第五百八十八話 覚悟を決めろ
「ど、どうします……?」
「どうもこうも、固まっているとまずいですからねえ。とりあえずルシエールちゃんとヨグス君は戦えます?」
「な、なんとか頑張れると思いますけど……」
まあ、あの悪魔達を見てしり込みするなというのが無理ですからヨグス君の声の小ささは仕方ないでしょう。
さて、現在の交戦状況を考えてこの場を斬り抜けないといけませんね。
でかい蠅にはファスさんと旦那さんが行き、ケムダーにマキナちゃんと知らない子が。
で、拒絶するのはルキフグスでしたっけ? 砦に残ったデダイト君とノーラちゃん、ウルカ君にヘレナちゃんが相手をしているはずなのでなんとかなるでしょう。
……他にはエロいお姉ちゃんはティグレ先生とベルナ先生でアスモデウスはリューゼ君とナルちゃん、か。
ジャック君とシャルルちゃんはアドラメレクとかいうのとやり合っているのであのまま任せましょうか
ドラゴンなら負けないでしょう。
残りはリリス、アディシェス、ケムダーに知らないのが何体か居ますねえ。
戦闘要員は現状わたしとレガーロさん、クーデリカちゃん以外はほぼ居ないと考えるべきですか。
ラース君が居れば二体くらい引き受けてくれるんですが、今回はそうはいかない状況……たまには自分達でやれってことですかね。
「ふうー」
「バスレー先生?」
「さて皆さん。ここは覚悟を決めましょう。固まっていては一斉に襲い掛かられた時に、わたしとレガーロさんではここに居る全員を守り切れません。アイナちゃんも居ますしね。
なのでこうしましょう、少なくとも戦力を分散させて足を止めて、もし勝てれば他の援護に向かう……」
「わ、私も頑張ります……!」
「その意気ですよルシエールちゃん! というわけでヨグス君はボーデンさんと一緒にファスさんの援護を。ルシエールちゃんはわたしとアディシェスへ行きますよ」
「ヴィンシュはクーデリカちゃんとリリスへよろしく!」
「なんで?」
「おっぱいが大きいからです……! 腹立たしいですが、あのおっぱいにはクーデリカちゃんしか対抗できません……!」
「酷い理由!?」
まあ、何度ふられてもラース君を想うクーデリカちゃんのポジティブさならリリスの【不安定】を抑えるのは問題ないでしょう。
『なら私はベルフェゴールね。アイナちゃん、危険な目に合わせてごめんね』
「だいじょうぶー!!」
レガーロさんが変なものに座っている悪魔に狙いをつけて魔法を放ち距離を取っていく。
そこでジャック君が口を開く。
「俺はあのデカブツへ行くぜ。ありゃバチカルだろ? 俺とシャルルで止めておくから……早いところ助けに来てくれよ」
「危険ですよ……?」
<まあ、策がないわけではありませんわ>
「では足止めで。各自、無理はしないよう頼みますよ!」
わたしの合図で散開するのを見届けると、わたしもルシエールちゃんを伴って突っ立っているアディシェスへ目を向ける。
「ではルシエールちゃん、お手伝いをお願いします。なあに、アディシェスは料理で感動するようなやつです。すぐにぶっ殺してやりますよ」
「物騒ですよ……でも、うん。早く終わらせてラース君のところへ戻らないとね! いこ、バスレー先生」
さてさて、悪魔達は意識がないようですが、リースちゃんはなにを考えているのやら……?
おっと、ティグレ先生とリューゼ君は流石ですねえ、こちらも手早くいきますかね。
◆ ◇ ◆
「ベルナ、ティリア。俺から離れるんじゃねえぞ……!」
「もちろんよぅ<アースブレイド>!」
「<ファイヤーボール>! パパとママと一緒なら安心だね! ラース兄ちゃんを助けないと」
我が娘ながら頼もしいことを言うなと顔がにやける。まさか俺が嫁さんをもって子供もできるとは思わなかった。
思えばラースを初めて見た時からあいつの特異性には気づいていて、色々画策して鍛えたものだがそれが今や肩を並べて戦うほどになっているとは面白い人生だ。
ちなみにあれからいくつかクラスを受け持ったが、ラースのいたAクラスほど心が躍る子供達は今のところ存在しない。この顔で笑うと子供は泣くしな。ラース達は胆力があったと思う。
それはともかく、家族で悪魔退治としゃれこむ形だが油断はできねえ。
ガストの町で戦った限り、適当にさばける相手ではないので、ベルナとティリアの魔法で動きを止めているヤツへ、俺は全力で女性型の悪魔へと斬りかかる。
「でりゃぁぁぁ!!」
『……!!』
「スキルがなんだかわからねえが一気にケリをつけりゃ同じことだろ。覚悟しな」
際どい恰好をした女だが俺には色香は通用しない。そして容赦もしないのでカタをつけるために頭を狙って剣を振り下ろす。
しかし、片腕できっちり防御して空いた右腕を俺の腹へ繰り出してきた。
だが、その拳は通さねえと腰のダガーを抜いて腕を突き刺し、怯んだ隙に蹴り飛ばしながら距離を取った。
「今よ、ティリアちゃん!!」
「うん!」
そこでベルナとティリアの魔法が突き刺さり激しく爆発を起こす。これなら多少でもダメージは与えられたはず……そう思っていると、横からリューゼ達の声が聞こえてくる。
「先生、気をつけろ!」
『ヒュゥゥゥ……!!』
「チッ、草原に出て広くなった分、取り留めもねえか!」
俺はリューゼ達が追う悪魔と対峙し、ベルナたちへ向かうヤツに背中に装備していた槍で突きかかると、口でそれを受け止められた。
「リューゼ、やれ!」
「おおう!」
「待って! ティグレ先生が相手をしていたやつが動くわ!」
ナルの視線の先には際どい女悪魔がこちらへ向かってくるのが見え、俺はすぐにリューゼへ目配せをする。
意図はすぐに伝わり、リューゼは槍を咥えた悪魔……一度戦ったことのあるアスモデウスのケツに一撃かますとそのまま女悪魔へと駆け出していく。
ふん、今の教え子もこれくらい融通がきけばいいんだがな。
『ガァァァァァ!!!!』
「言葉も失くしちまったか、ざまぁねえな! てめぇなら手加減しなくていいから助かるぜ」
「足止めを……! <ウォータージェイル>!」
『ギイ、ギ……!!!』
「おらぁぁぁぁ!!」
アスモデウスの四つある頭の内、ヤギの形をしたものに仕掛けると対応できなかったのか側頭部からざっくりと剣が入り血が噴き出る。
奇妙な雄たけびを発し、本体が俺に体当たりを仕掛け、肩口に別の頭が噛みついて来た。
「うぐあ……!? てめぇ!!」
『オオオォォォン!?』
ムカついたのでダガーをこめかみにぶっさしてやった。
肩アーマーが粉々に砕けたので、もし着けていなければ肉ごと持っていかれたかもしれねえな。
「ティグレ!」
「パパー!」
「っと……」
ベルナたちの魔法を避けながら距離を取り悪魔に何度も剣で切りつける。
だが、こいつのスキルは確か攻撃を受ければ受けるほど周りの相手を傷つけるようなものだったはず……それが発動する前に倒さねえと。
すると、アスモデウスに動きがあった――
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