奴隷 香織

 ふと目が覚めると僕はベッドで寝ていた。慌てて上半身を起こして周りを見渡すと全裸の女性がベットの脇に立っていた。


「おはようございます、ご主人様。本日よりご主人様の奴隷になりました香織と申します。どうか卑しい私を躾て下さいませ」


 うん、知ってるよ。

 香織はその場で土下座をする。幾度となく香織の裸体は見てきたが、微妙に違和感があった。それが何なのかはこの時はわからなかった。


「土下座なんかしなくて良いよ。それよりお前、何で裸なんだ? それに洋子さんは?」

「ご主人様が服を着ていないのに、私ごときが服を着る事などございません。

 洋子様は何か用事があるらしく、先程部屋から出ていかれました」


 うん、見事にまで奴隷だね。ここまでされると演技に見えるよ。

 それより、僕は昨日の事を思い出した。あれは本当に僕だったのだろうか? あの時、僕は何の躊躇いもなく洋子さんのアレを口に含んだ。

 洋子さんは男で、あの時、僕は……快楽を求めた女たっだ。

 その証拠に今、香織の全裸を見て何の興奮も感じられない。

 僕が男だった時───、今も自分でと思ってしまった。


 ───もう僕は女なんだ。


「香織、洋子さんから何か聞いてる?」

「はい、ご主人様。洋子様から自分が帰ってくるまで女性として色々教えて差し上げるようにと伺っております。が、私にはその意味がわかりません。

 ご主人様は女性です。私は何を教えれば良いのでしょうか?」


 香織のやつ、何も聞かされてないのか。


「僕はお前を奴隷に陥れた張本人だよ。お前に詐欺られて死を覚悟した男だよ」

「……! そうでございましたか。それで私は……」

「そう言う事だから。まず服を着よう。服は用意されてる?」

「……」

「香織?」

「何故ですか? 何故罵らないのですか? 何故暴力を振るおうとしないのですか?

 私はご主人様を騙した性悪女ですよ。そしてご主人様の奴隷です。ご主人様は私の事を好き勝手に出来るのですよ。

 騙された怨みを好きなだけ好きな方法で果たせるのですよ」


 僕は彼女を睨み付けた。理由はどうしてそこまで自分を卑下出来るのか! それに腹が立った。……そして、疑問が産まれた。

 しかし、その疑問は少し考えれば答えが出た。彼女が奴隷だからだ。


「あぁ、奴隷である私が、ご主人様に出過ぎた事を申してしまいました。どのような罰でもお受けいたします。どうかお許し下さい」


 僕の目付きに気付いたのか、香織はまた土下座で僕に謝ってきた。そこでふと、考えて込んでしまった。

 そう、この完璧なまでの奴隷堕ち。

 僕がネットで依頼してから3日で彼女への怨みを晴らしてくれた。そして僕は薬を飲んで女になったのは4日前の事だ。

 3日間気を失っていて目覚めたのが昨日のだから、4日で間違いない筈だ。合わせて一週間、たった一週間でここまで人の心は自分が奴隷になったのだと理解するのだろうか? 

 見たところ、彼女には外傷は見当たらない。暴力や殺傷による恐怖支配でもなさそうだ。


「香織に命令する。お前はいつから奴隷になった? 正直に答えよ」


 これが一番手っ取り早いだろう。


「今日からです」

「違う。僕にではなく、僕の前の主人との事だ」

「……お、覚えていません。申し訳ございません。本当に覚えていないのです」

「ふ~ん、じゃあ、前の主人って誰?」

「佐原洋子様です」


 洋子さんの名前を出してくるところをみると、嘘ではなさそうだな。


「香織、こっちに来てくれる?」

「はい、ご主人様」


 彼女は僕の目の前まで来て座った。勿論正座である。


「ん~、体育座りで両手を後ろに就いて。そうそう、それで足、広げようか」


 僕の言う通りの格好になった香織の胸を力任せに揉みちらした。香織の顔は痛みに歪む。

 そこで僕は久しぶりに見た香織の裸に対する違和感が何だったのかわかった。


「お風呂に行くよ。背中流して」


 そう言って僕はシャワールームへと向かった。

 そして、シャワールーム前にあるウォッシュルームで自分の姿を鏡に映した。

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