零落


【これは、人々の幸福を願った一匹の、最期のお話】






———私は、人々の幸福を願っただけなのに。






一人の男の刀身が、軟く脆い身体に突き刺さる。


私を祀っていたシャーマンから、赤い花弁が舞う。それを見た巫女たちは、我に返ったかのように散り散りに逃げていく。



男は「今度はお前だ」と言うように、神へ剣先を向ける。




その神は、蝶のような姿をしていた。




男は強かった。

仏教と新興宗教の力の差もあったのだろう。


それを抜きにしても、やはり、男は強かった。




『人々を救う者』とは、きっと、こういう者を言うのだろう。




———翅が堕ちる。




幻だったのだろう。

神は、今際の際になって、気づいた。


私の振り撒いていた『鱗粉しあわせ』は、幻覚でしかなかったんだと。


人々には、いらないものであったんだと。



逃げ惑う人々を、神を絶つ人を見て、神は———やっと、気づいた。





———飛沫が舞う。





人の世に、常は要らない。

だから神は、人に倒されるのだろう。





———意識が、遠くなる。







嗚呼、私は。


私、は。




君のよう救う者に、なりたかった—————










———これは、とてもむかしのおはなし。


ひとをすくいたくて、まちがってしまった、いもむしのかみさまと、

まちがったかみさまをただすために、ひとをたすくために、たちあがったおとこ。


ただの、それだけの、おはなし。


いまはもう、だれもおぼえていない、おはなし。

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