僕が僕であるために

 どうやら僕の身体は媚薬に耐性が付いたらしい。


 あの後、僕は普通の診察室みたいなところに移動して体液と呼ばれる全ての物を採取された。血液、汗、唾液、涙、そして愛液……。

 血液は普通に注射器で採取されたが、その他の体液の採取は……、半分以上が洋子さんの趣味ではなかろうか?

 僕は洋子さんの凶悪な物を喉の奥まで突っ込まれ呼吸も儘ならなかった。


「薬に耐性は付いたみたいだけど、Mっ気は治ってないのね」


 それを言われるとぐぅの音も出ない。喉の奥まで突っ込まれ、呼吸困難で涙目になっているにも関わらず、からは涎を垂れ流している自分がいる。

 そして、この様に陵辱されればされる程、男言葉だった喋り方が女言葉に変わっていった。

 洋子さんが言うには、


「貴女の身体が女性としての感覚を取り戻す度に、刷り込まれた男の記憶が薄れていってるのだと思うわ。貴女は産まれた時から女性なのだから。

 貴女がそうして女性らしくなっても、狩野守の記憶がベースになっているから、謂わば狩野が理想とした女性になってると思うのよね。

 それが、藤野香織なのか……、それとも母親なのか……。そう考えると、貴女がMぽいっのは狩野の性癖だったかもしれないわね」

「……」


 これって自分からエッチな事をお願いするより恥ずかしい!

 僕が狩野守の記憶を持っているだけに否定が出来ない。

 言葉遣いもそうだ。既に殆ど意識せずに女言葉で喋れるのに、一人称だけは意識しないと『私』ではなく『僕』と言ってしまう。

 俗に言う僕っ子っヤツだ。これも狩野守の記憶に残っている。



 スズキDR400SMに跨がりバックミラーに引っ掻けていたフルフェイスのメットを被る。そして、スターターではなく、キックでエンジンを掛けた。

 この一連の動きも狩野守の癖だ。因みにこのオフロードバイクも狩野守本人の持ち物だったみたいだ。

 

 時刻はもうすぐ16時になろうとしている。病院の地下駐車場から地上に出た。薄曇りの空に対して肌に纏わりつく空気はなかなか暑い。

 R26線を南下し、自動車専用道路に入ると僕はアクセルを今までより少し強めに開ける。

 時間にしてギリギリかもしれない。17時に自宅に宅配便が届く筈だ。しかし、お約束の様に道路は渋滞している。

 多分フロントが受け取ってくれるだろうけど、中身が中身なので自分で受け取りたかった。


 自宅マンションに到着したのは17時25分。地下駐車場から暗証番号を押してエントランスに向かう。


「お帰りなさいませ、狩野様」


 フロントスタッフはそれしか言わなかった。と、言うことは、まだ宅配便は来ていないということか?

 僕はエレベーターに乗ると自分の部屋がある最上階のボタンを押した。

 このマンションは16階建で、地下は駐車場で1階はフロントと飲食店、2階から10階には4室づつ11階から15階までは2室づつ、最上階だけ1室となっている。

 エレベーターから降りて、自宅前のドアにカードキーを翳そうとした時にランプがグリーンになっているのに気付いた。


「開いてる?」


 僕は恐る恐るドアのノブに手を掛けてドアを開けた。


「か、勝手にご主人様のご自宅に入って申し訳ありません」


 ドアを開けたエントランスには全裸で土下座している香織がいた。

 何で全裸なの? 季節的には蒸し暑いから大丈夫だけど……。


「いやいや、この家の鍵を持ってるのは僕と洋子さんだけだから洋子さんの手引きでしょ? 別に家にいるのは良いけど……、何で全裸なの?」

「ご主人様に服を着る許可を持っていないからです」


 あ~、前にもそんな事言ってたわ。


 ……あれっ? 確か、記憶を戻すのに僕から離れたんだよね? だったら飛燕の記憶が戻ってる筈だよね。


「ねぇ、もうそんな演技はいいから早く部屋にあげてくれないかな?」





 

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