第五百八十四話 狂気の舞台
『ハァァァァ!』
「こいつは……アスモデウスか!」
「ラース、そいつとは一度戦っている俺に任せろ! いいな、ナル!」
「ええ!」
飛び出して来たのは好戦的だったと言われている【残酷】のスキルを持つアスモデウス。
賢二から取り出した悪魔の力を本当に具現化したらしく、初戦闘となる蠅の悪魔であるベルゼブブに、アスタロト、ずいぶんきわどい衣装をしているのは【色欲】のバアルか?
そんな全七種類の悪魔が所狭しと出現し、大立ち回りとなるが――
「いけー!」
『ちょっとアイナちゃん、暴れないで!? 隅に行くわよ……!』
『シャッ!』
「っと、当たらないわよ。こいつってリリス……? でも今は攻撃するしか! ハッ! やぁぁぁぁ!」
「マキナ、手伝うぞ! ……おう!?」
「師匠!? あいた!?」
「もう少し向こうにいけませんか?」
「チッ、ベルナも来てたのかよ」
「セフィロちゃんを追って来たのよぅ。……まさかこんな場面に出くわすとは思わなかったけどねぇ」
「違いない。援護頼むぜ」
「狭いから当てちゃうかも?」
「いざとなりゃそれでいい!」
――とにかく狭い。
風通しが良くなったとはいえ、ファスさんやルシエール達も来たこの人数で訓練場はさすがにオーバーだ。
悪魔など2メートルくらいからスタートみたいな大きさなのでなおのことだ。
リースに近づきたいがこれでは前へ出ることも難しい……!
ドラゴニックブレイズをぶっ放しても【拒絶】を使われたら一気に全滅しそうなので迂闊なこともできない。どうするか考えていたところで、ルシエール達と一緒にいたジャックが声をあげた。
「うお!? あぶねっ!?」
<ジャック!? この……醜悪な者達がわたくしの夫になにをするのかしらね……!>
「あ、馬鹿ここで戻ったら――」
ジャックの言葉は最後まで通らず、一瞬でドラゴンの姿に戻ったシャルルが、魔力弾を放ってきたベルゼブブに掴みかかっていた。
「「「うおおおお!?」」」
「きゃあああ!?」
「サージュ達ドラゴンはみんなを!」
<任せておけ!>
「ついでに外で決着をつけるぞ、ジレ悪魔達をぶっ飛ばしてくれ!」
<おお!!>
シャルルが暴れた直後、俺と賢二の戦いで疲弊していた床や壁が限界を迎えて崩落が始まった。
落ちるマキナ達はサージュとロザにヴィンシュがドラゴンへと変化してことなきを得る。
だが、悪魔達も同時に落ちて行ったので、そのまま各自戦闘へと移行すのが見えた。
そんなマキナ達を心配しつつリースへ目を向けると、宙に浮いたリースが笑みを浮かべて口を開く。
『くく、広くなったほうがやりやすくなるけど、悪魔達も力を発揮しやすい。どう戦うかな?』
「お前を倒せば済むことだ。<ファイヤーボール>!」
『おっと』
「ぎゃあああああああ!? あ、兄貴ぃ……」
『ありゃ、悪魔の力をはぎ取ったから人間に戻ったんだった。いや、ごめんごめん』
俺はレビテーションで浮き攻撃を試みるが、まだ手に持っていた賢二を盾にしてファイヤーボールを防ぐリース。賢二も限界のようで胸のあたりで爆発した瞬間、ぐるりと白目を剥いてガクリとなり辛うじて残った床に倒れこむ。
『ま、これでラース君の復讐も終わりってことでいいかな』
「リース……!!」
『いやいや、賢二君は酷いと思うけどね?』
「それは否定しないが、それは操り人形にしたお前が言うことじゃない」
俺がそう言うと、リースはニヤリと笑い眼鏡を光らせる。
『……落下したみんなの後を追わないのかい? 愛するマキナ達が悪魔にやられるかもしれないのに』
「みんなを信じているからな。……それに、俺が背を向けたらあの魔法を撃つつもりだろう?」
『さすが、ボクのことをよく分かっているね! いきなり<アークレイ>!』
「!? <ドラゴニックブレイズ>!」
いきなり虹色の光線を下に向かって放ち、慌ててドラゴニックブレイズで迎撃した。だが、威力が先ほどよりも強くて打ち消すことができず、方向を変えるだけだった。
『さすがはボクのラース君。5割の威力とはいえ曲げるとはね』
「あれで……!?」
『さて、それはともかくこれでラース君はボクの前から動くことができなくなったね? マキナ達が負けたらどうする? どういう形でもボクと一緒になってくれるならやめてあげるんだけど』
「断るよ、どうせ負けない」
はっきりと答えてやると、口元の笑みは崩さずに目を細めて口を開く。その手にはいつの間にか注射器が握られていた。
『まあ、最終手段ももちろんある。このあたりでいいかな?』
「……!?」
「は? あ、あれ?」
気づけばこの砦に従事していた兵士がリースの前に突如現れ、俺は息を飲む。転移魔法だと思うが、なにをどうやったのか全く分からなかったからだ。
「おお、ラース様ではありませんか! 一体ここは――」
『ぷすっ♪』
「ああ!? ……ぐ、ぎご、がが……ああががああが!?」
『ふむ、まだまだ使えるね』
注射を首筋に打たれた兵士はあっという間にオーガの姿へと変貌していく。
その光景は以前、ルシエール達が誘拐された時に出会った冒険者達と同じだった。
「お前……!」
『おっと動くなよラース君。ボクはこの薬を世界中にばらまくことができる。君の両親も、国王も、子供もなにもかもを魔物に変えることがね。折角だし、少し話でもしようじゃないか。彼らの戦いもすぐにケリがつくだろうし、ね』
「……」
軽くウインクをしてくるリースに対し、俺は苛立ちと焦りが胸中にあった。
どう転んでもリースが有利。
だけどこうやって考える時間ができたことは僥倖かもしれないとリースの語りにしばらく耳を傾けることにした。マキナ……みんな、そっちは頼むぞ。
そしてリースは語り出す。俺のことや自身のことについて――
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