性と生徒
紳士クラブのメンバーでエロ本を鑑賞した後、斎藤は色々な事を僕達に教えてくれた。彼の話は丁寧で解りやすかったので、きっと教師に向いているだろう。僕は斎藤の生徒になったつもりで、しっかりと勉強をさせて貰った。
斎藤が主に語った事は2つで、それは人間の「生」と「性」についてだ。
今まで僕が保健で習ってきた事は抽象的なもので、大事な部分の大半が隠蔽されていたのだが、それが斎藤の話によって露見した。もしかすると、大人の手によって隠されていたのではなくて、触れていなかっただけかもしれない。
大事な部分を教育で教えないのは何故なのか、馬鹿な僕には全く解らない。
女性は妊娠をして子供を産むと習ったが、どうして妊娠をするのかも、何処から生まれて来るのかも教師は教えてくれない。大人はいつだってそうだ。肝心な所は何も教えないし、それどころか隠そうとするのだ。
だから僕は大人が嫌いだ。
大人は単純な物事を複雑にする癖に、複雑な物事は単純にしてしまう。単純な事を複雑にして賢くなった気になって、複雑な事からは逃げるのが大人という生き物なのだろう。
僕が斎藤と出会わなければ、子供はコウノトリが運んでくると一生勘違いしていたかもしれない訳だ。
女には付いていなくて、男には付いていると教えられた。だけど、凹があるとは誰も教えてくれなかった。男子に凸があって女子に凹がある、そしてこれらが人間の誕生に密接な関わりがあるとは思いもしなかった。
「皆んなもエロ本くらい見た事があるだろう?」斎藤は紳士クラブのメンバー全員の顔を見てから、満足そうに頷いた。「そう、これはそんじょそこらのエロ本とは大きく違うんだ」
僕の隣にいたあっくんが、「自分、こんなどえらいもん、何処で手に入れたんや?」と斎藤に尋ねた。あっくんの大きな目は燦然と輝き、穢れを知らないかの様に綺麗だった。きっと憧れのプロ野球選手を前にした少年はこんな目をするのだろう。バッドとグローブと玉の話に夢中になった少年の目だ。
「それこそが、ここに集まってもらった真の目的だ。皆にはこれと同じような本を探して欲しい。それこそが紳士クラブの目的だ」斎藤は胸を張りながら僕達に言った。ここまで堂々としていれば、エロ本を探すのも高尚な行為に思えてくる。「俺は無修正のエロ本を探している。ぜひ、皆にも手伝って欲しいのだ。来週の同じ時間にまた皆で集まろう。皆からの情報を待っている」
斎藤はそう言って真っ黒のランドセルを背負い、ゆっくりと僕達に背を向けて去って行った。紳士クラブのメンバーも皆が帰っていき、残ったのは僕とあっくんとヤーさんだけになった。降っていた雨は止み始めていて、地面や植物は水滴で輝いている。世界が生まれ変わったみたいに思えた。
「これからどうするよ大ちゃん?」とあっくんが言った。
「せやなぁ」と僕は言って腕を組んだ。「斎藤の指示に従って情報を集めるのも悪くないし、紳士クラブをさりげなく脱退してもええし。ヤーさんはどう思う?」
ヤーさんは「どっちでもいい」とだけ言って、僕達の顔を見て反応を伺った。
「斎藤にはいろんな事を教えてもろたし、ちょっと情報を集めてやってもええけどな」と僕は言った。本当はもっと女性の体を見てみたかっただけだし、あわよくば自分のエロ本を手に入れたかったのだ。女性の裸に囚われていると捉えられないように、僕はあっくんとヤーさんに出来るだけ格好を付けた。
「それじゃあ、みんなで調査してみるか?」とあっくんが言うと、ヤーさんは首を縦に振った。
「まずはどうするよ?」
「パソコン室でヤフーやな」
「さすがヤーさんや」
§〜○☞☆★†◇●◇†★☆☜○〜§
今の子供達がどういった性教育を受けているのかは解らないが、僕が子供だった頃は本当に酷かった。体の仕組みだとかを医学的な用語で並べて、出来るだけお堅くされた文字列は、まるで自分の事ではないような気さえしたものだ。
僕が子供だった頃はマスターベーションが悪い事だと勘違いしていたし、コンドームだって碌に着ける事が出来なかった。それもその筈で、学校でしっかり学ぶ事はなかったのだ。保健の教科書では理解出来なかった事が、エロ本ではあっさりと理解出来てしまう。そのエロ本は偏った価値観を持っていて、いささか間違った倫理観やら道徳観を読者に植え付けさせる。エロ本やポルノ動画だって所詮はフィクションで、男心をくすぐる為に作為的に作られた物だと知るのは、もっと大人になってからだ。
今ではインターネットが普及しているので、ある程度は自主的に学ぶ事ができるだろうが、当時は真偽が不明な噂が出回ったりして、僕を不安にさせたものだ。マスターベーションをしすぎたら赤玉が出てきて、それからは精液が一切打ち止めになると言う話に、中学生の頃は本気でビビっていた。他にも、マスターベーションをするとニキビが増えるだとか、将来ハゲるだとか、テクノブレイクで死んでしまうだとか、僕はそう言った真偽が不明な物事を恐れていた。今となってはそんな事は馬鹿げているし、大人になった僕の唯一ある趣味はマスターベーションだ。
中学生で妊娠と出産をした同級生も居たし、学生なのに子供を堕した女性だって居る。僕だって間違ったマスターベーションのやり方をしていたせいで、今では色々と苦労している。自主性に委ねられている性教育では、無知な子供が痛い目に遭うのは目に見えている筈だろう?
性被害だってそうだ……
僕はもっと学ぶべきだったんだ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます