきて、領地の視察の計画を実行に移すことにした。

 ほとんど初めて見るだろうこの世界の景色に、俺はわくわくした気持ちを止められなかった。


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