第五百八十七話 それでも僕達は【理解】者であり続ける


 「デダイト殿、武器を捨てるなど!!」

 「これでいいんだ……!」

 『オオオオォオォォ……!』

 「デダイト君ー!」

 「!」


 ノーラの声が聞こえ、僕は気合が入りシェリダーへと掴みかかる。もし考えが正しければ、こいつはこれで――


 「と、止めたでござるか……!? まさか!?」

 『オオ……オォォォォ……』

 「どうだ、シェリダー僕はお前を攻撃しない。そしてここまで近づけば魔法も……撃てる!」

 『オォォォォ……!?』

 「痛ぅ……!?」

 「な、、なんでー……!」


 至近距離、いや、相手の身体に手を置いたままファイヤーボールを放ったので僕の手も多少だが痛みを覚える。


 ファスさんやマキナさんの戦いのことは知っていたからこいつが自分に対して仕掛けてきた攻撃を【拒絶】し、相手を吹き飛ばしたり反撃ができること

 だけどさっきスケルトン達がシェリダーを抑えていたのを見てこいつは攻撃ではなく『敵意』を【拒絶】しているのではないかと思ったのだ。

 

 何故か?


 スケルトン達は蹴散らされはしたが【拒絶】はされなかったから。それゆえに敵意でなければ接敵できると考えた結果だ。

 そして完全に接近すれば剣という分かりやすい『敵意』ではなく魔法なら通用すると思い、それが当たった。


 『オオオオオオオオオオオオォォォォォ……!!』

 「効いている! 僕がここで抑える、オオグレさんは僕ごとこいつを貫いて! あなたほどの腕なら致命傷を避けて攻撃ができるはずだ!」

 「な、なにを……!」

 「だ、ダメだよデダイト君!?」

 「この状態ならトドメを刺せる、早く!」


 僕の叫びにノーラとオオグレが呻くが、これはチャンスなんだ。ラースのように回復魔法が使えるわけじゃないから、あまり至近距離の魔法を撃つと僕の身体が持ちそうにない。倒してしまえば回復ポーションは持ってきているから死にはしないだろう。


 「オ、オラも一緒にー!」

 「馬鹿!? ノーラは下がっているんだ!」

 「嫌だよ、旦那を残してオラだけ生き残るなんて!」


 ノーラが僕の隣に立ち、シェリダーを抑えに回りさらに前進する動きが止まった……と思ったが、自ら動きを止めたことに気づき、僕達は首を傾げる。


 『オマエは……』

 「……?」

 「しゃ、喋ったよ……!?」

 『オマエタチ……は、何故抗う? ラース=アーヴィング……転生者を手に入れようとした神の我儘で我等はお前達を倒すよう命じられた。逃げるという手段もあったはずだ』


 凛とした女性の声で、最初は聞き取りづらかったが徐々にハッキリと、そう言った。

 何故そんなことをと思い、反論しようとしていたところにシェリダーは続ける。


 『……優秀な弟に嫉妬していたことがあるようだな。それでラース=アーヴィングを拒絶していたこともあった。そこの娘を取られまいと』

 「……!?」

 「え、そ、そうなのー!?」


 そういうことも、あった。

 あの時は実力を上げていくラースに嫉妬していたし、ノーラもどっちつかずな感じだったしね。

 恋愛って話は学院に入ってようやくだったし、僕を好きだと言ってくれてホッとしたっけ。

 ラースとは怒りの感情で殴り合いをしたのも初めてだったかな。


 それが――


 「それが今更なんだって言うんだ? 僕はノーラが好きだ。だから取られまいとしようとした。だけど、ラースは弟で家族だ、そんなラースを困らせるお前達を置いて逃げるわけないだろ?」

 「それにマキナちゃんは殺そうとするだろうからねー! 絶対リースちゃんを止めないと!」

 『神に逆らうつもりか。私などより遥かに強く、遊びながらお前達を殺すこともできるのだぞ?』

 「「でもみんなが死ぬのを黙ってみているくらいなら抵抗するよ!」」


 僕達の心を折ろうとしたのかもしれないが逆にやる気が出てきた。

 

 『転生者……中身は他の世界で生きた精神を宿している……そしてラースのせいでこの騒動となっているにも関わらずそれでも助けると?』

 「だからこそ、じゃないか。中身はどうあれ、ラースは母さんから生まれて僕と育った」

 「オラを友達にしてくれて、デダイト君と会わせてくれたんだよラース君は!」

 「前の世界のことなんて知らないし、知る必要もない。ラースはラースなんだから」

 『……』


 一瞬、どこを見ているか分からない目を僕達に向けた後、シェリダーの腕が動く。

 殺気を感じた僕は咄嗟にノーラの前に立つと、左肩が貫かれていた。


 「……ぐっ!?」

 「デダイト君ー!?」

 「むう……! やはり言葉では無理か……!」

 『ならばラースの為に死んでくれるのだな? 神との邂逅。それがラース=アーヴィングの為に――』

 「な、ならない……! 僕はここでお前を止める……! ラースならあいつを……リースをなんとかしてくれる!」

 「オラが相手だよー!」

 『死ぬのが怖くないのか』

 「僕は二歳の頃に……死ぬかもしれなかったらしいよ。両親のおかげで生き延びた。今更、死ぬのが怖いなんて言っていられない。家族の為なら……命をかけられる、そういうもの、だろう……!

 意識を持ったままこっちの世界へ来たんだ、きっと不安もあったろう。虐げられていたのなら猶更だ。だから僕達が支えてやらないで誰がそれをするんだ!」


 痛みと出血ではっきり喋れない。

 だけど、悪魔達が合流するのは避けたいので僕とノーラは必死で止める。オオグレさんがカタナを構えて突撃してくるのが見えたが、シェリダーは口を開く。


 『神を拒絶するか。【拒絶】とは無意識なもの……身体が語る一種の防衛本能と言っていい。だが、目の前に広がる情報を【理解】することで【拒絶】をしなくても良い可能性も、ある。

 お前達は転生者や高い能力を持つラース=アーヴィングを【理解】しているのだな』


 独り言のようにスラスラと言うシェリダー。

 そしてなにかを悟ったかのように頷くと、悪魔の身体が光り出した。


 『面白い。その【理解】最後まで見届けさせてもらおう。クリフォトの悪魔は負の感情。だが、悪には必ず対になる善がある。お前達を【理解】した私が――』

 「な、なんだろこれー!?」

 「デダイト殿! ノーラ殿!」


 背後で聞こえるオオグレさんの方を向こうとしたけど、僕とノーラはシェリダーの出した光に飲み込まれた。


 ラース……後は――

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