第3話

「ちーちゃーん、宿題写さして?」


「美夜子、今日の宿題何か分かってる?」


ちーちゃんが怪訝そうな目でこちらを見つめる。首を振った私にちーちゃんは、


「変身の術で小石を好きなものに変えて持ってくる宿題だよ?」


一気に心拍数が上昇する。


「そ、それってさ、手伝ってもらうことは」

「バレるよ。減点するって言ってた」

「そんな」



走馬灯が見えた。この世界に「転移」して数日腹を空かせていたところを助けてくれたちーちゃん。雇ってくれた上に髪の毛さわさわしても怒らずにいてくれるちーちゃん。スカート覗いたらめっちゃ怒るけどケーキあげると許してくれるちーちゃん……。


……この学校では召使いの優劣が生徒の印象の非常に大きな割合を占めるという。

平常点が取れないということはその程度の召使いということ。


私は思い出す。以前ちーちゃんに「点数下がっても、私解雇とかされないよね?」となんとなく訊いてみた時、ちーちゃんは少し考えた後、半笑いで「さぁ……」とだけ返してきたのを。




「とりあえずさ、やり方教えてよ。何か式とか要るの?」


声は震えていたかもしれない。ちーちゃんはやっと勉強する気になってくれたと思ったのかしめた顔で杖と石を渡してきて、


「頑張れば明日までには終わるよ。やろう」


私はまあ渋々それに従うことにした。



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「ここヴァルールが合ってない」


目の前にあるパクチーの死ぬほど乗った冒涜的なライスを指差してちーちゃんは言った。

緑と白の塊はちーちゃんが指差すとしぼんでいき、元の小さな一つの石になっていく。


「もう嫌だぁ!!!」


そんなことを言いながら私は椅子を投げ出して逃げるように部屋の真ん中の小さな空間で立ち止まる。


「何だよあの教師よおおおおお! ヴァルールとかマチエールとかさぁ変な用語使いやがって! もっと分かるように説明しろよ! 私は理系なんだぞ!?? なんでさぁみんなさ、そうやってさ揃いも揃って文系みたいな顔のくせに私よりさスッと入ってくんだよ頭に!????」


「……休む?」


「休まない!!!!!!!!!、!!!」


ちーちゃんは半ば呆れ顔だ。髪の毛が顔の周りで高貴に跳ねているその顔は天使そのもので、でも今だけはそんな表情で見つめられることを心底情けないと思う。しにたい。


「ちょっと落ち着こう、じゃあ」


「これが!!! どうして!!! 落ち着か!!!???」


「落ち着け」

「はい」


ちーちゃんがこちらを見つめてきた。青い、深い色。そんな目に見つめられると強制的に落ちつかされるらしく私は制御が効かなくなるとみえるといつもこれをされる。


「先生は自分の好きなものを作れって言ってた」


ちーちゃんが言った言葉に私は小刻みにうなずく。


「そうするべきだよ。こういうのは楽しんで使うものだから。美夜子はそれができてない。食べ物よりも好きなものがあるはずだよ。何?」


私の顔に手を当ててちーちゃんは問うた。


「し、死ぬほど恥ずかしいんですが」


「赤点取るよりはいいでしょ?」




翌日ちーちゃんの等身大フィギュアが提出されたことは言うまでもない。

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