第六百二話 我儘な神に報復を
「ラースは力を温存しておいて。ここは私達が力を削ぐわ」
「俺も行くよ」
『トドメをさせるのはあなただけだから、マキナちゃんの言うことも正しいわ。天使の力がある今なら弱らせることができるはず』
「母さん?」
「それじゃ行ってくるわ!」
なにかお母さんがラースに話しかけていたので、私は先にリースの下へ。
激昂した彼女が私達だけに光の弾を投げつけながら大声で叫んでいた。
『ボクの邪魔ばかりする! これだからAクラスの連中はっ!!』
「だからAクラスなんだよ! 【獄炎竜烈破】!」
『なんの……!! <アークレイ>!』
「チィ!?」
ラースやロザと訓練して会得したリューゼの魔法剣がリースの魔法とぶつかり合い空に轟音をまき散らす。
「リューゼ!」
「問題ねえ! 畳みかけろマキナ!!」
十神者……天使の言う通り念じればラースのレビテーションのように浮くことができ、少しの【理解】で自由自在に移動もできるようになっていた。
ひとまずの先制攻撃はリューゼ。
次いで私が【カイザーナックル】で追撃を仕掛けようとしたところへ、サッとリースへ武器を振り下ろす人影が
「えい!」
『ぐあ!? お前……クーデリカ……!』
「ええ、斬れないの!?」
『普通の人間なら腕が落ちているところだぞ!! ……お前みたいな天然っぽいのが一番やばいんだ、ヤンデレってやつになる』
「なにそれ! リースちゃんが悪いんでしょ!」
『落ちろ……!!』
「そっちが!」
確かにクーデリカはラースのことになると見境いが無くなるところはある、かな。諦めてはいないみたいだけど、私が選ばれた時は喜んでくれたものだ。
それにしてもクーデリカの【金剛力】で強化された一撃で鈍痛程度とは驚くわね。神様ってのを信じていないわけじゃないけどいかにもな強さを誇っている。
「どけ、クーデリカ!」
「うわわ、ティグレ先生!?」
『今度は熱血教師かい!』
「僕とオオグレさんも居るよ」
「参る……!」
いつの間に上がって来たのか、左右から大剣とカタナが振り下ろされリースは両手に光をまとわせてそれを受け止める。
「こいつ……!」
「なんという力。拙者の一撃をこうもあっさりと!」
「そのままでいいわ、私が【カイザーナックル】で!」
『君達ではボクを倒せない。そしてこういうのもある!』
「セフィロ!」
『マ……キナ……おねえ……ちゃん』
胸元から顔をのぞかせ、私達は驚愕する。
そういえば姿が見えないと思っていたけど、こんなことになっていたなんて!? 慌てて手を止めると、リースはにやりと笑い、ティグレ先生とオオグレさんを弾き飛ばして私へ手を伸ばす。
『君が居なければ……!!』
「危ないマキナ!」
「ウルカ!?」
『邪魔をするな!!』
私の前に躍り出たウルカが代わりに首を掴まれた。ミシっと嫌な音を立てた瞬間、横からすらりと伸びた足が目に入りリースが吹き飛んでいく。
「あんたねえ、神様だかなんだか知らないけど調子に乗ってんじゃないわよ? ルシエールもクーデリカも我慢しているんだけど?」
『ヘレナ……!』
「リースちゃん、もうやめよう? こんなことをしてもラース君は好きになってくれないよ」
『きれいごとを言うなルシエール。欲しいものはどんなことをしても手に入れるべきだ! だからラース君も領主を奪還するためなりふり構わず! ……う!?』
激昂するリースへ魔法がさく裂し、その方角を睨みつけるリース。
そこには珍しく怒った顔のベルナ先生が居た。
「そうじゃないわよぅ、リースちゃん。あの子は自分のためじゃなく、いつも誰かの為に戦っていたわ。最初は家族のため、次にわたしやサージュのため。そして今は世界のために。それに引きかえにあなたはなにをやっているのかしら……」
「人に迷惑をかけたらオラの父ちゃんと同じなんだよー!!」
自己欲のために世界を滅ぼすなど神様としてあり得ない。そうベルナ先生とノーラが否定し、歯ぎしりをするリース。彼女も私達と学院生活を送っていたから分かってくれるかと思う。
『神だからなんだというんだ……! あの面白くも無い部屋で一人、下界の様子を見るだけ……伴侶の一人も欲しいというのはそれほど我儘かね!!』
「きゃ……!?」
<させませんわよ! ジャック!>
「おう!」
リースの放った光の弾をシャルルが咄嗟に防ぎ、ジャックがベルナ先生の手を取り、【コラボレーション】で強大な魔法を返していた。
「チッ、空を飛べるようになったとはいえ慣れないとむずかしいもんだな。よくラースは自由自在に飛ぶもんだぜ」
「結構前から使っているからね。それにしても……セフィロちゃんが取り込まれているとはね」
首を抑えながらウルカが私の横で呻くように言う。
「ラースが来るまで止めたいところだが、下手に攻撃しにくくなっちまったな」
「……」
ティグレ先生が唾を吐きながらそう呟き、取り囲む私達の顔に冷や汗が浮かぶ。
セフィロを攻撃するのと同義なので、二の足を踏む状態になってしまう。
私は一度目を瞑って深呼吸して口を開く。
「……やるしかないわ。このまま手をこまねいていてもリースの思うつぼだもの!!」
『一番近くで過ごしていた君がセフィロを痛めつけるのか――ぶふぇぇ!?』
「やるわよ! 一番望んでいないのがセフィロ、私だったらそう思うしね!」
『開き直ったか! でも、いいねそれでこそボクのライバルだ!』
「勝手なことを言ってるんじゃないわよ!」
◆ ◇ ◆
「うおお……マキナがブチ切れたぞ」
「あんなに怒ってるの……は、初めてかも……」
「やり口が汚ぇからな。あいつは正義感強いから、騎士部とかに入ってたわけだし」
焦るリューゼにティグレ先生がマキナとリースの戦いを追いながら口を開く。
割って入る隙がないかを確認している。
が、連撃が激しいため下手に割り込めないとは僕でもわかる。ラースは……まだ会話中か。
あいつがこっちに来る前に僕の案をみんなに伝えるべきかと口を開く。
「ごめん、天使の力を持っている人は今から僕の言うことを聞いて欲しい。このままじゃ埒が明かないし、ラースがトドメをさせるならあいつに集中した方がいいと思うんだ」
「どういうことだヨグス?」
「説明は今からするよ。ジャック、君の力が必要だ。そしてサージュ達ドラゴンには準備が整うまでリースの相手をして欲しい」
<ふむ……?>
そして僕は告げる。
恐らくこれで神を倒せる手筈を。
ラースは倒せると言っていたけど、さっきのを見る限りまだ手をこまねいていた。
かといって僕達が全員で戦っていても攻撃を出来る人数は限られている……
ならば――
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