女性の身嗜み 入門編

 鏡に映った自分は昨日とほぼ同じだった。唯一違うのは首より下には産毛1つ生えていない事だけだ。

 確認の為に自分の胸を軽く揉んでみる。間違いなく昨日触った感覚と同じだった。

 さっき感じた香織の全裸を見た時の違和感は胸の位置が下がっていたんだ。

 彼女は間違いなく歳を取っている。


「では、お身体を洗わさせて頂きます」


 香織はそう言って、ボディソープを手に付けて微妙な力加減で全身を洗ってくれた。


 ───これって風俗かよ!


 身体に付いた泡をシャワーで洗い流すと別のボディソープを手に付けていた。


「ご主人様、少し失礼しますね」


 えっ、何? ここって別の洗剤で洗わなきゃいけないの?


「ん……んぅ」

「ご主人様って感じやすいんですね」


 そりゃ、あれだけ身体中を触られたら蓄積されるわ! 今まさに、とどめを刺しに来てるでしょ!

 あぁ、何か女言葉になってきた様な気がする。




 シャワールームから出てウォッシュルームに戻ってきた。身体を拭いてもらって部屋に戻る。

 

「ご主人様、お召し物でございます」


 香織は何処から持ってきたのか、服を持ってきた。

 よくよく考えてみると、女になってから服というものを着たことがなかったのに気付く。


 僕はトランクス派だった。今、香織が持っているのは当たり前だが女性用のショーツとブラだ。


「両肩を通して……、はい、そんな感じで大丈夫です。後は左側を上に右側は下で山型してスライド、後はカチッと音がするまで真っ直ぐに……、それで着け終わりです。

 外す時は今のやり方を逆からすれば良いだけです。カチッと音がするまで金具の部分を前に押し出すようにして上下にずらせば外れます」


 ブラを着けたらショーツだ。彼女が持ってきたのはローライズショーツと言ってローライズのデニムやホットパンツの時に穿くタイプだそうだ。

 この他にもノーマルレッグビキニやハイレッグビキニ、ボーイスリングやソングがあるらしい。ソングとはティーバッグの事。AVとかでたまに見掛ける穴開きパンツはクロッチレスショーツと言うらしい。


 この後、簡単な化粧の仕方、口紅と目元関係を教わった。

 目元関係に関しては元男の僕としては驚きの連続だった。アイシャドウは勿論、アイラインの引き方次第で別人に見えてしまう。


『化粧は女性の武器』


 とは良く言ったものだ。


 時間はあっという間に過ぎ、夕食の時間。フランス料理のフルコースだった。一応公式マナーは元々知っていた……つもりでしかなかったのを痛感させられた。

 まさか、男性と女性でマナーが変わるとは思ってもいなかった。


「今後、この様なマナーを必要としたところでの食事も多くなると洋子様は仰っていました」


 食事を終えて看護士の格好をした女性2人が帰っていった。


 洋子様か……。この気持ちは嫉妬か? 洋子さんが男性だと知っている僕にとって、香織の口から別の男性の名前が出てくるのは……。

 どうやらまだ僕は香織に未練があるみたいだ。


 気が付けば、僕は香織をベッドに押し倒して唇を重ねていた。


「どうか卑しい私を躾て下さいませ、ご主人様」

「君は卑しくなんかないよ、香織は香織だ」


 僕は香織と付き合っていた頃の記憶を総動員して指と舌で香織を責め立てた。


「……る、…もる」

「……!」


 多分、彼女は僕の名前を、男だった頃の僕の名前を呼んでいたのだと思う。

 彼女の手が、舌が僕の身体を這いまわっている。気持ちいい、物凄く気持ちいい。幸せだと感じる。


 事が終わり、僕は覚束無い足取りでキッチンのカウンターに置いてあったタバコと灰皿をベッドに持ってきてタバコに火を着けた。


「ご主人様はずっとそのタバコなのですか?」

「そうだけと……」

「……私が奴隷になる前、本気で愛した男性と同じタバコなんです。

 私は学生の頃から男を騙して貢がせて、生活していました。そして、洋子様は今ではあの様なお姿ですが、元々はイケメンで女性に人気がありました。でも女性に告白されても全て断っていたのです。

 洋子様は男色家だったのです。気に入った男を呼び出して犯し、写真を撮って脅していました。

 お互い同じ様な事をしていたせいでしょうか、何気に気が合い、今週はどれだけ稼いだとかヤバい話しで盛り上がったりしてました。

 就職して、私は職場で狩野守と言う男性と付き合い初めました。彼と一緒にいるだけで幸せで、半年程の付き合いで私は結婚を考えるようになったのです。

 でも、そんな彼に上司からお見合いの話しが来たのです。会長のお孫さんがお相手。私は彼と別れました。言い出したのは私です。

 そして、2ヶ月程経ったある日、彼から1通のメールが届きました。私は慌てて彼の家に行きましたが……、そこには包丁を持った会長のお孫さんと血塗れで、誰が見ても生きていないと思うような彼がいたのです」










 

 

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