第六百十話 大賢者


 なんだかんだと事後処理をしてようやくレフレクシオン王国に戻って来た俺達はマキナ達と合流してから登城しようということになり、しばらくアイナとセフィロの面倒を見ながら自宅療養をしていた。

 ルシエールやヘレナ、クーデリカはマキナが居ない時に上がるのは嫌だろうからと遠慮してここには来なかったりする。


 「セフィロちゃん、大丈夫かしら……」

 「こればっかりは分からないよ。本来、リースの半分だった存在わけでそのリースはもうこの世界には居ないから……」

 「起きて遊ぼうセフィロちゃん……」

 「くおーん……」

 <ふむ、ドラゴンの血でも目を覚まさんか>


 アイナが寂しそうにセフィロの手を握り、そんなアイナに寄り添って座るアッシュも切なげに鳴く。庭に戻したラディナもしんみりしているからか元気がなく、お風呂を入れてもあまり気分が乗らないようだ。

 今はガストの町に帰らないアイナを心配した両親がウチへ来てくれた。

 一緒に戻って来たグランドドラゴンのボーデンも自身の血を飲ませてくれたのだが効果は無い。


 元々はトレント、セフィロトという人間とは違うため『生きている』けど、それが『正しい』というわけではない。懸念としてはリースが消えたせいでセフィロも消滅する可能性があるということ。


 『すぅ……』

 「心配ね……。あんなに元気だったのに」


 母さんがベッドの横に立って髪を撫でてそんなことを言う。アイナの友達でもうひとり娘が出来たみたいだと嬉しそうだったしな。

 とりあえず息をしていることがバロメーターと考えてセフィロは見守ることに。

 そんな折、別行動をしていたマキナ達も戻って来た。


 「ただいま! セフィロは!」

 「……まだ、ダメそうだね」

 「お邪魔するネ」

 「王都も久しぶりだなあ」

 「おかえりマキナ、ファスさん。シャオとハインドさんもお疲れ様」

 「あら、新しい方たちね。どうぞいらっしゃいませ。とはいっても息子のお家なんですけど」

  

 開口一番でセフィロの心配をするマキナとファスさんに首を振ると察してくれた。後ろからシャオ達が顔を出してきて挨拶をすると、俺達一家も歓迎ムードでリビングへ通す。

 

 「そっちはどうだった?」

 「それがね――」


 マキナの話によるとエバーライドはバスレー先生により沈静化して、今は昔から居る顔見知りの貴族に留守を預かって貰っているらしい。

 あまり良くないけどイルファン王国の人とベリアースの兵士でエバーライドの女性と結婚した人が防衛も担ってくれるとのこと。

 まあ、周辺国はベリアースとイルファンくらいなのでエリュシュが侵攻するとか言い出さない限り問題はないだろう。

 一番の驚きは王族、ライド王子の親戚だったということだけど……。


 「そのバスレー先生はどこに行ったんだ? ああ、もう城か」

 「呼びましたか?」

 「うああああああああ!?」


 庭に続く窓にべったりくっついているバスレー先生が居て俺達一家は腰を抜かす。

 相変わらず意味が分からない登場の仕方だが王族だと判明しても変わらない人というのは貴重なのかもしれないと苦笑する。


 「人を化け物みたいに見るのはやめてくださいよ」

 「いやいや……」

 「気持ち悪いネ」

 「表へ出ろ小娘……!!」

 「やるカ……!!」

 「止めろ二人とも!?」


 にらみ合う二人を座らせる。

 バスレー先生が混ざると話が進まない……そんなことを考えていると先生が口を開く。


 「登城するのは全員でと思っていますからまだ行きませんよ。ベリアースへ向かったみんなは王都に?」

 「うん、宿とかテイマー施設で寝泊りしているし、ガストの町には転移魔法で帰れるから呼べると思う。まだ昼前だし、集めるかい?」

 「明日にしましょう。報告は時間がかかると思います。わたしも陛下とライドに言うこともありますから」

 「そういえば甥っ子になるのか。なんで黙ってたのさ」

 「……生き残るかは微妙でしたからねえ。身内だと言ってまた亡くなったら立ち直れないんじゃないかと」

 

 だから終わるまで言うつもりは無かったとのこと。

 ライドもお付のライムも小さかったから大臣の娘だと言われても、従妹だとは思わなかっただろうとのこと。


 「生きていて良かった。本当にそう思います。ラース君と前世のお母様には助けられてばかりですよ、ありがとうございます」

 「いや、母さ……レガーロを導いてくれたのは先生だし、学院時代から見てくれていたんだ、礼は俺もだよ」

 

 俺とバスレー先生は握手を交わし、これからのことを聞いて驚く。

 今回関わった人間全てのこととそれ以上の話を。


 そして翌日、俺達は謁見の間へ――


 ◆ ◇ ◆


 「――報告、ご苦労だった。皆の者よく事態を収拾してくれた。特にラースよ世界を救ったと言っても過言ではないな」

 「いえ……あいつの、リースの目的は私でしたから褒められるようなことでもありません。ただ、これで福音の降臨と教主という存在が世界を混乱に陥らずに良かったと思います」

 「謙遜するなラース。事情は全て聞いた上での判断だ」


 陛下に全てを話して俺の素性は少し隠して告げてある。それでも気持ち悪がらずに接してくれるのは本当にありがたい。そこでオルデン王子が笑いながら口を開く。


 「もうラースはただの冒険者として扱えないな。その昔いたっていう『賢者』みたいになっちゃったよ」

 「いや、そんな凄い人間じゃないですよ俺は」

 「そんなことは無いんじゃないか? なんせみんなと一緒とはいえ神様を倒したんだ、その力は賢者に値する」


 陛下も手を打ってそんなことを言い出し、一緒に控えているリューゼや兄さんがにやっと笑っていた。するとレッツェルが顎に手を当てて言う。


 「……そうですね【器用貧乏】を越えたスキル【超器用貧乏】というなら『大賢者』の方がいいんじゃないですか?」

 「おお、それはいいな!」

 「お前……! だいたい小さいころ陛下を殺そうとしたくせになに調子にのって話しかけてんだよ!」

 「誠心誠意謝罪はさせていただきましたからだいじょうぶふ!?」

 「お、いいのが入ったな! 俺の分の頼むわ」


 リューゼが歯を見せながら笑い無責任なことを口走りナルに殴られていた。

 

 「それじゃ今日からラースは『大賢者』っと……」

 「オルデン王子!?」

 「まあまいいじゃない。王子自ら称号をくれるなんて名誉なことじゃない」

 

 マキナがそう言って笑い、俺は口をへの字にして黙る。……確かに前世と違い認めてくれることは凄く嬉しいけど。


 「ならリューゼも暁の魔法剣士とかもらえよ」

 「え、だせぇ!?」

 「はいはい、陛下の御前だから騒がないのぉ」

 「ははは、ルツィアールの王女にそう言われては自重するしかあるまい」

 「すみません、出しゃばってしまいましたぁ」


 ベルナ先生が悪びれた様子もなく笑顔で返し、ティグレ先生が肩を竦める。

 するとバスレー先生が一歩前へ出た。珍しく真面目な顔に俺達は顔を見合わせて様子を伺う。


 「陛下、お世話になりました。エバーライドはこれで解放され、王子も戻ることができます」

 「……そうだな。ライド王子とライム君を呼んで来てくれるかオルデン」

 「……嫌です」

 「そうか、頼む……え?」


 陛下が驚いたのも無理はない。俺達も目を丸くして驚いた。さっきまでカラカラと笑っていたのに、明らかに機嫌が悪くなった。どうしたんだ?

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