第六百一話 天使は神に反逆する
「とんでもない威力だぞこれ!? <ドラゴニックブレイズ>」
「ファイヤーボールじゃ相殺が精一杯ねぇ……!!」
「リース、いい加減諦めなさい!!」
『黙れ! マキナ、君さえ居なければ……!』
<落ちるがいい!>
『喋る爬虫類がっ! 生意気な!』
飛び回りながら俺達……正確には俺以外に光弾を連発してくるリースに対し、地上に居る俺やベルナ先生たちの魔法がそれを相殺して応戦。
空ではサージュ達ドラゴンが彼女を抑えようと壮絶な空中戦を繰り広げていく。
でかいから有利であり不利という感じで、リースからすれば狙いやすく、サージュからすれば一撃入りさえすれば軽くないダメージを与えることができるからだ。
「空中じゃ手を出せねえ、サージュかヴィンシュに乗せてもらうか! って、ヴィンシュいなくね!?」
「チッ、ちょろちょろと……ちゃんとこっちを見ていやがるな。うおっと!」
ティグレ先生が矢を放ちながら悪態をつく。先生の能力でも当てられないのか……こうなったらレビテーションで飛んで墜とすのが早いかもしれない。
「シャルル、回り込め!」
<ええ!>
先に戦っているアクアドラゴンのシャルルとジャックの夫婦コンビは上手く戦っているが、ジャックのスキルを考えると牽制くらいしかできないか?
と、思っていたのだが――
「ここだ! メタトロン、力を貸してくれ!」
『問題ない。<エンゼルフェザー>』
「なんだ……!?」
『お前……サタンか! 邪魔をする――』
リースの光弾をジャックが両手から出した光の羽で相殺して俺やリースを驚かせる。さっきの声は確かにサタン。だがジャックはメタトロンと口にしたな……
「どういうことだ……?」
「ジャックもそうなのね」
「ジャックもって、マキナはなにか知っているのか?」
<説明しよう!>
「うわ!?」
いきなりマキナの近くで声がし、俺が驚いているとマキナの背後にスッと天使の羽をもった姿が浮かび上がってきた。天使……ってやつか。というかこの声は聞き覚えがあるぞ。
「お前……アドラメルクか」
<イエス。だが、今の私は悪魔から天使へと戻った。名をラファエルという>
上級天使の名を口にするとは……あ、いや、クリフォトの反転の位置に立つ者は確か天使群だった気がする。堕天使とはいうけど、悪魔から天使に成り代わるとは驚いたな。
<元・十神者である我らは身勝手な神に反旗を翻したと思ってくれていい。今、上で戦っているメタトロンを筆頭に、ラジエル、ザフキエル、ザドキエル、サマエル、ミカエル、ハミエル、ガブリエル、サンダルフォンはお前達に手を貸すと決めた>
「わ!?」
リューゼ、ルシエール、ウルカ、ヨグス、クーデリカ、ヘレナ、兄さんとノーラの間にティグレ先生の背後に天使達が現れ、ヨグスの背中にいる天使が口を開く。
<そういうことだ>
「その声、エーイーリーだな。ということはベルゼブブか……?」
<その通り。流石だな? 今はラジエルという。さて、ウチのトップが抑えている間に説明するが、ここからが本番だ。……恐らくあいつを倒せるのは異世界人であるラース、もしくは教主かそこの悪魔を騙っていた女だけだろう>
「根拠は?」
ほぼ戦力として数えられるのは俺だけという状況は厳しい。そうラジエルに尋ねると、リューゼの背後にいる天使が代わりに応える。
『まあ、今のはおおざっぱだけど、トドメを刺せるのがアンタってことよ。ここにいる天使の力がある人間は神に対抗できる力があるわ。ああ、アタシはハミエルよ』
『攻撃はできる。だが、最後の一撃は恐らく異世界人が一番いい』
『理由は単純。世界を作った神を、現地人が倒すことをブロックしているからだ。しかし幸か不幸か、魂がこの世界とは切り離されているてめえなら倒せるって寸法だ』
最後のセリフはアクゼリュスか。なるほど、十神者が全員反転して味方になったようだ。
で、こいつらも別世界の魂と言えばそうなので『攻撃は可能』である。だが、あくまでも賢二に召喚されているから制限があって確実に倒せるとは限らないのが真相らしい。
「でも、なんでラースは大丈夫なんだい?」
『多分、私を含めてイレギュラーだからです。確かにリースは英雄を好んで魂を連れてきましたが、その後は私が装置を使ってスキルを付与するなどして英雄……いえ、ラースをこの世界で不自由しないようにいじったからかと』
「なにやってんのさ母さん……」
ファスさんの問いに対して、大真面目に無茶なことをやっていたらしい暴露をする母さんに呆れてしまうが、ここは僥倖だったと思うべきか。
「なら、シャオや師匠たちは手出しできないってことカ?」
「いや、邪魔はできんだろ」
「そういうことですねぇ。あなた、ティリアのためにも頑張ってねぇ」
「おう、頼んだぞサマエル」
『くっく……仕方ねえな』
『我ら天使の力を持つ人間は空を飛べる。ノーラとデダイトの夫婦は二人で一人の力になるからそこは注意するのだぞ』
「うん、デダイト君と力を合わせるよー!」
「もちろん守る。頼むよザフキエル」
ノーラと兄さんのイチャイチャぶりを見て、ヘレナがダガーを手で弄びながら口を尖らせる。
「まったくいいわねえ」
「ふふ、まだ彼氏がいらないヘレナちゃんはアイドルやるんでしょ?」
「まあねえ。だけどルシエールもクーデリカもそろそろじゃない?」
「うーん、そうだね」
……三人とも俺を見るのは止めてくれ。俺は咳ばらいをしつつ、この状況を打破するため俺は声を上げた。
「よし、なら俺が牽制をするためリースを引き付ける。その間に――」
俺が引き付けている間にシャルルとサージュ、ロザを降ろして空を飛べないファスさんやベルナ先生を乗せてもらう形を取る作戦に出ることにした。
近距離になるのは難しいけど、十分牽制になると思う。
『いけそうか、ウルカ?』
「うん! でもスケルトン達は呼べないから、ここはオオグレさんだけで行くよ!」
「承知! む、これは――」
『骨のままでは戦いにくいだろう、ここは【物質主義】を使ってやる』
まさかの悪魔スキルでオオグレさんが元の姿を手に入れていた!?
いかにも侍って感じで無精ひげをはやした男はカッコいい。
「お、渋いおっさんだったなオオグレさん!」
「照れるでござるよリューゼ殿。……いざ、ゆかん!」
ウルカも兄さんと一緒でオオグレさんと力を半分ずつって感じかな? メインがオオグレさんならアリだと思う。
「よし、それじゃ先に行くよ」
「あ、待って私も行くわ! ふふ、こうやって飛べるとは思わなかったわね」
「はは、確かに。それじゃ……行こう!」
「「「はーい!」」」
俺を筆頭にマキナ、ルシエール、クーデリカ、ヘレナが続き、
「あ、こら! 待てって! ナル、無理しなくていいからな!」
「もう、心配し過ぎよ! 早く行きなさいリューゼ!」
「うう、パティ……僕頑張るからね」
「え!? まさか付き合ってんの!?」
次いで爆弾発言のヨグスも飛びあがり、俺達はリースへと近づいていく。
……みんなが居るってだけでこれほど力強いことはないなと、俺は口の端を笑みに変えながら剣を抜いた。
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