偶然ですわね

「あ、暑い……」


 日差しが燦々と降り頻る中、僕は通り慣れた道を1人歩いていた。

 マンションのエントランスから出て、歩いて3分のところにあるコンビニ向かう道だ。


 元は何の店かは知らないがイメージカラーが水色のそのコンビニは真っ黒な建物になっているので、この一帯では黒いコンビニと呼ばれていた。ただし、ジェットストリームアタックは仕掛けてこない。


「あれっ、仁……狩野さん。こんなところで奇遇ですわね」


 ジュースの棚からスポドリを取ろうとしていると後ろから声を掛けられた。反応して振り向くとそこには1人の女性が立っていた。


「えっ、安西さん?」

「はい、名前……覚えてくれてたんですね。わ、私の人生に一片の悔いもありませんわ」

「何処の世紀末覇者ですか!?」

「世紀末覇者? そんな事より先日は助けて頂いてありがとうございました。

 危うく彼氏いない歴=年齢の私が苗床にされるところでしたわ。このご恩はこの身体でお返し致しますわ。

 身体のあらゆるところを開発された私ですから、きっと仁……狩野さんにもご満足して頂けるかと……」

「言い方! もう少し……いや、おもいっきり気を付けて!」


 ここコンビニ。客はそれなりにいる。そして何を興奮しているのか声が大きい!

 自惚れではないが僕の容姿は目立つ。更にくそ暑かったので、今の僕の服装はノースリーブのシャツに短パンといった露出の高い部屋着のままだったので、余計に人の視線を集めていた。そこに大きな声でこの発言は……。


「ダメですか? でしたら狩野さんが私を更に開発して下さい。仁美……狩野さん好みの女に絶対なってみせますわ」


 もう無理! 僕は手に取っていたスポドリを棚に戻すと駆け足で店から出て行く。

 僕は仕方なく此処から更に歩いて3分程のところにあるコンビニに向かった。イメージカラーが緑色のそのコンビニはこの前洋子さんと入ったホテルの1階にある。


「暑い! 何で向こうまで行かなきゃならないんだ」


 先程のコンビニでスポドリを手にしていたが実際の目的はタバコだった。

 最近マイブームのソルトライチを手に取りレジカウンターに向かう。


「後、96番3つ」


 支払いをスマホで済まして店から出る。


「はぁはぁ、こ、こんなところで、はぁはぁ、偶然ですわね」

「いやいや、偶然じゃないでしょ! 間違いなく追っかけて来たよね? 息を切らすほど走ってきたよね?」


 両手を膝の上に置き、呼吸を整えてるのに……。白々しいにも程があるよ。


「ところで、はぁはぁ……、先程の私を開発する件に付きまして───」

「全然、全く、微塵も開発しないから。と、いうより何故そんな話しになった?」

「では、せめて連絡先の交換を……」

「ん、それぐらいなら良いよ」


 僕はスマホを取り出して連絡先を交換した。


「やった!」

「…………もしかして、ドア・イン・ザ・フェイス!」

「これで毎日私の羞恥姿の写真を仁美……狩野さんに送れますわ」

「送って来なくていいから。送ってきたらブロックするよ。それにさっきから、僕の事を仁美って呼び掛けて狩野に直してるけど別に仁美で良いよ」

「あぁぁぁ、なんというご慈悲を……。では、さっそく。仁美様、お慕い申しています」

「何で下の名前を呼ばせただけで告白されてんの?

 何で様付け? 僕の何処が良いの?」


 全く、李凛といい、安西さんといい、何でこんなのばっかり寄って来るのかな?


「お慕いする理由は……、領事館で私の事を抱き締めてくれた時の───」


 まぁ、それしかないわな。でもそれぐらいなら……。


「その時の顔を埋めたオッパイの柔からさが気にいったのです! エッヘン!」

「そこか! オッパイって言うなし! そして威張るな!!!」

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