第五百八十一話 人生の在り方とは
『がっ……!? あの距離を一瞬で、だと……!』
「はあ……はあ……」
「ラ、ラース……」
賢二の上半身がずるりと崩れる時、腕が上を向いたので不完全なドラゴニックブレイズは天井を破壊する。それなりの崩落だったが、そこはウチの仲間たちなので特に問題なく回避していたりする。
爆発的にレビテーションで魔力を使ったので肩で息をしながら俺は転がった賢二に告げる。
「……今度こそ終わりだ。その姿になっても即死しないところを見ると本当に悪魔と同じ体になったんだな」
『クソ兄貴が……見下ろすんじゃねえ! それは俺がやることだろうがぁぁぁぁ!!』
「兄貴? ラースが? というかアポスと戦っていたんじゃないの」
「こいつがアポスだよマキナ。『賢者の魂』で若返り、悪魔を犠牲にして人間を止めた福音の降臨の教主だ」
俺がそう言うと、なぜいるのか分からないバスレー先生がスッと現れて背負っていた女性を横たえてからこちらに視線を向けた。
「……なるほど、十神者の彼女が急に苦しんで倒れたのはそのせいですか。もう一人、置いて来ましたが男性も居ましたね」
「キムラヌートか。多分、中に入っていた悪魔は全員こいつの中だ」
「そんな技も持っていたのね。でも、流石にこうなったら戦えないし目的は達成かしら」
『クソ女が、喜ぶんじゃ……ねぇ……ごぼ……』
「喋るな。とりあえずくっつけたら回復魔法でなんとか生存くらいはできるかな?」
『兄貴の……ほどこしは、うけねえ……』
強がる賢二に呆れつつ、下半身とくっつけてからヒーリングを使っていると母さんがアイナを連れて近づいてきた。
『いいの? また悪さをするかもしれないわよ』
「わよー!」
「まあ……こんなのでも元は弟だったしな」
「さっきからラースのことを兄貴だって言っているけど、どうしてなんだい?」
「ああ、兄さん。それは後で話すとして……先にバスレー先生を含めてなんでここにいるのか聞きたいんだけど……」
「そうだね、先にお互いの状況を話した方が良さそうだ」
兄さんが頷いてここに来た経緯を説明してくれ、国王様が俺達の支援としてよこしたことが判明し驚く俺やマキナ。……どうもさっきから視線を反らすあたり、ヘレナが噛んでいる気がするな……。
そしてこっちからはアイナとボーデンの状況を説明。
正直、これについては俺の脇が甘かったとしか言えないのでアイナの頭を撫でながら謝っておいた。
そうなると次に注目されるのはもちろん――
「とりあえずこの人は誰なの? アイナちゃんとボーデンさんは分かるけど」
『ラースの母です』
――にっこりと微笑む母さんに、バスレー先生が指をさして抗議の声を上げた。
「さらりと嘘をつきましたね!? さてはアポスの手先……!」
『相変わらずねえバスレーは』
「……って、その声はまさかレガーロさんではありませんか……?」
「え!? ラースとバスレー先生が言っていた悪魔? でもラースのお母さんはマリアンヌ様だよね」
クーデリカが飛びあがって驚き、すぐに唇に指を当てて首を傾げていた。
すると母さんは俺にウインクをしながら皆に説明を始める。
『ラースの前世である人間の母親なんですよ。辛い目にあった彼がこの世界では幸せに生きられるように願った結果、こうして仮の命で見守ることができるようになった者です。バスレーのおかげで学院では少しずつ成長していく姿を見ることができてとても嬉しかったですよ』
「ほ、本当に……?」
『そうですよマキナちゃん。英雄……ラースと一緒に居てくれてありがとう』
「そ、そんな、当然です! 好きなんですから……!!」
マキナが背筋を伸ばしてしどろもどろに答えるのがおかしくてみんなで笑う。顔を赤くして口を尖らせた彼女が俺の背中に隠れる。
しかし、治療をしている賢二がなにかしでかさないように一旦その場を離れておくことにする。
「とりあえずアポスは捕えたってことでようやく福音の降臨との因縁が終わりましたね。見た感じラース君の圧勝ですか?」
『お、俺はまだ負けてねえ! 【天才】が兄貴みたいな平凡なヤツに負けるはずはねえんだ……!』
「そういえばあなたはラースを兄貴と呼んでいるけど、僕の弟があなたの兄であるはずが……いや、まさか……」
察しのいい兄さんがハッとして俺を見たので小さく頷くと理解したらしい。
「……ラースの前世の弟、ってことか……」
『まあ義理だけどね、デダイト君。良いラースの兄で居てくれてありがとうね』
「い、いや、それは当然……でも喧嘩したことありますし……」
『ノーラちゃんはノーラちゃんだったからねえ……』
「なになにー! オラなんかしたー!?」
「なんでもないよ。ノーラはそのままでいい。……ぷっ」
「えー! ラース君なんで笑うのー!」
俺がヒーリングを終えて笑うと、賢二が物凄く嫌な顔で俺を見て呟く。
『てめぇ……こっちに来て随分いい思いをしているみてえだな……クソが、俺はこんなことをしているって言うのによ……』
「それは違うぞ賢二。俺だって最初からこうだったわけじゃない。まあ両親と兄さんは優しかったけど、学院に入ったらリューゼにやっかまれたり、レッツェルと殺し合いをしたりトラブルは多かった」
「ルシエールちゃんの誘拐事件とかもあったねー」
「それアタシ知らないんだけど……」
「大変だったんだよ、ルシエラちゃんが死ぬところだったし」
目の前でノーラやヘレナ。クーデリカが振り返っているのを尻目に、俺は賢二に話を続ける。
それは恐らく、人生において基本的で大切なことを。
「環境がどうあっても、自分の過ごしやすいようにするなら相応の努力が必要だと俺は思う。お前は王になりたかった。でもなれなかった。だけど、それに至る道はあったはずなんだ。お前の性格は前のまま……わがままで自分勝手な人間を王に据えるわけがない」
向こうの世界ならコネや年功序列が考えられるし、他の人間がフォローすれば会社程度なら成り立つが、王のように国民のことを考えないといけない地位に自分勝手な人間がなったらどうなるか?
なので当時の王は自分の息子ではなく、現王を選んだのだ。
俺はそのことを分かるように告げてやった。
「……他人に優しくしろとは言わないが、他人をアテにした生き方は良くない。俺が居なくなって働いて……両親を殺して、なにも残らなかった今なら理解できるだろ?」
『……』
「せめて来世ではまっとうに生きてくれよ?」
俺の言葉に、賢二はギクリとして目を見開く。
『こ、殺すのか、俺を!? 今、治療したのはなんでだ!?』
「え? そりゃあ罪を裁いてもらわないといけないからだな。まあ、極刑になりそうだけど……これも自業自得だ」
「うわあ、シビアねえ……」
「悪いことは許せないのと、きっちりカタをつけるタイプだからねラースは」
「そうね。じゃなきゃ、私達は恋人レース、もうちょっと楽だったと思うもの」
そう言って笑うマキナ達を見て賢二はぽつりと漏らす。
『……兄貴は、変わったんだな……以前のあんたなら、気を使って俺をかばった……ハズだ……』
「そうだな。この世界で俺は変われた。お前の知っている『三門 英雄』はもう居ない。俺はラース=アーヴィングだからな」
『くく……くはははは! なるほど、確かにあんたは変わったかもしれねえな。あの気を使うような、おどおどしたイラつく目じゃあねえ。……ふん、癪だが極刑でもなんでも受けてやるよ。俺の、負けだ……』
「賢二……」
諦めたような、吹っきれた顔をしてそう言った瞬間――
「いやあ、流石はボクのラース君! 見事、前世の因縁を打ち負かしたねえ! それでこそボクに相応しい!」
「リース?」
――拍手をしながらリースが笑いながら口を開いていた。
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