New life

「な~んだ、つまんないの! 折角服まで脱いだのに」

「香織と……、えぇっと、香織? 飛燕? どっちで呼べば良いのかな?」


 1週間前、香織は飛燕の記憶を戻すために特別病棟の地下に入った。それと同時に僕も狩野守の全ての記憶を解放してもらっていた。

 何故こうも簡単に人の記憶を操作出来るのかはわからない。

 どうせ聞いても解らないし、解ったところで僕にはどうしようもない。しかし、1つだけ解ったことがある。


 ───元々持っている記憶の中を見ることは出来ない。


 もし、記憶の中を見れるのであれば、僕はこうして此処には居なかっただろう。


「そうね、日本がくれた戸籍では飛燕だから飛燕で良いかな? 守の記憶を持つ仁美ならそっちの方が呼びやすいんじゃないの?」

「自分がされた事と、目の前のを簡単に受け入れるね。僕はなかなかを受け入れることは出来なかったよ」


 そう言って僕は自分の頬っぺたを引っ張る。


「簡単も難しいも無いでしょ? 今これが事実として此処にあるんだから」

「哲学的相対性理論?」

「何それ?」

「知らない。それよりも服、着ようよ。宅配便の人が来るよ」


 2人でリビングに移動しらながら喋っているとリビングのテーブルの横に大きな段ボール箱が置いてあった。


「これでしょ? 仁美が帰って来たんだと思ってこの格好で出ちゃった……、てへっ」

「…………。土下座で迎えたの?」

「嘘よ、そんなのインターホンのカメラで解るじゃない。……嫉妬した?」


 嫉妬とはしないけどビックリするわ! でも、この性格が好きで本気で口説き落としたんだよな。


 そこで僕は飛燕から中国が日本から盗もうとしている技術について、僕が守るべき技術について初めて詳細を知った。


 ───人が想像出来る事象は全て現実化出来る。


 空を飛ぶ、暗闇を明るくする。今でこそ当たり前に飛行機が空を飛び、電気が夜の帳を明るくする。

 しかし、昔は出来なかった事だ。人は貪欲だ。そして考える。更にはそれを現実化してきた。

 だったら……、人の究極の願いは? 


 ───不老不死。


 しかし、それはまだ現実化出来ていない。しかし、細胞を活性化する方法は出来上がっていた。ただし、それは既に成長している人には宛はまらない。産まれてくる人にしかそれを施すことは出来なかった。


「でもさぁ、守っちが女になっちゃうなんて思ってもなかったわ。しかも目茶苦茶いい女だし」

「一か八かの賭けだったけどね、僕は勝ち残った。この身体には『M計画』の全てがつぎ込まれている。これで僕は君とに一緒にいられるよ」


 多分、洋子さん……、いや内藤尊はM計画の全貌を知らないのだろう。中国にとってこのM計画をアジアの首謀国としての地位を揺るがされる前に潰しておきたかった。だからこそ、水面下で米国と組み、米国系中国人の飛燕を日本に送り込んだのだろう。

 飛燕は日本が行おうとしているM計画を米国から潰す様に命令されているのだ。

 即ち、飛燕は米国と中国のダブルスパイなのだ。

 米国は既にこのM計画とほぼ同じ内容の試験を終えている。後は実行するのみの状態らしい。

 中国はこのM計画と類似した実験は一切されていない。中国側はこの計画を潰すのではなく、盗みたいのだ。

 そして、彼女にはもう1つ隠された秘密があるのだが、今ここでそれに触れるのは止めておこう。僕はそれらを踏まえた上で彼女を愛した。


 僕と彼女は米国と中国を敵に回したのだ。勿論、真っ向から2人だけで戦うつもりはない。


 『M計画』の内容を余すこと無く注ぎ込まれた僕の身体と彼女のとでこの2国を手玉にとってやるのだ!

 



 

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