第4話

夜の人混みの中をちーちゃんと二人で歩いていた。


知ってる街だった。

このビルを曲がると大通りに出て、階段を降りると地下街があって。


私はまあ毎日のようにそこでハンバーガーを食べる訳だけど、今日はそうじゃなかった。


目の前を歩くちーちゃんのとがった帽子が、今私が見ている景色が魔法学園の学科試験によるものであることを思い出させる。


「美夜子って、本当に異世界から来たんだね」


「……何の話?」


「なんでもない」


授業が始まる前、ちーちゃんは「今日の授業はただ戦えばいいだけだから君にうってつけだろうね」と言っていた。


遠くの空に一体、景色にそぐわない生き物が見えた。


たつだ。あれは酸の霧を吹いてくる」


ちーちゃんが少し遠くから言った。


「待って」


私は早足でちーちゃんの方へ向かう。


「正体が分かれば、楽に倒せる……美しい術式だ」


ちーちゃんはまだ竜を眺めていた。


「あれと戦うの?」


「ここは君の512番目の世界。手強い相手じゃない」


そんなことを言いながらちーちゃんはまた竜の方へ歩いていった。


ちーちゃんが三歩進むと私との距離は三メートルほどになる。


「なんか、ざわざわする」


「そう」


ちーちゃんの声は遠くからでもよく聞こえた。


姿は人混みにまぎれて見えなくなってしまった。


「待ってよ!」


私が叫ぶと、横切る学校帰りの少女達とサラリーマンの歩く隙間からちーちゃんが顔を出した。


「えと、その」


顔が近くなったので、思わずドキリとする。


いつの間にか小さな手が、目の前に差し出されている。


「正体、分かったよ。行こう」


私は何かに気がついた気がした。


ちーちゃんも私が気がついたのに気がついて、「ごめんね」と、いつになく意地悪に微笑む。


人混みは消えて、竜はほぼ目の前に迫っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る