第五百九十三話 反逆者の末路
<この……堕ちなさいな!>
「あんま無理すんなシャルル!」
『アアアアア!!』
なんだこいつ……!?
身体はでかく凄い角が生えていて、今まで出会った何者よりも『恐ろしい』と思わせる風貌をしていてシャルルの背中に乗っていても恐怖が体の奥底から突き上げてくる。
こいつは俺も少しだけ戦った悪魔、シェリダーとは全然違い力も魔力相当だ。
ルシエール達のところから引きはがしたものの俺達だけで手に負えるのか不安になってくるな!
「<ファイアアロー>! ……ッチ、まったく効いちゃいねえな」
<強い……! ジャックはあまり手を出さないでくださいまし、わたくしがアタッカーになりますわ!>
「そうはいってもよ……!?」
ドラゴンとはいえシャルルは女なので男の俺がなにもしないというのも歯がゆい。
やる時はやる男と見込んで彼女は選んでくれたんだ俺だって!
「シャルル、次に接近したらショートソードで応戦するぞ」
<だけどアレに攻撃が通用するとは思えませんわよ>
「やらないよりはいいだろ?」
<……死なないでくださいましよ>
シャルルがそう言いながら旋回し、再びデカブツへ突っ込んでいく。
他の奴等を見る限り、あの蠅かこいつが親玉ってところだろうな……となると――
「お前はバチカルか……!?」
『……!』
<はぁぁぁぁ……!!>
交錯する瞬間、シャルルの爪がデカブツの腹を攻撃し、動きを止めたところに俺が首筋を狙ってショートソードを振り下ろす。
その時、修行をしていた悪魔の名を口にすると抵抗しようとした腕がピタリと止まってショートソードが深々と刺さる……と思ったが、
「硬い!? サージュの爪から作った剣なんだぞこれ!?」
『ウ……ウウ……』
<わたくしの爪でも引き裂けないからそういうものなのでしょう……ね!!>
「大丈夫か!?」
<問題ありませんわ……!>
がくがくと震えるあたりどうやらバチカルで合っているのかもしれねえ。
そこからシャルルの顔を殴るも、怒りの反撃でバチカルは地面に叩きつけられた。
<‟メイルシュトローム”!>
「おお!」
シャルルの口から竜巻のような水流が吐き出され、地面に穴を開けたバチカルに叩きつける。
これは決まった!
だが次の瞬間、膨大な魔力がバチカルを中心に球状に放たれ、空にいた俺達はモロに受けて地面へと落下した。
「いってぇ!?」
<あう……!?>
「あ、ドラゴンの姿が……」
<だ、大丈夫……少し消耗した、だけですわ>
『……』
「野郎……! ぐえ!?」
いつの間にか近くに居たバチカルに激昂して仕掛ける俺。だけど、俺の一撃はあっさり受け止められぶっ飛ばされた。
<ジャック!? こ、の……!!>
『無駄だ』
「……!? 喋った……って、シャルルになにしやがんだ!!」
『……ラースは、居ないのか。すまない、ジャックだったか? 意識は戻ったがこの体は私の意思で動いていない。もう少し痛めつけてくれればなんとかなりそうだ』
「ドMかよ!? っと、あぶねえな! 確かにラースならあっという間だけど、あいつは今、リースと一緒にいるよ」
『神か……ふん、私は【無神論】というのに、神に使われるとは皮肉な話だ』
「おらよ! わ、っとと……」
シャルルを魔法で狙うつもりであろうバチカルの腕を殴り飛ばして向きを変え逸らすことに成功。
空いた拳を俺にぶつけようとしてきたがそれをしゃがんで回避し、シャルルを庇うように立つ。
「無神論ねえ……ま、その姿は確実に神様と敵対しそうな感じだけどよ。ぐえ……!?」
<わたくしのジャックに!!>
『ぬう……! やるなドラゴンの娘。まあ、確かに私は神と戦った者だからその表現は合っているな』
俺とシャルルの攻撃を受けながらそんな話を俺達に言う。
『ラースなら私をあっさりと倒せるだろうが……くっ、なんとかならんものか自分の身体だというのに……!』
こいつも苦労しているんだなと思うと同時に神に喧嘩を売ったという話に興味がでてきた。
「なあ……! なんでまたアンタは神様に喧嘩なんて売ったんだ!」
<ジャックなにを……!>
「このままじゃこっちもジリ貧だ、折角意識があるなら聞いてみてえなって思ってよ」
驚くシャルルをよそに俺は冷や汗を流しながら尋ねると、バチカルは目を一瞬瞑ってからにやりと笑い、口を開く。
『そうだな……簡単に言えば神のやり口が気に入らなかったからだ。神の上に立ちたかったとか人間に仕えろと言われたからキレたとか言われているのだが――』
バチカルはサタンという名でさらにもっと前はルシファーとかいう名前だったらしい。
元々、神に仕える立場だったが、思い付きで生物を創りその世話をするのが非常に面倒で、気に入らなくなった世界はポイ捨てをするという自分勝手な神に嫌気がさし、ぶっ飛ばそうとした。
が、そこは流石に神で上位種のルシファーや他の仲間も頑張ったが敗北。
悪魔に身をやつしてしまったという訳だ。
「なるほどなぁ……ぐは!? やりやがったな! 【コラボレーション】」
『うお!? メイルシュトロームだと!?』
<やりますわねジャック! 次はわたくしが!!>
『ぐぬ……! やるな』
まあ、話している間ずっと攻撃をし続けているんだ。これで涼しい顔をされたら心が折れる。
それでもトドメを刺すのは難しいかと思っていると、ルシファーの動きがビタッと停止した。
『む、すこし融通が利くようになったか……これなら……』
「ど、どうするんだ?」
『本当はラースに渡そうと思ったがお前達は面白い。この力、ジャック、お前に貸そう』
「どういう意味だ……?」
ルシファーは笑うと一気に俺に詰め寄ると俺の頭に手を置いてきた。
これはマズイか……!?
<ジャック!>
『ふふ、本当に恋人なのだな……人間とドラゴンが。実に興味深い話だ、他の人間には無い可能性を持つスキルというのも面白い。見せてくれ、人間の可能性というものを――』
「うわ、まぶしっ――」
<きゃあ!?>
俺達はルシファーを中心に白い光に包まれていく。
「このスキルは……」
『使い方は――』
俺はルシファーに言われた言葉を反芻し目を見開く。そして確かに俺なら、いや、俺にしかできないことを口にし、俺は――
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