第五百八十六話 兄、奮闘
「だあああああ!」
「せいっ!」
『オオオオオオオ……』
ダメか、僕達とオオグレさんの攻撃は触れる直前で見えない力に弾かれ、後一歩が届かない。
『拒絶』というスキルを持っているとウルカ君に聞いて、突っ込んでくるところを引き寄せてダメージを取るという作戦を取っているけど、上手くいかない。
こいつのスキルはこっちの攻撃や敵意を跳ね返すというもので、ファスさんやマキナさんはお互いを攻撃し『敵として認識しない』ように相手をしていたらしいけど、僕達ではそんな紙一重の攻防は難しい。
「くっ、弾かれる……! 僕の腕じゃこの程度ってことか……!」
「違うでござるぞデダイト殿。こやつは今、理性が無い状態。恐らく前の戦い方だけでは通用すまい!」
<流石だな。しかし、ここでは大きくなれんな……どうにか外に誘導できないか? ……ふん!>
ロザがノーラとヘレナさんを守りつつ、飛ばしてくる魔力の塊を返しながらそんなことを言う。
……確かにロザが加われば、四方から攻められるか?
「……よし、オオグレさんは僕と一緒にヤツを引き付けてくれ。ウルカ君はスケルトンを出して攻撃しないよう背後を包囲してもらえるかい!」
「あ、はい! 【霊術】!」
ウルカ君が書物を広げてスキルを使うと、スケルトン軍団が所狭しと登場しシェリダーに威圧をかける。あくまでも「そこに居て歩くだけ」なので『拒絶』はされない。
ただ、攻撃は仕掛けてくるのでバラバラにされる個体も居る。時間が勝負だと、続いてロザにオーダーを出す。
「ロザ、砦の壁を破壊して外に抜けよう! 心苦しいけど倒すためには綺麗ごとは言っていられない。ノーラ、ヘレナさんは自分の身を優先に守って!」
『オォォォ……!』
<承知した! ノーラ、ヘレナ、私に続け>
「わかったわぁ」
「任せてー! <ファイアアロー>」
ロザは壁に向くと抉るように拳を突き出して壁を破壊し始め、ノーラとヘレナさんは無差別に飛んでくる魔力の塊を打ち払う。
向こうはこれで耐えてもらうとして、問題はこっちだ。
「オオグレさん、僕がこいつを抑えます。僕を敵として攻撃できませんか?」
「むう、紙一重でござるぞ……!」
「なんとか避けて見せます!」
「その覚悟、無駄にはできぬな」
『オォォォォ!』
下がりながらの防戦一方だった僕だけど、ロザが壁を破壊するまでの時間は稼ぐ必要がある。
大剣を振りかぶり、シェリダーの一撃を受ける。
「くっ……!」
重い一撃を受け、僕は踏ん張っていたにも関わらず滑るように後退させられる。
これじゃダメだ、オオグレさんの攻撃できる隙が無い。
ならば、と確実に足止めをするため、さらに力を込めた攻撃を仕掛けた。
「う、おおおお……!」
『グォォォォ……!』
「むう、悪魔を止めるとは。修行の成果、出ておりますな。では拙者も――」
オオグレさんが僕の後ろに回り込み異国の武器、カタナで後頭部を狙う。
それはフェイクで、僕が少し頭を動かすと切っ先が悪魔の喉を直撃した。今のは攻撃と見なせなかったようだ。
『グァオゥ……!?』
「こいつ!」
大剣で押すと悪魔はたたらを踏んで後退したので構えを解かずに立ちはだかる。代償は頬に切り傷ができたことくらいで済んだけど、オオグレさんの殺気は本物だった。
「ロザ、まだかい!」
<もうすぐだ!>
「ここで食い止めますぞデダイト殿!」
オオグレさんの言葉に頷き再び前へと出る。だけど、ダメージを与える手段が乏しいためこっちの疲労とダメージの方が大きい。
「はあ……はあ……!」
<はあああああああ!>
「デダイト君、外に出られるよー!」
「よ、よし……! ノーラ達は先に行ってくれ! ロザはドラゴンになっておいて!」
<分かった! む、ヘレナはどうした?>
「あ、あれ!? いないよー!?」
気づけばヘレナさんがこの場から消えていた。逃げた……というわけではないと思うけど、一人で大丈夫だろうか……?
『オォォォォオオオオ!! 【拒絶】【拒絶】【拒絶ゥゥゥゥゥ】!!』
「う、わ……!?」
「デダイトさん! うわ!? スケルトン達、僕達を――」
全身を震わせながら【拒絶】を連呼し、僕達を吹き飛ばしてくる悪魔シェリダー。ウルカ君が逆に吹き飛ばされながらなにかを叫んでいたが、最後まで聞こえず暗闇の中へ消えて行った。
僕はというとスケルトン達がクッションになってくれ擦り傷だけで済んだ。
他のスケルトン達は僕とオオグレさんへ悪魔を近づけまいと必死で抑えてくれていたようだ。
だが、お構いなしにこちらへ突っ込んでくる。
「……? こいつ……」
「どうなされた?」
「あ、いや、ちょっと気になることがあって。さて、それはそれとして、どうやって倒そうかな……」
「やはりファス殿とマキナ殿の戦法が一番いい気がするでござるが……」
倒すには一撃、確実なものが欲しい……でも僕の腕じゃ魔法も剣も中途半端……。
だけどさっき気になった状況、アレが『そうである』なら勝ち目は……ある!
「……オオグレさん、僕が先行します。ヤツが動きを止めたらカタナで攻撃をしてもらえませんか?」
「なにか策が……? 承知した。拙者はウルカを追わねばならん、早く始末をつけましょうぞ」
「それじゃ行きます……!」
僕はそう言って全力で駆け出した。
蹴散らされるスケルトン達を飛び越えて悪魔へ迫る。
『オォォォォオオオオン……!!』
「行くぞ……!!」
目の前に迫ったところで僕は手に持っていた大剣をその場に捨てた。
「デダイト殿ぉ!?」
「うおおおおお!」
背後で驚愕の声を上げるオオグレさん。
だけどこれでいい、恐らくこいつの【拒絶】は――
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