第六百三話 スキル、その価値


 「久しぶりに激怒しているな……」

 『リースがあなたの固執しているから彼女としては怒るでしょうね。それに世界を消すなんて言っているから危ういし』

 「あいつはどうして……」


 少し出遅れた俺は母さんに引き止められていた。

 上空でのマキナの猛攻を見ながらリースにも目を向けて呟くと、母さんは口を開く。


 『神様なんてのはなんでも思い通りにできると思っている存在の代表みたいなものだから仕方ないわ。だけど見ての通り、人間であるマキナちゃんと同じレベルで争うくらいには精神が幼い』

 「それは……神としてどうなんだろう」

 『逆よ、人間を作って世界を創って、自分は絶対王者。なのに、ラースはカミングアウトしても『尊敬』はおろかリースを手に入れるなんてことも言わないから意固地になってるのよ』


 こじらせている、というやつらしい。

 このボクがここまで言っているのに! と言う話のようだ。ただ、俺はこの話を聞いて恐らく本当の決着は自身でつけるべきなんだろうと思った。


 「もっと早く教えてくれれば良かったのに」

 『今日、この状況が来るまでは難しかったのよ。下手にあなたに関わると感づかれてしまうから学院に入る前に【超器用貧乏】の説明だけはしておきたかったから』

 

 それで学院以降は出てこなかったのか……俺がそんなことを考えていると、遠巻きに見ていたリューゼ達が一斉に動き出してリースへと迫る。だが、シャルルとジャックは降下してきていた。


 『まだ、抵抗するのなら! チィ!?』

 「【カイザーナックル】!! きゃあ!?」

 

 マキナのカイザーナックルとリースの光の刃がかち合い、大きく弾かれる。そこへのけぞりながらもリースの左手から魔法が放たれる。


 「マキナちゃん! <ファイヤーボール>!!」

 「たあああ!」

 『邪魔をする……!!』

 「当たり前だろうが! マキナになんかあったらラースがどうなるかわかったもんじゃねえからな! 【フレアブレイク】!」


 あいつは俺をなんだと思ってんだ!?

 リューゼが俺も見たこともない魔法剣の一撃を容赦なく叩き込むのを見ながら俺は驚愕する。

 

 「あたし達が飛べないのが悔しいね。弟子があれだけ頑張っているのに」

 「弟子を見せに帰ろうとしたらこんなことに巻き込まれるとはなあ」

 「いや、なんかすみません……」

 「それより、ジャックが降りて来るよ」


 ファスさん達が難しい顔でそんなことを言う。

 そしてジャックが降りてくるのだが、よく見るとヨグスも居た。


 「俺は飛べるぞ、すぐ行く」

 「いや、そうじゃねえんだ。ちょっとヨグスの作戦を聞いてもらおうと思ってな」

 「作戦?」

 

 俺がヨグスの方へ顔を向けると、小さく頷いてから口を開く。

 

 「そんなに難しいことじゃないんだけど、彼女を倒せるのは他世界の魂を持つラースのみらしい。だけど、さっきの状況を見る限り決定打になりそうないと思ったんだ」

 「……確かに」


 攻め続けるというのが最善だろうと思っていたが、決定打は確かにない。

 ドラゴニックブレイズもそこまで効果が無いことを考えるとヨグスの言うことは当たっている。


 「そこで考えたんだ、ジャックのスキルで僕達のスキルを全部ラースに使ってもらおうって」

 『我等天使のスキルを含めて全部で20。これだけあれば追い詰めることは難しくないはずだ』

 「マジか!? そんなことが出来るのか?」


 ジャックに目を向けるとニヤリと笑いながら俺に言う。相変わらずいたずらが好きだって感じの顔をするなあお前。


 「俺のついている天使のスキルは【王冠】ってやつだが、これは単純に能力の上昇効果があるらしい。だからまずこれを俺が使って――」


 と、話し出した作戦はとんでもないもので【王冠】でジャックの【コラボレーション】を強化することにより手を握らずともスキルを発動することができるようになる。

 見えない糸が繋がっていてそれを操作する感覚だと言うが俺には分からなかった。その糸が【スキル】の骨子で、それを俺に繋げることで集約させるとのこと。


 「そんな大技、大丈夫か?」

 「……ラースが良ければ問題ねえだろ。是非と有無の問答は無しだ、やるぞ」

 「オッケーだ。俺はどうすればいい?」

 「レビテーションで待機してくれ、準備が整ったら一気に攻めろ。そのためにあいつらが今、攻撃を仕掛けている」

 

 あれはこっちに気を取られないためにやっているのか。

 俺が見上げると、ヘレナやオオグレさんも参加しているのが見えた。


 「おっと、当たらないわよリースちゃん?」

 『ダンシングマスター、なかなか厄介じゃないか。それで男達を魅了して、とんだ魔性の女だよ!』

 「スキルのある世界をあんたが作ったんでしょう? だったら文句を言わずに食らいなさいねえ!!」

 

 「そうだよ、リース。僕は小さいころ【霊術】が本当に嫌だった。ラース達Aクラスやオオグレさんが居なかったらもっと陰鬱な人生だったかもしれない!」

 『なにか一つ特別なものがあった方が人生はいいと思うけど、ね!! まあ、君はここで人生を終わらせるわけだけど』

 「……!」

 「させないでござるぞ! その力のおかげで出会えたから感謝はしている。しかし、生み出した存在に対して適当過ぎやせんでござるか?」

 『骨がカタカタとうるさいんだよ……!!』

 「ならてめえはラースラースと……」

 「うるさいってことねぇ!!」

 『バカップルがぁ!!』


 Aクラスとティグレ先生達に執拗に攻撃され、流石のリースも焦りと怒りが目に見えてわかるようになってきた。俺に気を回している余裕はないようで、マキナに当たり散らしている有様だ。


 「急ぐぞ、ダメージはあるがトドメはさせねえみてえだ」

 <頼みますわ、ラース>

 「うん。それじゃ、行こう」


 そこで後ろから声をかけられる。

 誰かと思ったら、ずっと黙って俺と母さんの顔を見ていたアイナだった。


 「ラース兄ちゃん!」

 「アイナ、どうした?」

 「頑張ってね!! デダイト兄ちゃんとノーラちゃんとマキナちゃんとサージュと……えっと、みんな一緒に帰ろうね!」

 「……ああ!」


 アイナに鼓舞され空へ。

 母さんが守ってくれるなら安心だろうと振り返らず真っすぐリース達の居る高さの位置へ来ると、シャルルに乗って背後に居るジャックがスキルを使い始める声が聞こえてきた。


 「【王冠コラボレーション】って感じかねえ。後は頼むぜ、ラース――」

 「僕のスキルでも役に立てば……!!」

 『我が【知恵】が役に立たないわけがない』


 そんな会話が聞こえてきた瞬間、俺の身体、いや、頭の中にとんでもない数のスキルが流れ込んできた――

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