第六百九話 エバーライド王国の解放
「つ、強い……なんだこいつら……」
「こっちは200人も居るのに……」
「甘いですねえ。百人から先は数えていませんが、千人でも負けませんよ! 痛いっ!?」
「お前はなんもしてなかっただろうが。ほれ、命までは取らねえから大人しくしろよ」
ティグレ先生に小突かれて悶絶するバスレー先生をよそに、ベリアースの兵士達は城の庭いっぱいに気絶していた。
軽い足取りでベルナ先生とリューゼとナルが後ろ手に縛り上げて拘束していく。
まあ……世界でも手練れなティグレ先生に師匠、ハインドさんにウルカのオオグレさんにドラゴンのヴィンシュ、お母さん熊のラディナといったメンバーに加えて私達学院のクラスメイト。
悪魔やリースとの戦いを経た今、一般兵士に負けることはまずない。
「では、凱旋と行きましょうか」
「やれやれ、バスレー先生が名乗りを上げたら早かったんじゃねえの?」
「リューゼ君、物事には順序というものがあります。……敵討ちをせずにここを奪還しても、教主を倒さなければいずれ苦しくなっていたでしょうね。一網打尽、それを為した今だからこそできるというわけです」
真面目な顔でリューゼに返し、すぐにフッと笑みを浮かべて、運ばれている十神者だった人達に、言う。
「やっと帰りつきましたねえ……ただいま。そして、おかえりなさい」
「いつもああならいいのにねー」
「今はそっとしておいてあげようノーラ」
いつもふざけたような感じのバスレー先生だけど、ここまでの苦労は計り知れない。
境遇を考えるとあんなに明るく振舞えて、先生としてやっていけたのは彼女の強さなんだと思う。
城へ入ると静かになったホールを抜け、すぐ地下牢へ。
何十年と経った今も抵抗した人は囚われたままだったようで、すぐに解放することができた。
「おお……フォリア様のご息女が戻られるとは……」
「皆さんエバーライドはベリアースの手から離れました! 安心してください!」
中にはちゃんと覚えている人もいて、アクゼリュスに取り込まれていたバスレー先生のお兄さんを見て涙を流していた。
「そういや王様の息子のライド王子が居るのにバスレー先生がここで名乗りを上げて戻っていいのか?」
「いや、一応安心させるためでしょ?」
「いい質問ですリューゼ君。まあ、レフレクシオン王国に戻って報告しますし、その時わたしが宣言した意味が分かりますよ」
「あー、そういうことですかぁ。話に聞いては居ましたが」
「ベルナ先生は分かったの?」
「ふふ、まだまだ子供ですかね皆さん。王子同士仲がいいのは結構ですがね」
バスレー先生がそう言って笑い、牢から全員を出して休ませているところへレオールさんが口を開く。
「それじゃ食事なんかは私が手配しよう。前回来た時に町の人達も顔見知りが増えたから声をかけてみるよ」
「あ、それじゃ私も手伝いますね!」
「こっちに居ても仕方ねえし、俺も手伝うか。なあナル」
「そうね。ティグレ先生達が居ればこっちは大丈夫でしょ」
「あたしもマキナと行くよ」
ホールでバスレー先生組みとレオールさんのお手伝い組みに分かれて作業に入る。城の方はベリアースの兵士を抑えた時点で脅威は無いため、今後どうするかの話は年上の人達にお任せね。
外に出ると庭を見てくれているエバーライドの兵士さんと野次馬で集まった町人が広がっていた。
「なんか注目されているネ」
「シャオの服って珍しいからじゃない?」
「そうでござるなあ」
「いやお前もだよ!?」
リューゼがオオグレさんにもっともなツッコミを入れると、そういえばとウルカが【霊術】を使い慌てて引っ込めていた。
「賑やかな坊主たちだなあ。シャオも同い年くらいのやつらと一緒で楽しそうだぜ。……しかしまた若返ったもんだなあ……」
「なんだい? 惚れ直したとでもいいたいのかい?」
「そりゃずっとだって。……子供がなあってよ」
「それはいいっこ無しだろう? 今はあの子達が子供達さ」
「……そうだな」
「なにやってるアル師匠、早くしないとくいっぱぐれるヨ」
師匠とハインドさんもゆっくり話をしながら後ろをついてくる。歳の差カップルみたいだけど、お互いを大事にしているのがよく分かる。
「……大変だったけどこれで全部終わった、かな?」
「まったく、ラースのやつと一緒にいると退屈しねえな。まさか神様やら天使やら出てくるとは思わないし、あいつの……前世の母親とかも……」
「そうだね。記憶もあるみたいだけどどうなんだろ」
「あれだけ強いのも頷けるけど……」
リューゼとヨグス、ウルカがそんなことを話していたので私は間に入って口を開く。
「別に前世がどうとかどうでもいいんじゃない? だってラースはラースでしょ?」
「……ま、それもそうか。小さいころからずっと一緒の友達だもんな」
「最初はいがみ合ってたくせに……」
「なんだとウルカ!? お前だってうじうじしてたろうがよ!」
「はは、僕も鑑定について教えてくれって言われたっけ。学院、懐かしいな……なんだかんだでラースを中心にまとまっていた気がするよ」
「ふふ、そうね」
あいつはAクラスの女子全員をかっさらった悪い奴だとリューゼが叫んでナルに叩かれた。まあ、確かにノーラ以外はみんなラース、だもんね。
「……どうしよっかな?」
考えていることはあるけど、今はまだなにも言わないでおこう。後は彼女達次第。その時が来たら私は答えを出す時かもしれない。
今は事後処理をしようとしばらくエバーライドに滞在しているとイルファン王国のブラームスさんが尋ねて来た。
「……本当にベリアースを落としたのか……犠牲は……え? ここの死者は無し? 嘘だろ……」
と、戦の準備をしてきていた彼は驚きと呆れを混ぜたため息を吐いて肩を竦めていた。
ただ、無血でベリアースとの冷戦が終わったことは本当に安堵していて、二日ほどバスレー先生に招かれて話をした後で国へ帰って行った。
なにかしらお礼をする形になるそうだけどそこはライド王子とラースとの話し合いをしてからにするそうだ。
元々、ラースが交渉したことでもあるからだそうだ。
ベリアースの兵士は少しずつヴィンシュで運び、エバーライドは今度こそ本当に解放されることになった。彼等も他国に派遣されてやる気はそれほどなく、圧政をしていたみたいなのが無くて良かったと思う。
教主が別荘代わりに使ってたらしいからそんなものかもしれない。
そして事後処理が終わった私達は久しぶりにレフレクシオン王国へ帰還する――
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