第五百七十七話 導かれる友人達


 「今のは一体なんです? リューゼ君、来ていたんですね」

 「レッツェルか! 国王夫妻と悪魔達が……」


 騒ぎを聞きつけたのか、どこからともなく謁見の間に現れたレッツェルに状況を説明する俺。

 しかし、当の俺達もなにがなにやらという感じなので本当に現状だけだが。

 

 「……これは……。悪魔達はまだ分かりますが、夫妻までとは……」

 「どういうこった?」

 「悪魔達はアポスとの契約でこの世界に呼ばれた存在です。彼がその気になれば悪魔達は還すことができるので、ラース君が向こうで我々の正体を伝えて、裏切者としてバチカル達のことが発覚したということでしょう。しかし、夫妻はどうして……」


 そこだけは分からないと首を振るレッツェルに、バチカルが生気のない目を開けてからたどたどしく口を開く。


 『ぐ……ぬ……アポスめ……強制送還の儀ではなく……我々の魂を使った……ようだ』

 「魂だと? おい、ラース達は大丈夫なんだろうな?」

 『わ、からん……追い詰められたなら我々を還す理由が見当たらない……』

 「ふむ……」

 「どうした?」


 俺達が会話をする中、レッツェルが顎に手を当ててなにか考える仕草を見せたので尋ねてみると、憶測ではあるがと前置きをしてから告げる。


 「これはもしかしたらラース君の持っていた『賢者の魂』を取られて使われた可能性がありますね」

 「……! それは、トレント討伐で手に入れたアレかい? ……あたしが使ったってのもあったか」

 「ええ」

 「俺達にも分かるように頼む」


 レッツェルが言うには魔物が死んだ時、特殊な条件下で生成される石で魂を封じ込めたものらしい。

 それを使うとファスさんが若返ったように『なにかしら』その人にとって必要なものが補填されるのだとか。

 曰く、ファスさんは老いた体で福音の降臨と悪魔達……リリスと手を合わせた時点で力不足を感じていたことを石が読み取ったからだと。


 「じゃあアポスが欲しているものが手に入り、そのため悪魔の魂を……? でも、その場に居ないのにできるんですか?」

 「それは私にも分かりません。なにせ賢者の石に関する情報は殆んどありませんからね。言えることはラース君が勝つか負けるか、それだけでしょう」

 『ぐ……どうやらここまでか……。色々、この世界の人間には迷惑をかけたな……この体、今こそ返そう――』

 「おい、バチカル」

 『ラースによろしく頼む。あいつとはもう一度戦い――』


 バチカルはそれだけ言うと目を閉じ、それから浅い息を始めた。

 どうやら死んだわけでは無いので、エバーライドの人に身体が返されたということのようだ。


 「こいつらも駒か。可哀想なもんだな」

 「そうね……。こっちの二人なんて、出てきた瞬間殺されちゃったわけだし……」


 ナルがもうなんか名前を忘れそうな二人の悪魔に同情の目を向ける。

 アポスを主として認識していたのにも関わらずこの仕打ちはナルでなくともむごいと感じるぜ……。


 「しかしどうする? 陛下と王妃様が亡くなられたのに王子が生き残っているのも腑に落ちんが……」

 「今、見ましたが福音の降臨信者に入れる刺青がありましたね。悪魔の魂と一緒に邪魔者を排除したのかもしれません。王子が残っているのは後々、傀儡として国をいいようにするつもりだからだと推測できますね」

 「チッ、俺の手で国王は葬りたかったが……仕方ねえな……」

 「それよりラースのことだよ。砦とやらに向かった方がいいんじゃないのかい?」

 

 ファスさんが苛立ちながらそう口にし、俺もその意見には賛成だと頷く。


 「だな、間に合うかは微妙だけど行かないよりいいだろ!」

 「ですね。ここはヒッツライトさん、あなたに任せてもいいでしょうか? 福音の降臨、アポスが謀反を起こし、十神者を使って夫妻を殺した。で、それを察知した我々が倒したというシナリオで」

 「わ、分かった。エリュシュ王女もラース君と一緒に居る、できれば無事に連れて帰ってくれるとありがたい」

 「あ、姉上は生きているのか!?」

 「分かりませんが……アポスの手にかかっていなければ……」

 「た、頼む、姉上が死んだら俺は一人だ! た、助けてくれ!」

 「できれば、というところですかね。では行きましょう、飛ばしても丸一日かかりますからね」


 俺達はレッツェルの提案ですぐに移動することになった。肩透かしを食らった形だけど、一歩先へ進むことが出来た。


 「さて、間に合うといいけどな……!」

 

 ◆ ◇ ◆


 ――エバーライド宿屋――


 「退屈だねぇセフィロちゃん」

 「うんー。ラース兄ちゃんに会いたいよ」

 「うんうん。アイナちゃんとトリム君とも遊びたいねー」

 「ねー。アッシュ、元気かなあ」


 窓際で外を見ながら退屈そうに並ぶ二人を見て私は苦笑しながら声をかける。


 「ふふ、仲がいいわね。……もうすぐ終わってみんな帰ってくるわよ」

 「そうだねルシエールおねえちゃん! そういえばママは?」

 「みんなで情報収集と移動販売をしに行っているわよ。お昼には帰って来るんじゃないかな? 私と遊ぼうか?」

 「はーい!」

 「子供は元気だなあ」


 そう言って本から目を離してセフィロちゃん達に目を向けるヨグス君。

 ここには私とセフィロちゃんとティリアちゃん、ヨグス君とウルカ君が残っている。隣の部屋にはウインドドラゴンのヴィンシュが居るのでいざという時は逃げ切れるようにしている。

 

 けど、この町はそんな戦闘行為とは無縁で、移動馬車で販売をしていても他国の人間ということで警戒されたりはせず、普通にしてくれる人が多い。

 ベリアース王国の兵士さんもやる気がないと言うか、危機感はあまり感じられない。

 むしろ、他国だからやる気がないのかもしれないとはヨグス君の言葉だ。


 「私達も小さい頃はこんな感じだったじゃない」

 「それはラースやリューゼだろ? あ、ジャックもか。僕とウルカはそうでもなかったと思うけど?」

 「対抗戦の時は張り切っていたと思うけどねえ」

 「それを言ったらお前も【霊術】が凄かったと思うけどな」


 ウルカ君とヨグス君が学院時代の話を始めて、私は顔が綻ぶ。

 あの頃は楽しかったなあ……みんなが居てわいわい騒いで……またみんなで一緒になにかできるといいなあ。


 そんなことを考えていたその時――


 「……!」

 「? どうしたのセフィロちゃん?」

 「……いか、ないと……」

 「え?」


 急にセフィロちゃんがガクリと頭を落とし、ぶつぶつと呟きだし、フラフラと歩いていく。


 「ど、どうしたの? ほら、そろそろ夕方だし、みんな帰ってくるから座っていようね」

 「ダメ……イカナキャ……」

 「きゃ……」

 「ルシエール!」

 「どうしたんだいセフィロ? ……くっ……凄い力だ」


 私を突き飛ばして尚も進む彼女をウルカ君が止める。

 だけど、それすらも振り切り、セフィロちゃんは宿を出て行った。


 「大変、追いかけないと……!」

 「僕が先行するよ、ヨグスはベルナ先生を。ルシエールはヴィンシュに声をかけて! オオグレさん!」

 

 何がどうなっているの?

 呆然として居られないと、私たちは一度、全員で集まってから話をする。


 「……気になるね。あの子はトレントだと言っていたし、なにかあるのかもしれない。僕は戦力にならないから残った方がいいかな」

 「はい。レオールさんには屋台をお願いしたいです」

 「ルシエールちゃんは残ってもいいのよぅ?」

 「……いえ、ティリアちゃんを連れて行くなら私も行きます」

 <大丈夫ですわ、わたくしとヴィンシュが居ますし。その馬車は迂闊に動かさない方が良さそうなので、お留守番を>

「急げ、ウルカに追いつくぞ!」


 ジャック君の言葉に頷き、ヴィンシュとシャルルちゃんの背に乗って舞い上がる私達。

 ちょっと下が騒ぎになっていたけど、急ぐから勘弁して欲しい……


 「どこへ行ったんだ……?」

 <ウルカは見つけた、回収して行方を追おう>


 とんでもない速さで走っているらしいセフィロちゃんは真っすぐどこかへ向かっているらしく、すぐに追いついた。

 いったいなんだろう?

 私はとても嫌な予感を覚えながら、眼下のセフィロちゃんを見るのだった――

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