第六百四話 たった一つの絶望を君に
「ぐ、うう……!?」
「だ、大丈夫かラース!?」
「だ、いじょうぶだ……!」
ジャックが背後で俺に声をかけてくるが、頭痛が酷くそれどころじゃない……!?
マキナ、ルシエール、リューゼ、ヨグスにヘレナ、ノーラ、ウルカ、兄さん、ティグレ先生、そしてジャックのスキルが俺の身体に吸収されていく。
サージュやアイナといった『天使』が憑いていない人物のスキルは持ってこれなかったらしいが、これ以上は頭がパンクしそうだから丁度良かったと思う。
スキルはあまり気にせずこの世界はそういうものだと思っていたから使っていたけど、やはりモノによっては優劣がつきやすく、自分の好きな職業になりにくいのはむしろマイナスなのかもしれない。
俺はたまたま『超』がつく器用貧乏だったが、ただの器用貧乏なら成長率が悪くどこかで腐っていたかもしれない。特に前世が大変だったからね。
だけど今はこれに頼らせてもらう!
俺は気を落ち着かせて深呼吸をすると、スッとスキルが馴染む感じがして剣を握り直す。マキナのカイザーナックルは見て覚えることが出来ていたけど、これができるのも【超器用貧乏】のおかげだろう。
「よし……! マキナ、どいてくれ!」
「え? ラース!」
『来たかのか、マキナの死体を見せてやろうと思ったのに!』
「いよいよ余裕が無くなって来たか? 【カイザーナックル】!」
『なに!?』
「お!?」
リューゼが驚愕した声を上げるがそれはまだ序の口に過ぎない。
そのまま大きく吹き飛んだリースの懐へ潜り込み、
「【金剛力】!」
「あれ!? わたしのだよねそれ!」
『ぐは……!? これはクーデリカの!? なぜラース君が……』
「こういうのもある!」
あんまりやりたくはないけど、リースのボディに俺の拳が突き刺さり、嗚咽を漏らす。
続けてウルカの【霊術】で周囲の霊を呼び寄せて拘束する。
「僕のだ!?」
『幽霊まで!?』
「ルシエールが集めた鉱石も一緒に食らえ! 【ジュエルマスタ―】!」
「私のスキル!」
ジュエルマスターは鉱石がどこにあるのかを調べることができるのは承知の通りだが、実は宝石や鉱石に眠る力を解放することができるらしい。
俺は以前ルシエールに貰ったルビーを両肩に投げつけ爆発させる!
『がっ!? いくらラース君でもこの仕打ちは酷いね! とりあえず手足の一本ずつでも折って彼らの行く末を見ていてもらおうか……!!』
「そう上手く行けばいいけどな! ティグレ先生!!」
「あらあ、アタシの【ダンシングマスター】ねえ」
「おう!」
激昂して襲い掛かって来たリースの光の刃をヘレナのスキルで避けながら、ティグレ先生が投げてくれた武器を使って切り返す!
『【武器種別無視】……!!』
「使い方の最適解が分かる……それに馴染むな。先生これはずるいよ」
「うるせえ、とっとと倒しちまえ!!」
「目を覚まさしてあげなさいなぁ!」
「ラースお兄ちゃんファイト!!」
ティグレ先生一家が鼓舞してくれ、さらにスピードを上げる。そこで俺はドラゴン達に目配せをし、リースを上空へ叩きあげた。
<任せろ!>
<まったく、ドラゴン使いが荒いことだ!>
<燃え尽きろ>
『ぐぬううううううう……まだだぁぁぁ!!』
サージュの爪とジレの冷気ブレスにロザの火炎ブレスを受けて爆発を起こすも光弾を飛ばしドラゴン達を追い払う。だが、効いている。
「あれって……オラの【動物愛護】?」
「それと僕の【カリスマ】にザフキエルの【理解】が入っているよ」
さすがは兄さんその通りだ。
カリスマの指揮能力に動物愛護でドラゴン達へ作戦を【理解】させた。
そして!
「リューゼ!!」
「おお、待ってたぜ!! 【魔法剣――】」
『これは……!』
「「【クリムゾン・ザッパー】!!」」
サージュブレイドとロザの大剣が青白い炎をまとい、左右からリースを強襲する。両手から光の刃を出すがそれを打ち砕きながら俺とリューゼの剣はリースを切り裂いた。
『うがっ!? セフィロがどうなってもいいのか!?』
「そんなことは無いよ。もちろん返してもらう……!」
『なにを――』
落下するリースの胸に手を当て、俺はガブリエルの【基盤】と【動物愛護】を同時に使う。
『お、兄ちゃん……』
「出てきた! 手伝うわ!」
『マキナおねえ……ちゃん』
『止めろ!』
「くっ……!」
恐らくと当たりをつけていたセフィロ。
やはりというかこいつの力の基盤だったようで、俺がセフィロを引きずり出すと焦り始めるリース。マキナが飛んできてくれ上半身を掴んで一緒に引っ張ると今度は暴れ出す。
「<ヒール>! あと、少し……」
『ああ……』
「頑張ってセフィロ!」
『くく……恐ろしい手を使う……だけど次はさせない……』
「こいつ、諦めろってんだ!」
「リースちゃん、セフィロちゃんを返しなさいー!!」
『寄るな! あはははははは!! みんな死ぬんだ!!』
クラスのみんなも手伝ってくれるが、リースは高笑いをしながら刃を振り回し近づけないように腕を振る。それは俺とマキナにも及ぶが、ヒールを使いながら少しずつ引きずり出す。
『あ、あああ……』
「頑張れセフィロ……! くぅ……!!」
あと一息……!
俺がそう思った瞬間、それは起きた――
「食らいなさいリースちゃん! ウインドドラゴンの力を借りて今、必殺の! バスレーちゃんキィィィィック!!」
上空からバスレー先生の声が聞こえたのだ!!
「な!?」
『にぃぃぃぃぃ!?』
バスレー先生の両足がリースの脳天に直撃し、もろとも地上へ落下していく。
だが、その衝撃でセフィロは俺の手に帰って来た。
「良かった……!」
「マキナ、ベルナ先生のところへセフィロを頼む! 俺はトドメを!!」
「ええ!」
「というかバスレー先生、死んだんじゃねえか!?」
「あれくらいで死ぬような人じゃないって」
急降下する俺の背後でそんな言葉が聞こえ、世界の危機だというのにそんな軽口が叩けるのかと感心する。
砂埃が上がる中、レッツェルを下敷きにして目を回すバスレー先生と、頭から血を流し俺に目を向けて笑うリースの姿が見えた。
「リース!!」
『ラース君、何故わかってくれないんだ……! ボクには君しかいない……まだ抵抗するというなら……君を殺して永遠にするしかないじゃないか……!』
「刺し違えてでもお前を倒す!」
止まらない、いや、止められない……!!
俺の剣はリースを貫くだろう。だけどこの軌道と速度ではあいつの光の刃も俺の喉を貫く形だ。
でも、地上に落ちた神を倒すこのチャンスを逃すわけにはいかない……!!
『ひ、ひひ……! 一緒に死のうラース君……!!』
「……」
狂気の笑みを浮かべて俺にそんなことを言うリースに、俺は無言で突っ込んでいく。マキナには悪いけど、許してくれ――
そんな覚悟を決めた時、リースの身体がガクンと大きく後ろに倒れた。
『てめえのせいで……ごほ……酷い目にあったぜ……おい馬鹿兄貴!! さっさとケリをつけやがれ!!』
「賢二!? ……ああ!!」
『貴様!? 操り人形の分際で神たるボクを――』
突然現れた賢二に悪態をつく暇など、無い。たった数秒で勝敗の行方は大きく変わり、サージュブレイドはリースの心臓を貫き、地面に縫い付ける。
『あ、が……ラ、ラース、君……』
「……スキルという優劣をつける世界を創り、自身の欲望のために世界を壊そうとするお前に神の資格は、多分ないよ」
『ボクは……ボク、は……本当に君が……』
「好意はありがたいけど……俺はそんなお前が……大嫌いだよ」
『そ……んな……馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
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