第五百七十九話 悪魔的な天才は
『これは……』
「なんか金ぴかだね?」
母さんと、抱っこされているアイナがポツリと呟くのを横で聞きながらオートプロテクションを展開する俺。
攻め込むべきか? 賢者の石が起こす事象がどういったものをもたらすのかが不明なのが歯がゆいが……やるしかないか。
「ボーデン、母さんとアイナを頼む!」
<うむ! ……え? 母? 誰が?>
「ラース兄ちゃんいけえ!!」
困惑するボーデンには答えず、俺はサージュブレイドで光る賢二の腕を切り落とすため全力で振る。
だがその一撃は薄皮にすら届かずはじき返され、片膝をついたまま滑るように後ろへ下がることになった。
直後、輝きを増した賢二から目を庇うように腕を上げて片目を瞑ると目の前が真っ白に染まる――
「くっ……一体なにが……? ハッ!?」
殺気を感じてその場から身を翻して離れた瞬間に地面になにかが着弾してえぐり取られる。
今までと違い収束した魔力が飛んできた……さながらレーザー光線のような感じかと思いながら賢二の方へ目を向けると、そこには目を見張る光景が、あった。
「賢二……お前……」
『チッ、外したか。威力は十分だったと思うんだがな?』
<なんと……あれではもはや……>
『人間じゃ、ないわね……』
ボーデンと母さんがそう口にする。
そう、蝙蝠のような羽に浅黒い肌に長く伸びた爪といった容姿に変化した賢二は、もはや人間とは呼べないモノへと変わり果てていた。
『く、くく……これはいいな……気分がいいぞ兄貴! クリフォトの悪魔の力が脳に浮かんでくるぞ! 力がみなぎってくる……!!』
<ラース!>
「分かってる!」
視界から賢二が消えボーデンが叫ぶ。
右に移動した賢二を感覚と気配だけで特定し、右側に剣を振る。
『くく、よく避けたな! そらぁ!』
「はああああ!!」
硬質化した拳が鋭い角度と速度で繰り出され、俺はそれを剣で弾く。先ほどまでとは違い確かに能力が飛躍したようで受ける一撃は重い。
ただ、劇的に変化したとはいいがた――
『なるほど、こうか? 【拒絶】』
「な……!? ぐ……!?」
激しい攻防のさなかに左手を広げて呟く賢二。
それはガストの町で戦ったシェリダー……ルキフグスのスキルだった。俺は大きく吹き飛ばされて壁に叩きつけられ呻く。
オートプロテクションは発動しているが、壁に叩きつけられるといった攻撃ではないものには効果が無い。
そんなことを考えていると目の前に賢二が口を歪めて拳を振り下ろしてくるのが見えたので俺は咄嗟に剣を突き出す。
『くく……いてぇな兄貴……!』
「ぐあ……!?」
『英雄!!』
「<ファイヤーボール>!」
『チッ……』
「ラース兄ちゃん!! うう、アイナも戦う!」
『ダメよ』
なんだ? 今の一撃はさっきまでと違い明らかに威力が上がっていたぞ? それにさっきのスキル……。
ヒーリングで切り裂かれた腕を治療しながら血を吐くと賢二が片手を上げて話し出す。
『なんで悪魔の力を……って顔をしているな? その通り、俺は呼び出した悪魔のスキルをすべて使える』
「賢者の魂の力か?」
『そうだな。……元々、こいつらを呼び出した時に保険で俺が殺す、いわばスイッチのような術を組んでいてな。裏切れば強制排除ができて、魔力を俺に転換することができるように』
「死ぬか殺すかすればお前の力になるってことか」
『そうだ。ただ、スキルは回収できないようだったからあくまでも魔力強化のみ。それなら手駒を減らさずに使った方が優位に立てるからな』
やろうと思えばいつでも消せたと笑う賢二は頭を指で突きながらさらに続ける。
『だが、賢者の魂を飲み込んで力を欲した瞬間に頭ん中で閃いた。悪魔のスキルを全て使えるようにならないか、ってな。そうしたらどうだ、先に死んだ三人の悪魔の力を使えるようになった』
「……それで【拒絶】か」
『他にもあるぞ? 先ほど俺を傷つけた時に攻撃力が上がったろう? あれは【残酷】。アスモデウスのスキルだ』
リューゼやバスレー先生が戦っていたヤツか……俺は話で聞いていただけだが厄介なスキルだな。できれば一撃で首でも刎ねない限り強くなり続ける。
「だけど倒されているのは三人だ。リリスやバチカルは――」
『ふん、だから言っただろうが、俺はあいつらをいつでも殺すことができる。故に、全員すでにくたばっているぜ!!』
「やっぱりか。本当にお前は、文字通り悪魔に魂を売り渡したんだな……」
『怖いか? 悪魔どもの記憶を覗いてみたが、なるほど苦戦をしていたようだ。仲間が数人倒したみたいだが、その力を全部持っている俺に勝てるかな! ひゃはぁぁぁ!! ……死ね、クソ兄貴』
『英雄! 構えなさい!』
俺に向かって駆け出す賢二を見て母さんが焦ったように叫ぶ。だけど俺は逆に冷静に見据えていた。
――思い出すのは前世での生活。
さっき知った義理の両親と賢二。
俺の世界はそこだけだった。
学校や会社に友人が居ても肉親には好かれていない自分。
常に蔑まされて侮蔑の言葉を投げかけられる俺。
小さいころから、物心つく前からそう育てられた人間は他人ではなく、親兄弟に認められたいと縋る。
それが異常であっても、追わずにはいられないのだ。反抗期があれば少しは変わったのかもしれないが、親に見捨てられて一人になるのが怖かった。なにせ肉親に好かれないのだ、他人を頼れるとも思えない。
……思えば閉じこもっていたのは俺の弱い心が招いた悪循環だったと今なら理解できる。
世界は歩み寄りさえすれば誰かが認めてくれ、受け入れてくれるのだ、と――
『諦めたか? 【貪欲】で全てお前の力を奪い、女を奪い、世界を奪ってやる!!』
「そんなことはできやしない! お前にはなにも掴めない……お前がお前である限り!!」
『な、にぃぃぃぃぃ!?』
鈍く光る伸びた爪を最小限の動きで回避し、かがみこんだ体勢から両手でサージュブレイドを胸に斬りつけてやると真っ赤な鮮血がほとばしる。
殴りつけて後退した賢二に踏み込み、横薙ぎ、切り上げと剣技を繰り出していく。
『なんだ……!? 今、少し奪い取ったのに、押されているだと……! こいつ、悪魔のスキルが怖くないのか!!』
「……っ!」
俺の剣が肩に突き刺さると同時に賢二の拳が俺の頬に刺さり視界が歪む。だが、視線は逸らさず、拳を受けたまま口を開く。
「怖いわけがあるか。所詮お前は他人の力をアテにしてばかりで自分でなにかをすると決めたことも無ければ成したことも無い。相手の揚げ足取りで優越感に浸っていただけで真面目に取り組まないお前を、誰が怖がる?」
『ぐ……!? お、押し返される!? 【拒絶】を――』
賢二が慌てて距離を取ろうとするが、俺はマキナとファスさんの戦法を使い逆に引き寄せる。額がくっつくほどの距離になり、真正面から見据えて、俺は告げる。
「お前はここで終わりだ、賢二! なにが天才だ、最初にできたからというだけで全てを悟った気になるんじゃない!!」
『こ、こいつ……! 知った風なことをぉぉぉぉ!! てめぇは俺を羨んで生きて行けばいいんだよ!!』
怪我をさせたせいか攻撃が強く、速い。だけど、負ける気は一切しなかった。
後は……!!
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