第五百九十六話 ヨグスの実力
僕の名はヨグス。
考古学者として周辺国の発掘や化石を調査する仕事をしています。
過去に生きていたという魔物や動物、また植物にはロマンがあり、どういう生態をしていたのか?
どういう形をしていたのか……それを考えるとワクワクして楽しいんですよね。
だけど――
『ヒュウゥゥゥゥ……!!』
「ヨグス避けろ! 腐食性の息だよ」
「うわあああああ!?」
「任せろ‟風華散”」
――あんな大きな蠅は絶対に居なかったと思う!?
ファスさんの旦那さんだというハインツさんという人の蹴り技で息を蠅に返してくれ、触れた箇所がドロリと崩れ落ちる。口から出ている酸もかなり危険だ……。
「ありゃやべえな」
「まったくだね。なんとか返しているけど、服がボロボロになっちまったよ」
「ひゅう、相変わらずお前は美人だな。ぶべ!?」
「とっとと盾になりな」
「そんなことしている場合じゃありませんよ!? 来ます!」
口からなにか液体を吐きながら急降下してくる蠅。
元は知っている悪魔のはずらしいけど、あんなのまるで想像がつかない……一体誰なんだ……?
「ヨグス、こいつはあんたには荷が重い。下がって誰かと合流するんだ」
「で、でも……」
「任せとけ。……なんかでけえのも来たみたいだしな」
ハインツさんのが巨大蠅をけん制しつつ口を開くと、滑るようにグランドドラゴンのボーデンが突っ込んできたのが見えた。
<あっちはある程度片付いたから来たぞ!>
「助かるよ! 動きを抑えてくれるかい?」
<承知! ヨグス、ワシの後ろに>
「ドラゴンかよ……お前達マジでなんなんだ?」
そんな言葉を呟きながら強敵相手だと嬉しそうに攻撃を仕掛けるハインツさん。ファスさんも珍しく拳にルシエールにオーダーしていた武器を装備していて本当にやばい相手なのだと思い知らされる。
『ヒュガァァァァ!!』
<うぬ……!? ワシの皮膚と溶かすだと? ぐお!?>
「こいつ噛みついた!? ‟雷撃掌”!」
「ぼ、僕も! <ファイヤーボール>!」
ファスさんが息が排出されていないところから殴ると、バヂィンと雷が弾けるような音が鳴り、僕のファイヤーボールが側面にヒットしたことで怯む。
「てぃあ!! チッ、ふわふわしやがって……」
そこへはハインツさんが一撃を狙うも急上昇してすかされた。
<やりおるわ>
「凄いな……大丈夫?」
<これくらいならな。ヴィンシュあたりがいると叩き落せると思うのじゃが>
グランドドラゴンの皮膚は岩のように硬く、ティグレ先生やラースくらいの強さがあって始めてどうにか出来る。それをあっさり息で溶かして肉を食いちぎるとは驚いた。
「興味深いな、悪魔ってだけのことはあるね」
<感心している場合か。まあ、ワシらの鱗とかを集めておったしのう>
ドラゴンの鱗も一人一人特色があって面白いんだよと口を挟む前に蠅が襲い掛かってくる。僕はその場を離れて魔法を放つが、あまり効果はなさそうだ。
一般的な魔物相手なら僕でもやれるけど、学院以降それほど修行していないから仕方が無いか。
「はぁぁ! 雷光爆撃破!」
「嵐刃!」
『キィエァァァァァ!!』
<ええい、ちょこまかと……! 熱っ>
「濃度が上がった……!? これはちょっと近づけないねえ……」
「俺が息を吹き飛ばして、とかやるか?」
「正面だとあんたが危ないよ」
玉ねぎが腐ったようなにおいが強くなり、僕達は顔を顰める。
これだけでもかなりヤバイ雰囲気があり、長丁場になりそうな気がして来た。
それでも攻めなければといって攻撃を仕掛けるけど、空にいる相手を力いっぱい攻撃できるわけではないので受けるダメージと与えるダメージがわりに合わない。
「せめて地上に引きずり降ろせれば勝てるか……?」
ドラゴンと一流の格闘家が二人いるなら状況を作れば勝てるはず……と、そこで僕の頭に閃くものがあった。
蠅は腐ったものを食べる習性があると図鑑で読んだことがある……だからこいつは自分から相手を腐らせて食べるということだと思う。
なら、こいつが本当にただの蠅と同じ習性であれば勝機は見いだせるかもしれない!
「……っ!」
「あ、おい、何をする気だいヨグス!」
僕はカバンから発掘調査で陽ざしを遮るのに使う布を取り出し、息と一緒に落ちてくる酸をウォータで薄めて布に付着させると、ボーデンの背中を駆け上がる。
<なんと!? 危ないぞヨグス!>
「大丈夫! 受け止めてくれよ!」
<なに!?>
『ジャァァァァァ!!』
僕がボーデンの頭部に立つと巨大蠅はこっちに狙いを定めてきた。
ジャンプして体当たりをしながら腐食性の息を布に染み込ませるように振る。僕の服がブスブスと嫌な臭いを出したころ身体が落下を始める。
「<ファイヤーボール>!」
『ギャガァ!?』
布を掴んだまま蠅の目にファイヤーボールを当てて潰す。効いているかは微妙だけど……!
<おっと……!?>
「ありがとう! ファスさん、ハインツさん! 僕についてきて、ボーデンはそのまま!」
「なんかよく分からないけど、いいよ!」
僕は少し距離を取り、蠅に見えやすいように布を広げて大声で叫ぶ。
「さあ来い……! お前の好きな腐った臭いだ。目がなきゃ感覚で飛べるだろ!」
『ヒュウウウウ……!!』
来た……! さあ、ここからは僕の腕の見せどころだ。こんなところで死ぬことはないからな。パティにも会いにいかないと!
『グガァァァ!』
「今だ……! 食らえ!」
布を巨大蠅に押し付けるように投げつける。熱い……!? この距離でも灼けるのか!? だけどそれは後だと同時に僕は魔法を使う!
「<アースブレイド>」
『ガ……!?』
「今だ、三人とも!」
「やるねえ、ガリ勉坊ちゃんだと思ったけど根性あるじゃないか! ‟雷光爆烈拳”!!」
「奥義でバラバラになりやがれ!」
<グランドファング……!>
アースブレイドで縫い付けられた蠅に逃げ場はない。
三方向からの攻撃を受けた蠅はぐちゃりという嫌な音を立てて崩れ落ちる。
「や、やった……」
「おっし! 手こずらせやがって。しかし良く思いついたな」
「はい。昔、ラース達とギルド部をやっていた時に図鑑で色々調べていた時期があったんでそれを思い出しました」
「トドメ、刺しとくか?」
<また復活されてもかなわんし、ワシがやろう>
ボーデンが爪を振り上げたその時――
『その必要はねえ。サンキュー、ようやく正気に戻ったぜ』
――蠅から声が聞こえてきた。
「エーイーリー?」
『おう、その通りだ。教主とあの神とやらに支配されていたからどうしようも無かったが、とりあえず死ぬことで逃れられたらしい』
「死んだ!? もう終わったのかい!?」
『はっはっは、だな! ま、別に恨んだりはしてねえぜ。これでお前達に……ラースに手助けができる』
「ラース?」
僕が尋ねると、蠅の身体が崩壊し、そこから光が漏れ始める。
『そうだ。あの神を倒せるのは転生者であるラースか、親だっていう女だけ。能力を考えればラースしかいねえのよ。だから俺の力をお前に託す。この【知恵】、活かしてくれよ――』
「ちょっと待っ――」
僕の抗議も聞かず、光が体を包み込んで――
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