第五百八十話 天才、その意味
『<ファイヤーボール>!』
「はぁぁぁ!!」
『こ、いつ!? 剣で弾き返しただと!? ならば<ドラゴニックブレイズ>で――』
「<ドラゴニックブレイズ>!」
「ひゃあ!?」
<ワシの背後へ隠れておくのだ>
『ありがとうございます、ボーデンさん。それにしてもこれは……ここまで変わるとは思いませんでした』
俺と賢二の戦いはほぼ同格……いや、恐らく俺の方がやや能力が上だろう。
悪魔の力である【残酷】で俺から受けた傷を攻撃力に変え、【不安定】で魔力を底上げしているが全力で反撃すれば確実に押し返せていた。
『馬鹿な……!? こっちは七体の悪魔を宿しているんだぞ!? 【愚鈍】ならどうだ』
「む……!」
『動きが緩慢になったな! この手で首を……!』
【愚鈍】はエーイーリーのスキルだな、こんな能力だったとは。【拒絶】とセットで襲い掛かられたらちょっと面倒な感じがする。
そんな俺の動きが鈍くなったのを見て、右手に魔力の剣を生成して首を狙ってくる賢二。
確かに少し身体が重くなったように感じたが、俺は昔から相手の動きが遅く見える能力があるのでこれで対等の動きと言える。
「遅い……! ドラゴンファング!」
左右からのフェイントを含んだ技を繰り出し、賢二の腕に傷をつける。
この速度ですらついてこれないなら、リューゼの一撃やあまり戦わない兄さんの攻撃でも当たるだろうな。
『ぐっ!? まだだ……! 【貪欲】で力を、もっと……!』
「おっと!」
すぐにドラゴンファングを【天才】のスキルで吸収し反撃をしてくる。
だが、元々俺の考案した技なので『それっぽい』動き程度の剣を通させるほど甘くはない。
<能力は高い……だが、使用者の練度がのう……>
『ええ。これが彼の限界でしょう』
「ラース兄ちゃん強いー!!」
ボーデンと母さんが勝負あったといった感じで俺達の攻防について呟く。
流石と言うべきか母さんは賢二の特性に気づいたようだ。
俺は賢二を弾き飛ばして事実を告げる。
「諦めろ賢二、お前は俺に勝つことはできない。手合わせをすればそれが分かるんだ」
『チィ……馬鹿なことを……! あの頃なに一つ俺に勝てなかったお前が!』
「確かにあの頃は両親のせいで気づけなかったけど今なら分かる。お前は間違いなく【天才】だ。見ただけでドラゴニックブレイズを習得し、今も俺の技を模倣した。だけど――」
『……!?』
俺はファイヤーボールを低速で飛ばし、視線をそちらに向けさせた後、レビテーションで飛び上がると上から剣を振り下ろす。
咄嗟に避けられ、狙った肩口ではなく胸板を斜めに切り裂いていく。
『あが!?』
「……お前の凄いところは初見で色々なものを習得することができることだ。前世にはスキルは無かったがそれが出来ていたのは素直に凄いことだ。だけどそれが足かせになってもいたんだな」
『黙れ……!!』
痛みで呻きながら魔力剣を振り回してくる賢二。
だが、すでに剣筋は見切っているので避けながら言葉を続ける。
「なんでも出来る反面、出来たことに対しては興味を失いそれを昇華しようとはしないのがお前の癖だ。例えばゲームで俺に勝ったとして、それ以降練習したりはしなかったろ? 多分、今なら勝てる気がするよ」
『黙れ!』
「ああ、次やった時に負けたくないから急に俺と遊ぶのを止めたのか?」
『黙れってんだよ!! この距離ならどうだ<ドラゴニックブレイズ>!』
「……」
手をかざした瞬間、俺は身をかがめて射線を外してそのまま後ろへ回り込んで背中を殴りつける。
「【キングストレート】!」
『ぐあああああ!?』
覚えたスキルの一つキングストレートを使うと背中がボグンとへこみ、吹き飛んで壁にぶつかり膝をついて血を吐いた。
『お、おかしいだろ……兄貴にここまでやられるはずは……若返って力もついた……悪魔だって取り込んだのに……』
「当たり前だ、一朝一夕で得た力が積み重ねてきた力に勝てるわけが無いだろ。勉強なら話は別だけど、魔法や剣、戦う力については経験が一番大事なんだ。お前がこの世界で何十年生きてきたか知らないが、俺は5歳のころから研鑽を怠ったことは無い。
……それについては前世で虐げられていたことに感謝かもしれないな。上手くできなければ、俺がやらなきゃってずっと思って頑張って来た」
『くっ……』
剣を構えて賢二を見据えると、今度は母さんが口を開く。
『賢二君、あなたは自分を天才だと言っていたわね? それでもらったスキルも【天才】だった。でも勘違いしているわ。天才というのは閃きや技能が確かに凄いけど、それはスタートが少し前というだけで何の努力もしない人が、ずっと努力をし続けている英雄に勝てる道理はないわ』
『なら前世の時はなんでこいつはあんなにダメだったんだ! 俺が勝っていただろう!』
賢二は母さんの言葉に激昂する。
だが――
『あれはあなた達の家族が英雄を下に見ていたから。ちょっとだけあなたの方が成績が良かったけど実際にはそれほど変わらず、体力的にもほとんど一緒。テストなら100点と99点、かけっこなら1位か2位かという僅差だったはずよ? ただあなたは『結果として勝っていた』だけ。その証拠に英雄が死んだあと、賢二君は会社に行くことも、お金を稼ぐこともできなかった。おかしいわね、英雄は毎月家に30万を渡すことができていたのに』
『う……ぐ……』
痛いところをつかれて呻いるな。そう、あの『両親』に蔑まれて俺は出来ないヤツだと思い込んでいたが、実のところそこまで能力に差は無かったのだ。
子供の頃からの洗脳ってやつだろうか? そのせいで俺は周りが全く見えなくなったからな……。
『クソが……このまま終われるか……』
「いいだろう、決着をつけるぞ賢二」
それでも戦意を喪失しないのはプライドの為せる業か。口で言っても分からないなら、こいつを止めるには叩きのめすしかない。
そう判断し剣を片手で持ち直し、いつでも全力で魔法を撃てるように自然体で立つ。
――次で決まる、そう思った瞬間……
「ラース、無事!」
「ラース君! うわ、壁が崩れてる!?」
「助けに来たよ!」
「マキナにクーデリカ! ……って、なんで兄さんがいるの!?」
マキナ達が駆けつけて来てくれた!
すると賢二は口の端を曲げてマキナ達に手を向け、魔法を使おうと口を開く。あれは……マズイ……!!
『くく……! 勝てないならせめて兄貴の大事なものを消してやる……! <ドラゴニック――>』
『いけない! マキナちゃん達、避けて!』
「おねえちゃんー!!」
「え!? だ、誰です!? アイナちゃん!?」
「しまった、これじゃ避けられない……!」
兄さんの焦る声が聞こえ、よく見るとノーラとヘレナも居ることに気づいた俺の身体は引き寄せられるように駆け出していた。
身体が軽い。
レビテーションの応用と俺の身体能力を限界まで引き上げた結果――
「賢二ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
『<――ブレ>……イズ……!?』
――最後まで言わせることなく、下腹部から斬り上げた剣が賢二を真っ二つにしていた。
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