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「かれこれ」と「これから」
僕の話はこれでおしまい。もし話そうと思えば、僕が皆から逃げて何をしたかとか、そういった具体的な話をしてもいいけど、思っているよりも長く話しすぎたようだし、正直に言ってしまえばもう話すのも面倒になってきた。
とりあえず、僕がムラサキの家から逃げ出した後について、適当に説明させてもらうよ。ヤーさんと僕は現場から逃げたけれど、次の日には警察によって事情聴取された。僕はヤーさんが男を撃ち殺したこと以外は全て本当の事を伝えたが、他の皆がどういう説明をしたのかは謎だ。警察と親からは他の皆と話す事を禁じられたし、そもそも誰かと話せる状況じゃなかった。
大人達は事件を上手く処理してくれたようだったけど、週刊誌やその他メディアは事件を嗅ぎ回った。もしも事件が全国的に知れ渡れば、もっとややこしい事になっただろう。
僕以外の皆は色々な物を失った。
あっくんは右足の自由を失った。今はどうなっているのか知らないけど、最後に彼を見たのは中学の卒業式で、その時は右足を少しだけ引き摺るように歩いていた。車椅子や松葉杖が必要という訳ではないけど、誰が見ても足が悪いと解る歩き方だ。かといって、全く走れないという訳でもないらしく、体育の授業も皆と普通に受けていた。
あっくんと僕は何があっても親友だと思っていたけど、事件以降は話す事もなくなった。きっと、あっくんは僕と関わるなと母親に言われたのだろうし、僕の親だって彼とは関わるなと言った。勿論、そんな事を言われたって再び仲良くする事だって出来たはずだが、僕たちはそれを選ばなかった。あっくんが何の代償も払わない僕に対して怒っていたからかもしれないし、ただ単に進級してクラスが別だったからかもしれない。
ヤーさんは地元と苗字を失った。彼とは事件の日から一度も顔を合わせる事はなかったが、中学に上がる前まで僕と手紙でやりとりをしていた。彼の親は勿論逮捕されて、親戚をたらい回しにされた挙句、大阪の児童養護施設に居ると手紙には書かれていた。
あっくんやケイ君やムラサキに謝っておいて欲しいだとか、皆は元気にやっているのかだのと書かれた手紙に対して、僕は返事を書くのが億劫だった。僕が手紙を返さないうちに、彼から手紙が来る事もなくなった。もう彼をヤーさんと呼ぶ人もいないだろう。
次はケイ君についてだ。正直に言えばケイ君については謎だ。事件が起きてから直ぐに、彼の家族は何処か遠くへ引っ越した。ケイ君がどういった処罰を受けたのかも知らないし、誰かに聞こうとも思わなかった。幸いその事については誰も僕に伝えなかったのだ。もしケイ君がどうなったかを知ってしまえば、当時の僕はここまで上手く立ち直れなかっただろう。でも、今になって考えてみれば、ケイ君はヤーさんの未来と引き換えに、自分の未来を失ったのだろうと予想できる。
ムラサキは親と自分を失った。事件が起きて数日後、彼女は7棟の屋上から飛び降りた。幸いムラサキが死ぬ事は無かったし、後遺症が残るような大怪我も免れた。自殺未遂から数ヶ月して怪我が治ったムラサキは、母親と共に引っ越したそうだ。引っ越すまでの間に学校へ来る事も無かったし、僕の前に現れる事もなかった。ムラサキが大阪市内の方に引っ越して、心療内科と新しい学校に通っているという情報を、6年生の時にマイマイから聞いた。ムラサキはマイマイには現状を教えたが、僕には何も教えてくれなかったのだ。ムラサキが飛び降りてから屋上の鍵は頑丈なものに変えられ、7棟にガキが集まる事もなくなった。
一応、僕がどうなったのかも簡単に書こうと思う。
あっという間に6年生になって、そこでは上手く馴染めなかった。中学に進学しても心から友達と呼べるような間柄になった人は居ない。更に言えば、未だに友達なんて居ない。きっとこの先も友達なんて出来ないだろう。
僕は中学を出て高校を1年で中退してから埼玉へと引っ越した。とある事件がきっかけで高校に居れなくなって、僕は埼玉で住み込みが出来る建設会社に入社したんだ。親は未だに北側住宅に住んでいるけれど、僕は今でも地元が大嫌いなので滅多に帰る事はない。もう10年以上埼玉に住んでいるから、今では関西弁だって上手く話せない。
さっきは僕以外の皆が色々な物を失ったと言っていたけど、本当の今になって気付いた。どうやら僕は友達を失っていたらしい。
面白くて楽しいあっくん。
変に気の合うヤーさん。
頼りになるケイ君。
賢くて美しいムラサキ。
僕は大切な友人を失った。そんな当然の事に今頃気付いたよ。たまには誰かに昔話をするのも悪くないかもしれない。
これで「全力少年時代」の話は本当におしまいだ。
気が向いたら今度は僕が中学校に通っていた頃から今までの話をしようと思っている。タイトルは「無気力青年時代」なんてどうだろう。
僕が住んでいた所は変だからね。話なんていくらでも出来るんだ。中学では1人が学校のいじめで自殺して、高校では1人が河原で撲殺された。撲殺の方は少年法改正の背景にも関わる大きな事件だ。また楽しくない話になるだろうけど、現実なんてそんなものだし、大団円はドラマや本といった作り話の中だけだろう。
かれこれと楽しくない昔話をしたけど、これからだって僕はつまらない話を『作り』続けるんだ。
また暇になったら僕の話を聞いてくれないか?
全力少年時代 野神真琴 @nogamimakoto
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