第六百話 全員集合


 「リース!!」

 『くぅ……!?』


 迷いなく振り下ろした剣を回避するが、初めてリースから余裕の表情が消えた。恐らくセフィロを盾にすれば俺が本気で攻撃できないと考えていたのかもしれない。

 セフィロは大事な仲間だし家族みたいなもんだと思っている。……だけど元々リースの力の源ということであれば引きはがすことはもう出来ないと、思う。

 俺の都合の良い解釈かもしれないのは承知しているが、リースをこのままにしておく方が被害拡大に繋がると判断した俺はリースを殺すために剣と魔法で迫撃を続ける。


 「<ファイアーボール>!」

 『相変わらず強力だね、君の魔法は! <フィランソロピー>』

 「まだだ……!! <ドラゴニックブレイズ・グラン>!」

 『な、に……!?』


 謎の魔法でファイアーボールを相殺するリース。爆発の中を一直線に駆けた俺は立ち込める煙の中から彼女へ肉薄すると、イメージだけできていた改良型ドラゴニックブレイズをぶっ放した。

 三つ首になった白い竜の形をした魔力の塊は三方から噛みつくようにリースへ向かう。


 『まさかこんな魔法を開発していたとは恐れ入るよ。だけど三方向からなら逃げようはあるかな!』

 「馬鹿を言うな、『そこしか逃げ道が無い』んだよ!」

 『いつのまに……!? チィ!』


 ショートレンジの転移魔法で背後に回り込んで斬りつけると、慌てて光の刃で俺の剣を受け止める。

 だが、これは倒すための攻撃では無くただの足止め。もちろん本命は――


 『しまった……!?』

 

 ――ドラゴニックブレイズだ。


 俺は素早く距離を取ったがリースは一歩出遅れた。

 そのため、膨大なエネルギーを全てその体に受けることになり、空気が震えるほどの爆発を起こす。


 「やったか……!?」


 顔を腕で庇いながらリースの居た場所から目を離さずに注意深く観察する。直後、煙を裂いてレーザー光線のようなものが飛んでくる。

 きちんと警戒していた俺はすぐに身をかがめて前に出ると、襲い掛かってこようとしたリース鉢合わせる形になり驚いた顔をする。


 『近い……!?』

 「読めているよ!!」

 

 目の前に現れたリースに斬りつけるが相手も身を翻す。肩を斬ることはできたが、浅い。

 ならばと目の前で再度ドラゴニックブレイズを撃つ。


 『ぐ、ぬうううううう……!』

 「これを……耐えるのか! 伊達に神様って訳じゃないってことか」

 『さ、再生を……!』

 「俺が手を止めると思うか!」


 少しずつ回復するのが見えるが、俺は容赦なく右肩に剣を叩きつけた。血しぶきが舞い、苦悶の顔を浮かべるがリースは肩に剣が食い込むのも構わずに俺に抱き着いて来た。


 『ふ、フフフ……捕まえたよラース君……さあ、ボクと一緒に愛し合おう……』

 「ふざけるな! お前は神であっても戦士じゃない。このまま戦えば勝つのは俺だ!」

 『そうかもしれないねえ……だけどボクはリース。【実験】のスキルを持つ人間でもある――』

 「痛っ!?」


 にやりと笑みを見せた瞬間、俺の背中に痛みが走る。

 しまったと思い慌てて全力で蹴りを入れてリースを弾き飛ばす。剣を手放すことになったが、それ以上にまずいことに、

 

 「か、身体が……重い……」

 『さすがにこれは痛いね。だけど、これでようやくラース君を連れて行くことができる』

 「う、ごけ……!」

 『ボク特製の麻痺薬だ、意識はあるし言葉も喋れるけど身動きはできないだろう? 既成事実を作るにはちょうどいい』


 そんなことを口にしながら光悦した顔でペロリと舌なめずりをするリース。

 やばいストーカーだ……日本なら監禁されて逆に襲われてしまうってやつだぞ!?

 くそ……意識ははっきりしているのに体が動かないのは恐怖でしかない……ただ、時間さえあれば魔法で解毒できそうなのでなんとか時間稼ぎをしたいところだ。


 「俺は絶対に屈さないからな」

 『身体は正直だからね、すぐに分かるよ』

 「普通このセリフは逆だと思うけどな」

 『ボクはダメな男の英雄で、生まれ変わりのラース君が好きだから何の問題も無いよ?』


 目の前に来て顔を近づけるリースがにたりと顔を赤らめて笑い、この後なにをするのかが分かり冷や汗が出る。


 『ちょっと味見を……』

 「や、止めろ!!」

 『んー、マキナだけ独り占めはずるいからねえ』


 こいつは俺にキスをするつもりだ!

 顔を背けたいが体が動かない……このままじゃマキナに殴られてしまう……!?

 そう思っていると――


 「ダメ―!!」

 『おうふ……!?』

 「ハッ!!」


 ――目の前に居たリースが吹き飛び、目の前に見慣れた背中が見える。さらに見慣れた姿をした人影がリースへ追撃を仕掛けていた。


 「兄さん、ノーラ!」

 「助けに来たよー!!」

 「リースさんは僕が牽制するからノーラはラースを頼む!」

 「うんー! 大丈夫?」

 「あ、ああ……悪魔は?」

 「ここに居るよー!」


 ノーラが自分の胸に手を置いてそんなことを言う。どういうことかは分からないけどどうやら倒したらしい。そして兄さんの動きを見てみると――


 「神様の戯れにもほどがありますよ!」

 『お義兄さんはノーラと仲良くやってくれればいいからさ!!』

 「残念だけど、お義兄さんと呼んでいい人は限られているよ!!」

 『ははは、ただの人間がボクを倒せると思うのかい? ラース君が居なければ貧乏生活をしていたかもしれない君が!』

 「ぐっ……!?」

 「デダイト君!」


 兄さんの大剣を押し返すリース。

 このままだとやられる……身体、動いてくれ! 

 だが、戦いは意外な展開を迎える。


 「大丈夫……僕は……僕達は【理解】している。君の望みも動きも、全て。だからこそ、ラースを渡すわけにはいかない!!」

 『ぐあ!? こ、この力は悪魔の――』

 「ううん、違うよー! これは天使の力!」

 『まさかあいつらが人間に力を貸したってのか!? うわ!?』


 驚くリースへさらに一撃が入り、バランスを崩す。今のは兄さんじゃない……今度は――


 「そういうこった。おい、リース学院の生徒だったよしみだ、このまま逃げるなら命だけは勘弁してやるぜ?」

 「許しませんよぅ!」

 「ラースお兄ちゃんをいじめたらダメです!」


 ――ティグレ先生一家だった!

 

 『先生か……!』

 「それだけじゃないわよ! 覚悟しなさいリース!」

 『マキナ……! どうやら、悪魔達は全員やられたようだねえ?』

 

 マキナも蹴りをいれながら怒声を言うと、さらにこの場に人が集まってくる。


 「そういうことだぜリース。お前はこれで終わりだ」

 「ラース君、きたよ!!」

 <さて、最後の戦いというやつかな?>

 「オオグレさん、やるよ」

 「うむ。拙者、この刀にかけて全力を出す所存」

 

 リューゼやクーデリカ、サージュにウルカ、オオグレさんにヨグス、ロザ……ここに集まっていた人間が勢ぞろいし、リースを取り囲む。


 『<リカバリー>。ラース、立てる?』

 「か、母さん。……うん、ありがとう。リース、お前がどうしようが俺達は負けるつもりはない。覚悟してもらおうか」

 『どうしてそこまで拒否をするのか理解に苦しむね? 世界を壊すのは冗談で済まそうと思ったけど……これはやらざるを得ないね……!! その前にボクに逆らった罪をの代償を払ってもらおう、ラース君以外は全員苦しんでから殺す……!!』

 

 リースはそう激高し、髪を逆立てて顔を醜く歪めて眼鏡を割り、


 『神の力、とくと味わえ!』


 右腕と左腕を光らせ、そこから光弾を撃ち出して来た!

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