第五百七十八話 十神者、全滅


 「この振動……いったいなにが……」

 「こ、これ、ラース君がいる訓練場の付近じゃないかな……!? だ、大丈夫かなあ……」

 <むう、救援に行かねば……そろそろ避難は済んだろう、我だけでも――>


 私達の先導で兵士や騎士達がサージュの言う通り少なくなってきたので、そろそろラースの援護へ……というのは考えていた。


 エリュシュ王女という権威もありかなり迅速な動きで撤収できているので、私達が後続を務めなくても問題ないはず。ラースは一人で決着をつけたいって言ってたけど、どうしてかしら……?


 そこへ十神者の一人、キムラヌートが近づいてきて口を開く。


 『砦の東側は誰も居ない。残りは西側だけだな』

 「ありがとう。エリュシュ王女は?」

 <私が外へ連れ出しておいた。このままラースの下へ向かえるぞ>

 「うん! 行こうマキナちゃん!」

 

 クーデリカの言葉に頷いて向かおうとしたところで、リースが廊下の奥を見ながら私の袖を引いて大声を上げた。


 「お、おい、あれってラース君のお兄さんじゃないか!?」

 「え? そんなはずは無いわよ、ガストの町でノーラとお留守番をしているんだもの――」

 「こんばんは! 一家に一人、バスレーちゃんですよぉぉぉ!!」

 「ええええ!?」


 顔の下からライティングの魔法で照らし、ゴーストみたいな顔でバスレー先生が迫って来た。デダイトさんよりも遠い王都に居るはずなのに……そう思っていると、リースの言う通り後ろからデダイトさんどころかノーラとヘレナ、それと……


 「誰?」

 『うむ。私は――』

 「十神者の一人で【無感動】の――」

 『アディシェスか』

 「なんで言うんですか!? わたしが言うところでしょう!」

 『なんだこの女……』

 『いや、それ言ったら自分で自己紹介すべきだと思うのだけど?』


 バスレー先生のせいで一気に場がうるさくなってしまい、混乱する。とりあえず知らない人は十神者であることが分かったので、私はデダイトさんに近づいていく。


 「どうしたんですかデダイトさん。それにノーラにヘレナも……よく見たらラディナとシュナイダーも居るじゃない!?」

 「うぉふ!!」

 「ぐるう♪」

 「くおーん、くおーん♪」

 「よしよし、ホントどうしちゃったのよ」


 アッシュは母親と会えて大はしゃぎ。

 私を見て足元をぐるぐる回るシュナイダーの頭を撫でていると、真面目な顔でデダイトさんが話し出した。

 

 「陛下からみんなのバックアップのためという命を受けたヘレナさんとバスレー先生が僕達に声をかけてきたんだ。ラースも心配だったし、ガストの町は転移魔法陣があるから僕達が居なくてもなんとかなる。それでラースは?」

 「あ、今は一人で教主と戦っています」

 「ひゃあ!? す、すごい振動だよー」

 「とりあえず早く行かないとだめねぇ」


 ヘレナがそういった瞬間――


 『うが……!? ぐ、ぐぐ……』

 「おう、なんですか……ちょっと肩を押しただけじゃないですか……って、ただ事じゃありませんね」

 『くっ……遅かったか……バ……スレー……どうやら我々十神者は……ここまでのようだ……』

 「どういうことです?」

 『私達がこの世界に存在できるのは召喚主の……アポス、だ。ヤツが、私達を排除しようとしているのよ……悪魔の力を手に入れることができるみたいなことを言っていたけど、これが恐らく……最終手段……』


 アディシェスと呼ばれていた女性が膝をつきながら苦し気に私達へ告げ、いよいよ倒れこんだキムラヌートが口を開く。


 『い、行け……俺達以外の力も手に入れたなら、強力になっている……はずだ……』

 『バスレー……私達の身体は、あなたの知り合いに返す……後は――』

 「……はい。任せてください、短い間でしたけど楽しかったですよ」

 『フッ……感動したわ』

 

 そこで十神者の二人はぷっつりと糸が切れたように動かなくなった。

 バスレー先生は首を振って立ち上がると、私達へ言う。


 「ラース君が心配です。場所は分かっていますか?」

 「ああ、私が案内しよう。それにしても悪魔の力を吸収……か、興味深い話だな」


 リースが眼鏡を指で上げながらぶつぶつと呟きながら先頭を歩き始め、私達もその後を追う。


 「砦の人を逃がしているんだ。ということはベリアース王国は福音の降臨を捨てるってことかな」

 「ええ。王女様がご両親に働きかけてくれるそうです。イルファンとの戦争で、アポスが敵味方関係ないといった戦い方も問題ありましたから、兵士も不信感を持っていたかと」

 「とんでもない人だねー……。ラース君大丈夫かなー」

 「急ごう、いくら強くてもサージュやロザ、僕達も居る。簡単には負けないよ」


 デダイトさんがノーラの頭に手を置いた後、大剣を握り直してバスレー先生に並び、ヘレナが私達のところへやってきた。


 「さあて、Aクラスの面々がいっぱいだし、暴れるわよぉ♪」

 「あんた……アイドルなんだから怪我したら大変よ?」

 「ふふん、ダメになった時はその時はその時よぅ。お金は稼いでいるし、ね」

 「よーし、それじゃ決着をつけようね!」

 「くおーん!」

 

 最後に可愛らしいアッシュの雄たけびを聞いて苦笑しつつ、私達は訓練場へ急いだ――

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